仮面下の顔
おまたせしました
「…あ〜あ、まじかよ」
ロボが去った後、俺は仮面をいじりながらゴロンと床に寝転んだ。
「意外な刑罰でしたね。地獄と言うのはこんなにも生温いのですか?」
俺の代わりに『究極の闇』についてロボに説明してくれた始まりを司る闇は俺に寄り添ってそう言う。俺はジッと壁や天井のシミに目をやりながら言われた刑を受ける。
「お前の刑罰についてだがな…『その拘束器具を付けたまま2年間、牢獄の中にいろ』ってことだ。脱獄したら俺がまた止めてやるよ」
「…はぁ? おいおい、お前頭悪りぃのか? 自分で言うのも何だが、俺は超が付くほどの大罪人だぞ。それに新しい家族まで出来たんだ、しかも主食は人間と来たもんだ」
話に参加していた始まりを司る闇を見ながら俺はそう言った。アダムは片方の頰に手のひら型の真っ赤な跡を付けながら俺の隣に座り、まだ『究極の闇』の力の理解に疎い俺に代わって、ロボに俺が不利にならない程度に色々教えてくれていたのだ。
そんなアダムを始め、娘達の主食は人間の肉だ。先ほど娘達を抱いて回った際、その多くが人の肉を喰いたいと言ったのだ。何で人の肉がいいんだって死肉を司る闇に聞いたら、
「だっとぅぇ…ご主人様も好きでしぉ? むぁあ、あたちは腐ってからがご馳走だけどぉね」
って死臭ぷんぷんに返された。別に俺は人肉なんて好きじゃないけど…でもどんな味がするかは何となく想像出来る。実際に人を何百と喰べたらしいし。
と、俺は自分の危険度をアピールしたが、結局ロボはその刑を執行した。
「そんなこと俺が知るかよ。上がそう判断したんなら、俺はそれに従うだけだ。まぁ、お前も察しろ。上のやつらはもう俺らに関わり合いたくないんだよ。こんな規格外の怪物共なんてさ」
「それでこんなチンケな拘束器具に加え、2年間大人しくしてろってか? バカじゃね?」
「知らん知らん、そんな文句言われても俺にはどうしようも出来ねぇし」
ロボは嫌そうにそう言いながら立ち去ろうとした。ロボの上にいるやつって言えば、今の今まで俺をずっと牢獄に閉じ込めさせていたやつらだ。だのに今更どんな風の吹きまわしだろうか。別にあと2年閉じこもってるだけで俺の刑が終わるならそれに越したことは無いが、いざ具体的な数字を言われると何か落ち着かない。『究極の闇』に目覚めてすぐとなれば尚更だ。
「まっ、あと2年の刑罰くらい受けてやるさ。俺を自由にしたらどうなるか、そのちっさな脳回してよぉく考えとけって上のやつらに言っとけ」
「ふん、俺が言ったところでどうせ変わらんさ。上のやつらはさっさとお前を地獄から追い出したいんだからな。そうと分かれば可愛い娘達の相手でもしてろ」
ロボはそう揶揄ってから牢を出ると、ガチンッと鍵を閉めた。そんなのもう意味ないっつうのによくやるよ。
そして時は戻り、俺は106の娘達を影の中感じながら、それを背にして寝転んでいた。その1人である始まりを司る闇は俺の横に座り、話し相手になってくれる。
「にしても、ご主人様はつくづく変わったお方ですね。そんな仮面で顔を隠すなんて」
始まりを司る闇は目を少し細めてそう言った、まるで子供と会話する母親みたいに。
「…だって恐怖を司る闇が言ってただろ? 本気でこの力を振る舞った時、俺の顔はこの世の何よりも恐ろしくなるってさ」
「そうですね、ご主人様が『究極の闇』の力を本気で使えば、あの破壊神に同等の力になり得るでしょう」
始まりを司る闇はそう言うけど、俺はいまひとつそれが信じられなかった。だって能力は増えても、単純なパワーは『金色になる力』よりも弱くなってるし。
そんな力が破壊神になり得るって…つか、何で破壊神なのかも分からないし。
「でもさ、俺がそんな怖い顔になっちゃったら娘達が怖がっちゃうかもだろ? お前はどうか知らんけど、幼さを司る闇とか甘えを司る闇とかは絶対怖がっちゃうと思うんだよね。そうでなくとも怖い顔した親なんてお前ら嫌だろ?」
俺は始まりを司る闇にそう言った。破壊神と同等の力を持っても、それで娘達を怖がらせるのは嫌だからな。そう言うとアダムは考えるように俯いてしまった。そして、
「……ふふっ、ご主人様は本当に変わっておられますね。本来はただの力の概念に過ぎない私達に心などというものをお与えになり、さらには1人1人に名前などというものを授けになるとは。それに私達のことを家族と呼ぶなどと……実に面白いです」
と笑って言った。
「ふんっ、名前を付けたのは番号で呼び合わせたくなかっただけだ。それに家族っつても母親なんていねぇぞ? ろくでなしの父親1人に107人の娘っつぅ家族構成なんだから」
「そうですね、私達のご主人様はとんでもないろくでなしでございます」
「おいおい、そこは肯定すんのかよ」
出会った時も思ったが、どうも始まりを司る闇は口が悪い。猛毒を司る闇や痛みを司る闇じゃないんだから、もっと言葉の毒や痛みを抜いて欲しいものだ。と言おうとすると、
「ですが、私達のご主人様にふさわしいお方でございます。破壊神のごとく力強く、残忍残酷極悪非道、そして何より私達を思って下さる故、未来永劫お仕えするのに何の逡巡もございません」
と上から被せられてしまった。何か褒められてんのかけなされてんのか分からんけど、でも俺への忠誠心は本物っぽそうだ。
「おっ、おお。被せて来たなぁ。つかさっきから破壊神破壊神言うなし。そんな破壊神になり得る力ですって言われても、パッと想像出来ねぇよ」
俺は仮面の下から困り顔で始まりを司る闇に言う。さっきからアダムはこの力と破壊神がどうたらこうたらと何度も言っているのだ。そんな名前だけ何か強そうな存在と比較されても、全然凄みが伝わって来ない。破壊と言えば娘に、破壊を司る闇と破壊欲を司る闇がいるけど、あの2人は別にそこまで強くない。そう考えると、破壊神ってそんなに強くないのかもって思っちゃうじゃないか。
そう思いつつアダムの方を見るが、
「…っ?」
「…えっ、何その『何で知らないの』って顔」
キョトンと首を傾げ、不思議そうに俺の話を聞いていた。
「え、ご主人様、まさか『破壊神』をご存知無いのですか?」
「い、いや別に知らんよ。つか何なんだよ破壊神って」
聞き慣れないワードに俺は困惑するが、それ以上に始まりを司る闇は俺がそれを知らないということに困惑していた。アダム達の中では『破壊神』は有名なやつなのだろうか?
「…まさか本当にご存知無いとは…神話を聞いたり、読んだこともないのですか?」
「無いよ、んなの。始まりを司る闇達の中では有名ならやつなのか?」
「有名も何も…破壊神はかつて世界を破滅寸前にまで追い込んだことのある最恐最悪の神ですよ?」
「へぇ、んなこと言われても分からんものは分からんよ。ま、聞くだけなら強そうなやつっぽいけど、俺がその力に目覚めてこれだからなぁ」
俺の台詞に始まりを司る闇は動揺を隠せないようだ。でも名前も知らない強い神って言われても、漠然とし過ぎてて想像なんて出来やしない。俺は困惑するアダムをなだめようと別の話題を切り出そうと、ガバッと寝そべらせていた体を持ち上げた。
すると、
トントンッ
「んぁ? どうした、腕を司る闇」
影から腕を司る闇の腕が飛び出し、俺の背中をトントンッと突っついた。その顔から察するに何か事件が起きたようだ。
「その…タプロッツがまた消えて、ヒュー・ロリェヴァのいたずらがグーテ=クシャナの怒りに触れて、ギュルガ=ガミンとイューティルが腹減った言うて暴動起こしてますっ」
「わお」
想像以上に事件が起きていた。これは始まりを司る闇に破壊神がどうのこうのなどと話している暇はない。
「影を司る闇、空間を司る闇っ」
「はーい」
「はいよ」
「自由を司る闇がまた消えた言うから探して来て。始まりを司る闇、行くよ」
俺はすかさず娘達を呼び出し、迷子になった娘の捜索を頼む。そして俺は娘達の喧嘩を止めに行かなきゃならない。
(やれやれ…こりゃ大変だなぁ)
これからずっとこんな日々が続くと思うと……
「ふんっ…」
悪くない。
次回の投稿もお楽しみに




