魔神の根源
おまたせしました
「…分かった、切るぞ」
ぷっ
「はぁ〜」
ロボとの通話を切り、俺はリビングの机にぐてんと体を乗せる。話を聞くに、央力は不死身不老不死、そして数多くの能力を持った存在を生んだとのことだ。ロボや央力曰く、身体的にはそこまで強くなって無いと言っている。だが今の俺に無い力を央力が手に入れたってなると、羨ましいっつぅか嫉妬みたいなのがムクムクッと湧いて来てしまう。
「どしたの穏雅、そんなふくれっ面して」
「…別に。嫉妬なんかしてねぇし」
「はぁ? 急に何言い出すの? あっ、いよいよ日々のストレスで狂ったか」
「んな馬鹿な」
美奈はそんな風に言い、べっと舌を出して揶揄っている仕草を見せた。そんな彼女を見ると羨んでいる自分が馬鹿馬鹿しく思えて来てしまい、思考を停止させてしまうから困る。
何せ央力が新しい力に目覚め、俺やロボなどいつでも挑みに来れ、さらに他の受刑者にまで牙を剥かんとしている状況だ。そんな超ヤバイ罪人を刑期2年で済ますってのは分かるっちゃ分かる、けど何か腑に落ちない。そんなら俺達が頑張って来た約100年は何だったんだって思っちゃう。まぁ、100年の間に誰も勝てなさそうな力を俺達が持っちゃったってのが原因なんだけどさ。
「ふぁあ…そんじゃ、私もう寝るね〜。清も寝ちゃったし…」
「ん、おやすみ。俺も歯磨いたら寝るわ」
美奈は大きな欠伸と共に寝室へと這って行った。時計の針が刺す時刻からして俺もそろそろ寝なくてはなるまい。と、その前に歯を磨いておかないと虫歯になる。
俺は台所で歯磨きをしながら、央力が目覚めたという『究極の闇』とやらについて考えを巡らせていた。ロボの話を聞く限りでは、不死身、不老不死、そして無限の再生能力が央力の主な能力のようだ。
しかし問題となるのは央力の娘達だ。1人1人がそれぞれ別々の能力を持ち、1番強いやつなんかは『金の瞳の戦士』並かそれ以上という。実際そうなのかはやってみなきゃ分かんないし、話をしていたのもアダムっていう央力の娘らしいから多少の誇張とか脅しは入ってるかもしれない。
けれどそのことをロボは本気なトーンで話して来たし、そのアダムってやつも相当な強さを感じさせるやつだったとのことだ。そんなやつがあと106もいるとなると頭が痛くなる。しかもあんなやつに忠誠を誓ってんだから尚更だ。
だが1番引っかかるのは『究極の闇』って単語だ。『闇』っていう付けるのが何か妙に抽象的だし、それに不死身、不老不死、再生能力が備わるのも支離滅裂過ぎる。
何より、その名の中に『究極』って単語が入っているのも気になる。俺もまた同じように『究極生命体』と『究極』の名を冠している存在だ。自分で言うのも何だが、その名に恥じぬほどの爆発的な身体能力の向上に加え、全生物の能力を携えかつそれを上回っている。
何故か分からないがツノが生えて必ず髪が白色化するけど、それでも『黄金の戦士』に劣らないくらい強い力だ。いや30分だけでも全生物の能力が使える分、『究極生命体』の方が総合的に見て上かもしれない。
そんな同じ名が付く力が、まさか不死身、不老不死、再生能力だけで終わるはずがない。きっと央力や娘が語らなかったことの中に、絶対何かあるはずだ。不死身や不老不死なんか比にならないくらい、絶大な何かが。
書物にあった同じ魔神の力を持つ者を喰らうことで目覚める新たな力ってのも、今回央力が目覚めた力ともきっと関係があるはずだ。魔神の力に関してまだ知らないこと、『金の瞳の戦士』、『黄金の戦士』に加え『究極の闇』という『魔神の力』をもっと調べなくてはならない。
そう思った俺はその日の仕事を少し早めに切り上げ、『知識の集合場所』で『魔神の力』に関する情報を集めた。
「ふぅむ…なるほど」
俺は魔神に関する書物を1ページ1ページめくりながら情報を集める。しかしかつて俺が『金の瞳の戦士』以上の力、今で言う『黄金の戦士』になるために1行1行を漁っていた手つきでは無く、『魔神の力』の歴史やその根源について調べていた。そうして調べていくうちに中々興味深いものを見つけた。
「『魔神』はかつての破壊神が生み出したもの…か、へぇ、知らなかった」
自分や央力が持っている『魔神の力』とはかつて破壊神が生み出した力とそこにはあった。さらに読んでいくと、その破壊神は封印される前にありとあらゆる生物に『魔神の力』と称した破壊の力を植え付けたとある。その力を持った者は他者を傷つけ、潰し、喰らい、滅するのに何の躊躇いも無くなり、欲望のままに破壊の限りを尽くすと言う。
現にかつての俺や『金の瞳の戦士』になりたての俺が殴ること、そしてぐちゃぐちゃに潰れた相手の顔を見下すことに快感を覚えていたから、書いてあることは真実なのだろう。何故破壊神が『魔神の力』を生み出したのか。『金の瞳』、『黄金』、そして『究極の闇』と形態があるのか。
何より、『究極の闇』だけ他と比べて異質過ぎるのが気になる。
しかしその件に関しては書物に載っていなかったし、そもそも『黄金の戦士』と『究極の闇』の名前自体無かった。もしかしたら特別な存在として別の書物に載っているのかもしれないが、そうなると数ある神話の中から探し出さなくてはならなくなるから、さらに時間が必要になる。
加えて書物に書かれてる文字も見慣れないの言語が半分近くを占めているから、破壊神が魔神を生み出したってのを読み取るのも一苦労なのだ。たったこれだけを知るのに大半の時間を持ってかれたのに、神話何か読んだら1つ終わるのに何日かかるか分かったもんじゃない。知りたくば翻訳されたものか、簡略化されて物を読む以外無いのだ。
俺は書物を静かに棚に戻すと、知識の集合場所を出て我が家への帰路を急いだ。
翌日、今日も俺は大鎌片手にえっちらおっちら歩いては霊魂を切り裂いていた。こんなぬるま湯に浸かるみたいなことをしてる内に、央力は新たな力を手に入れた。そしてそれを止めるべく、ロボもまた更なる力を開発するだろう。
もちろん俺はもう部外者だから、わざわざ首突っ込んで一緒に強くなる何てことをする必要は無い。処刑執行人は処刑執行人、死神は死神としてそれぞれ与えられた職務を遂行する力を手に入れればいいだけ。死神に『黄金の戦士』以上の力が求められ無いのなら、強くなる必要はないのだ。
かつて何度も死闘を繰り広げた相手が強くなっていくのを指咥えて見つめながら。
「はぁ〜」
そう考えるとついついため息が漏れてしまう。今この場に俺の敵はいない、つまり無敵に等しい状況なのに、何でこんなに肩が重いんだろう。もう関係ない何度も戦った敵が強くなったところで…。
ゾクッ!!!
「…っ!?」
今何が起こったのか、自分でも全く分からなかった。ただ肛門に氷柱をズボッと入れられたかのような悪寒がスケートの刃みたくスルンッと走ったのだ。まさしく圧倒的強者が弱者に与える気迫。殺気とはまた違う何か、年端もいかない子供が飛蝗の脚を全部毟って土に埋めるみたく、力の差により起きる残酷な遊戯。
しかしそれをただのガキがやったところで、ここまで巨大な悪寒を走らせることは無い。
つまりこれは絶大な力を持った何かによるものだ。俺はその悪寒にしばらく動けずにいたが、もしもこれで死者が出たら死神として見過ごすわけにはいかないと脚を前にしてしまう。それにここまで恐怖を感じるものにはそれ以上の好奇心が生まれてしまうものだから、追い風となって背中をずんずん押していくのだ。
そしてその場に辿り着くと、そこには未だかつて感じたことのない神気の残り香があった。その場で発したものではなく、それを放出したあとの残りだ。つまり今ここにいたのは、自分らの想像を遥かに超えたやつってわけだ。そんなわけ分かんない存在を恐れながら俺は辺りを見回していると、
「ぬぅ…ぐっ…ゴハッ…」
「…」
何やら低くおぞましい声が響いて来た。
次回の投稿もお楽しみに




