娘達のいたずら
お待たせしました
時は遡り究極の闇の中では、産まれた闇達が集って央力の体を眺めていた。
ドクッ…ドクッ…
央力の体は切断された首の断面からドブドブと液体状の闇が入っていく。その液体の流れを作っているのはもちろん『水を司る闇』ことナテニティだ。究極の闇をまだ『人間』が残っている主人の体に注入し、不死身にするために根本から作り変えているのだ。
そんな央力の体を見つめながら闇達は暇を持て余していた。今『究極の闇』の力のほとんどは体を作り変えることに使ってしまっているから、外に出ることはおろか大半の者は力を使えない状態なのだ。何せ央力が娘達と呼ぶ存在は元々心や自我など持たない、ただの『力』そのものなのだから。そんな中、誰よりも早く生まれ最も主人の側に立っていた『始まりを司る闇』もといアダムは主人の体にそっと触れながら変わりゆく様を眺めていた。
「にしてもご主人様の肉体は本当にたくましいですね。こんなに頑丈な肉体はそうそうありませんよ」
「うんうん、こういう肉は筋肉が詰まってる分美味いんだけど、何せ下処理や切るのが大変なんだよね」
「そンな時はワタシニお任セっ! 色ンな武器作ルよッ!」
始まりを司る闇の会話に入って来たのは、エプロンにトックブランシュといういかにも料理人という姿をした『食を司る闇』ことメルク・ミルュク。そしてカラクリ人形のようにギクシャクと動き、その体には多彩な道具を隠し持っている『道具を司る闇』、デビュヲートだ。
メルク・ミルュクは主人の体を包丁片手に眺めながら、食に出すにはどのような処理をすべきかと考えている。たしかに央力の肉体は敵を殺すためだけに鍛えられているから、人間の限界などすでに超えた筋肉や骨格が形成されている。もしも主人の肉を処理することになったら並大抵の包丁では文字通り歯が立たないだろう。そんな時はこのワタシにお任せとデビュヲートはドンっと胸を張った。
そんなデビュヲートを横目にアダムはジッと主人の体の完成を待っていると、
「おぉっ! これがご主人様の肉体ッスか! いやぁ、やっぱご主人様は凄いッス!」
と後ろから目をキラキラ輝かせて力を司る闇がやって来た。グロリッサも『力を司る闇』として全体的にガッシリと肉が付いているが、その目に映る主人の体は憧れそのものなのだろう。すると他にも暇してる闇達がゾロゾロと主人の肉体に集まって来る。
「これがご主人様の体…すんごぉい…」
雷を司る闇はパチパチと稲妻状になった髪をスパークさせながら体を眺める。
「こう見るとご主人様ってほんっとチビなのね。何か頼りないわ」
「そぅかぁ? 姉ちゃんと比べたらたしかにちゃっちいけど、はやかから見ればでっかいぞ!」
「は…はたし…も…」
植物系三姉妹は各々の感想を述べながら主人の体をみつめる。長女である植物を司る闇は辛辣な言葉と共に目を細め、次女である草花を司る闇と三女の若草を司る闇は姉の体に引っ付きながら言った。
「そんなこと言うもんじゃないぞ、うく達のご主人様を」
「あら、私は見た目に思ったことをそのまま言っただけよ。ご主人様が強いのはちゃんと理解してるつもりだけど?」
すると植物を司る闇の前に猛毒を司る闇が敵意と猛毒を剥き出しにして立った。その目にはグーテ=クシャナに対する強い怒りが込められ、それを表すかのようにぶわりと猛毒が空気中に撒き散らされる。
しかしグーテ=クシャナも一切引く態度は見せず、クッと顎を上げて反抗する。
「その割には結構反抗的な態度取ってたらしいじゃないか」
「そうかしら? ちゃんと忠誠は誓ってるわよ。それとも貴方の目が悪いんじゃないかしら? はたまた被害妄想が激しいとか…」
「喧嘩なら買うぞ…」
「あらあら、随分喧嘩っ早いのね。私は穏やかに済ませようと思ってたけど…まぁ、やるってんなら相手になったげる」
睨み合う植物と猛毒。グーテ=クシャナはメキメキと足元に根を巡らせハエトリグサのような形状をした植物を生やし、テイストゥ=ドゥーラはブシュウッと体から猛毒ガスを放出する。するとそのガスにわずかに触れたツルの一部が腐るようにして溶け、見るも無残な液体に変わってしまった。
「言っとくけど、うくの毒を吸い込んだらその植物みたく腐って死ぬからね。うくの側に立ったら終わりだから」
「ふっ、私を舐めてるのかしら? わざわざ手の内を明かすなんて、馬鹿のすることよ。もしかして自分の毒で自分の頭の中まで腐っちゃったのかしら?」
「…遺言はそれでいいのか? 直に何もかも腐って喋れなくなるんだぞ?」
「貴方こそ遺言はそれでいいの? こんなつまらない遺言をご主人様が聞いたらさぞ呆れることでしょうね」
両者の火花はパチパチと飛び交う。その火花は雷を司る闇がムシャムシャと口の中に放り込んでは、尖った髪をスパークさせて場の演出を盛り上げる。
そしていざ姉妹喧嘩が始まろうとしたその時、
「ちょっと待つッス。まだご主人様の肉体が完成してないのに喧嘩なんてしたら、完成するものもいつまでもしないッスよ」
と力を司る闇が間に入った。その前にグーテ=クシャナもテイストゥ=ドゥーラも大人しく引き下がり、お互いプイッとそっぽを向く。
「まったく…完成もしてないのに姉妹喧嘩なんてどうかしてるッス」
「流石は『力』ね。何となく思ってたけど、貴方が1番強いんじゃないかしら?」
「まっさかぁ、んなわけ無いッスよ。ご主人様には勝てないと思ってるッス」
「意外と控えめなのね…」
場を鎮めたグロリッサにアダムは近づいて話しかけた。アダムの中ではグロリッサが1番強いのではと話すが、グロリッサはそんなことないと謙虚に断った。グロリッサの中ではご主人様が最強だと思っているらしい。
そしてグロリッサは最強の肉体を改めて眺めると、尊奉の眼差しを送りながらスルッと指で撫でる。その感触は肉とは思えぬ硬さであり、それがグロリッサの好奇心をグリグリとくすぐった。
「ねぇ…アダム。ちょっとやってみたいことがあるんスけど…」
「ふぅん、よく分かんないけどやってみたら? もうご主人様の体は不死身にはなってるようだし」
「うん、分かったッス」
グロリッサはそう言うとふぅ〜っと深く息を吐いて主人の体の前に立つ。
「…っ!」
「シィー…」
その背をアダムは見ていると、近くに興味を司る闇がいるのを見つけた。ラッピルィーニャは口に指を当ててシィーッと合図すると、アダムは何かを察したようでコクッと頷く。どうやらグロリッサの興味をラッピルィーニャが最大限に引き出しているようだ。
そしてグロリッサははぁあっと気合いを入れ、脚にググッと力を入れると…
「でやぁっ!!」
ガゴォンッ!!
と勢いよく主人の股間を蹴り飛ばした。
シィィイイン…
しかしご主人様の体は痛がる素振りなどまるで見せず、まるでそれは攻撃かと言っているようだった。
「なっ…なんて体ッスか。流石はご主人様…」
その体を前にグロリッサは唖然としつつも尊奉の眼差しを送り、まだまだ自分が未熟であることを思い知っているようだった。そして蹴り飛ばした右足をふるふると振ってから満足したように立つと、
「じゃあ私はこれで失礼するッス。修行しなきゃッスからね」
「えぇ、いってらっしゃい」
グロリッサは満足気にそう言いながらその場を去った。その力への際限ない飢えは、グロリッサが『力を司る闇』であることをその場にいた闇全員に知らしめる。
それと同時に強い力を持っている闇達に、今の自分がどれだけ強いか知りたいという興味を植え付けさせてしまった。
その興味に惹かれ、ラッピルィーニャはその力を振るう。
興味を刺激された闇達はその力を発揮しながら、自分達が慕うご主人様の肉体へと向かう。
――
「はぁ…はぁ…何か…嫌な予感がして来た…」
「?」
そんな娘達をまったく把握出来てないご主人様もとい央力は顔をしかしめながらそう呟いた。
次回の投稿もお楽しみに




