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二章 最初の秘密



 一夜明け、昨夜の残り物で二人分の朝食を作った。

「美味しい?」

「カロリー的には最適値に近いです。ミネラルとビタミンは不足気味ですが」

「だろうね」彼女らしい解答だ。「買い出しでフルーツも貰ってくるよ。他に何か必要な物はある?」

「特に無いわ」

 留守を任せ、朝の商店街へ出掛ける。いつも行くマーケットで三日分の食料と新鮮なオレンジを買い、買い物籠の重量で両腕に悲鳴を上げさせながら帰路に着く。

 食材を冷蔵庫に入れていると、玄関チャイムが鳴った。開けた途端、頬に熱が集まるのをはっきり感じる。――クレオ・ランバートさん、私の初恋の人。彼の後ろには、二十代前半の僅かに白っぽい茶髪の男性が立っていた。見ない顔だけど、クレオさんの友達かな?

 彼は謝りながら昨晩姉が大怪我を負い、治療のために義父が病院へ連れて行き、しばらく戻って来られないと告げた。ひたすら頭を下げ続ける彼を、お姉ちゃんなら大丈夫です、私の事も心配しないで、精一杯の言葉で慰めた。でないと繊細で優しい彼だ、際限無く自分を責めてしまうに違いない。

 彼等が帰った後、お惣菜のカツサンドとカットオレンジを摘みつつ、図書館で借りている機械工学の本を読む。が、矢張り姉が心配で頭に入って来ない。彼のあの慌て振り、惚れている事を鑑みても多分並の怪我ではないのだろう。

(死なない……よね、まさか)

 小さい頃から何度かあった事だけど、今回は何時になく不安が込み上げた。

 少女は私作の機械が気に入ったのか、工作室から持ち出してきた未完成の護身銃を眺めている。魔力を使わない普通の銃で、着弾すると神経を麻痺させる微弱な電流を数十秒間放出させる。

「いい?」

「どうしたの?」

 彼女は銃身のシリンダーを開け、「回転部分に若干の不具合が認められます。実弾を装填する前に調整が必要」言ってまた何処からか紙とペンを取り出し、銃の極めて詳細な構造図(まるでコンピューターで作成したかのような!)に矢印で修正箇所を書いた。ほんの〇・〇数ミリの指示。

「こうしたらいいの?」

「実戦で使用するならば」

「分かった。でもちょっと研削が難しいかな。工作室まで付いて来てくれる?手伝って欲しいの」

「ええ」

 予想通り彼女は最高の助手だった。私のやすり掛けに対し、冷静に角度や力加減を指示してくれる。OKを貰ってシリンダーを数回転させてみると、確かに前より格段に滑らか。もし以前ので撃っていたら詰まって暴発していたかも。

「ありがとう。大分軽くなった」

「でしょうね。でも、あなたの技術レベルは高いわ。エレミアの機械工学はより上でしたが、ランバート技師の自殺を最後に滅亡した……最高傑作を遺して」

「クレオさんの……お母さんの事、よね?」姉から彼の素性については事前に聞いていた。「ねえ、どうして自分から死を?折角クレオさんを作ったのに」

「さあ?私は生前の彼女に会った事が無く、システムには自殺の心理も理解出来ない」

「そう、よね……」

 遺して逝くぐらいなら、最初から息子の代用品なんて作らなければ良かったのに。何も分からず一人ぼっちで目覚めたクレオさんが可哀相。

 銃を置いてリビングに戻り、私達はまた別々の作業を始めた。彼女はソファで別の本に目を通し、私はキッチンの掃除。古くなった食料品を廃棄し、冷蔵庫やコンロを拭き清める。普段からお姉ちゃんが綺麗にしてて余り変わらないけれど、やっぱり磨き立ては輝きが違う。

「ふぅ」

 自分で掃除なんて何ヶ月振りだろう。この調子で工作室も整理しようかな?また何時入院するか分からないし。


 ピンポーン!「リサちゃん、いる~?」


「人間発電機が来たみたいよ」

「デイシーちゃん!?ちょ、ちょっと待って!」

 少女の呟きには答えず、私は急いで玄関ドアを開ける。親友は洋菓子店の白い箱を持ち、満面の笑みで立っていた。

「こんにちは~。リサちゃん、午後の一時のお供に甘い物は如何ですか~?『ルイ・キャンディ』の限定シュークリームだよ~」

「え!?ど、どうしたのそれ?いつも午前中には売り切れているのに」

「休暇明け祝いに新聞社で貰ったの~。沢山あるから好きなだけ取ってね~」

 パカッ。一、二……十二個もある。少し多めに貰っても大丈夫そうだ。

「じゃあ二個頂戴」

「いいよ~。リサちゃん、もしかしてお腹空いてるの~?お昼ご飯ちゃんと食べた~?」

「う、うん。カツサンドとオレンジを。でもこれ、美味しそうだから二個ぐらいペロッといけちゃうよ」

 昨日から私、嘘ばっかり吐いてる。デイシーちゃんは一番の親友だし、思い切って本当の事言っちゃう?でも、折角生まれかけたあの子との信頼はとても裏切れない。

 一旦キッチンへ行き、お皿を持って再び戻る。少女は毛布と一緒にソファの陰で座って隠れていた。

 親友は眼鏡の奥の淡い蒼碧色の目を左右させ、玄関からリビングの方を見ている。

「お待たせデイシーちゃん。どうしたの?ゴミでも落ちてる?」

「リサちゃん、もしかしてお昼寝中だった~?」革ソファに置いてあるタオルケットを指差す。「あれ~?でもあっちって確か硬い方だよね~?どうして向こうで寝ないの~?」

「ううん。勿論寝たのは柔らかい方よ。起きた時偶々あっちに置いただけ」

「枕も~?」

「うん。寝惚けて移動させたみたい」

 更に首を伸ばす。

「あれ、あっちのソファには毛布もあるね~。今日もそこそこ暑いのに、一人で二枚使ってた~?う~ん、でも熱があるようには見えないけどな~?」

 これはかなり拙い。何とか誤魔化さなきゃ!

「毛布は今朝洗って、さっき取り込んだばかりなの。暑くなってきたし、しばらくは使わないでしょ?」

「そうだね~。私の所もそろそろ片付けなきゃ~」

 良かった、どうやら納得してくれたようだ。デイシーちゃんは覗き込むのを止め、また機械いじりに夢中になってたの~?シルクさんもいないし程々にね~。心配の言葉を掛けてくれた。

「ありがとう。大丈夫、今日は早く寝るから」

「良い心掛けだね~。そ~そ~、私はこれから宇宙の危機を救ってくるね~」

「え?」

 訊き返す間も無く、バイバ~イ!彼女は元気な挨拶と共に行ってしまった。




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