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第6話「装填試験」

【アルベルト視点】


 シドの酒場から空樽を調達し、木工職人への槍の発注も終わった。

 ひと仕事済んだので、またゼクスのもとに戻り、シドたちの意向を伝えた。


「はぁ〜、あやつらも大概血の気が多いのぉ。

 まぁ、バリスタは純粋に力仕事じゃて、シドの腕力は魅力じゃから、わしゃ構わんが」


「他の団員の方々はどうですかね?

 部外者の助力を潔しとしない方はいませんか」

 

 私の問いをゼクスは鼻で笑い飛ばした。


「ンなつまらんプライドに拘るヤツなんぞ、わしらン中にゃおらんわい。

 身内だろうと部外者だろうと、敬意を払うべき力を持つ対象にはキチンと礼を示す。ソレがわしらじゃ。

 青二才がおった頃もそうじゃったろう」


 私も釣られて笑ってしまった。

 私が騎士団付き文官だった頃も、確かにそうだった。

 それがゼクスがまとめ上げる、テーゼの騎士団だ。


「では、シドとエヴァの助力は……」


「喜んで受けさせてもらおう。

 もっとも、合流するのはバリスタで『はぐれ』にご挨拶する時にしといてくれや。イチから騎士団と同行してると、ヘンに目立つでな」


「ありがとうございます、シドたちに伝えておきます」


 ゼクスは、ひとつ頷き了承の意を示したところで、ズイッと顔を寄せてきた。


「んで、青二才。ベンが持ち込んだ品(ブツ)使って、どんくらい矢を用意できる?」


「そうですね、10ってトコですかね。

 ただ、アレ(バリスタ)は連射がきかないのが難点で。現地で説明受けた時は、専任の兵士が再装填するのに40秒〜1分くらいかかると言ってました。

 2台を交互に使う事で、ブランクをある程度は埋められそうですが」


 ゼクスがアゴを撫でながら唸る。


「むぅ……、そりゃチョイと骨が折れそうじゃのぉ。

 一度団員に装填実技させて、速かった奴を選ぶほかないな。

 組立ては終わったんじゃろ?今ドコにある?」


 ん?そう言えばそろそろ……


 と思ってたところで、ドアがノックされた。

 入るよう促すと、団員がひとり敬礼をして報告した。


「報告します!ただいま、バリスタ完成品が届きました。グラウンドに置いてあります!」


 報告を聞き、ゼクスがむくっと立ち上がった。


「計ったようなタイミングじゃな。

 よっしゃ、全員グラウンドに集めろ。

 あと、新人4人でシドの酒場から空樽受け取ってこさせろ。向こうにゃ話はついとる。

 それからシド本人も呼んでこい。バリスタが届いたっちゅえばわかるはずじゃ」


「ハッ!ひとつ、全員グラウンドに集合!ふたつ、シドさんの酒場から空樽受け取り!みっつ、シドさんご本人の召喚!以上、了解致しました!失礼します!」


 う〜ん、キビキビ動くな、小気味よい反応だ。


「ほれ、行くぞ青二才。専任の兵士が40秒〜1分じゃったな。とすると合格は30秒切る辺りか。

 お前はどうじゃ?イケそうか?」


 私はブルンブルン首を横に振った。


「ご冗談を、私は一般人枠です」




       ❖    ❖




 庁舎にいた団員全員がグラウンドに並んだ。

 皆、チラチラと2台のバリスタに視線を送っている。

 少ししてシドが到着した。

 シドの姿を見て、多少ざわついたが

「全員!傾注!」

 というアレクの声に、皆が一斉にゼクスに注目した。


「よっしゃ、全員集まったな。

 お前らも気になっとろう。ソレが完成したバリスタじゃ。

 見てわかる通り、でっかい弓よ。

 弓っちゅうモンはな、引けねば役には立たん。

 リヒテンラーデの兵士は、コレを40秒〜1分で引くらしい。

 さて、我が騎士団の精鋭どもはどうかの?

 リヒテンラーデの兵士に勝つか、それとも負けるか。

 我こそはと思うモンは前に出い!

 見事リヒテンラーデの兵士に勝って見せよ!」


 ゼクスの檄に、地が揺れるほどの歓声が上がった。

 さすが脳筋の集まり、この手の競い合いは大好物だ。


 このバリスタは弓を引くハンドルが重い。

 弓引きに特化した兵士でも1分弱かかるのだ。

 騎士団の力自慢がどの程度イケるか、楽しみだ。


 


       ❖    ❖




 う〜ん……、死屍累々とはこーゆー光景を言うんだろうか……。


 結構な人数が挑んでいったが……、大多数は瀕死の状態で倒れ込んでる。


 平均値に収まったのが……7人……、平均を切ったのはひとりだけか……。

 さすがはルナ。結果は29秒。『剛拳』の二つ名に相応しい。

 清々しい笑顔だ。

 

「なんじゃいなんじゃい、情けないのう。

 騎士団でリヒテンラーデの兵士に勝てたんはルナだけかい。

 おう、シド、チョイと見本見せてやってくれや」


 ゼクスのアタマの中では、もう既にシドは合格してるようだ。

 もっとも私もそう思ってるが。


 シドがコクリと頷き、バリスタのハンドルに手をかけた。


「ではいきます!用意ーーー」  


 シドの腕にグッと力が入った。


「開始!」


 ガガガガガガガガ!

 いきなり回転音が響く。

 これまではゴリッゴリッゴリッと、音が一拍ずつ鳴ってたんだが、その回転音が繋がって聞こえる。

 カチッと音を立て、あっという間に弦がセットされた。


 その間ーーー

「……結果……じゅ……14秒……!!」


 グラウンド上に一斉にどよめきが起こった。

 あまりに速すぎる。

 ルナのほぼ半分じゃないか。


 シドが、フンッと鼻息荒くガッツポーズらしいモーションをした。

 アイツが感情らしきモノを見せるなんて珍しい……。

 でも表情は変わらないな……。


「おお、さすがにやりよるのお、シドよ」


 今度はゼクスが上着を脱ぎながらバリスタに近づく。

 あ……、やっぱやるんだ……。


「ほれ、真打ち登場じゃ。お前ら、よ〜見とけ」


 ゼクスがグッとハンドルを握る。

 みるみるうちに腕の筋肉が隆起した。

 同時にブワッと身体に陽炎が立ち上ったような気がした。


「で、では!用意ーーー開始ぃ!」


「ぬぅがあああああ!」


 ガガガガガガガガガガ!


 は、速っ…!


 ガチッ!


「フンッ!記録係、どうじゃ!」


 声をかけられ、記録係が慌てて読み上げる。


「……き……記録……え…?…じゅ……11秒?」


 シ〜〜〜ン………

 

 場が静まり返ってしまった。

 これ……、凄すぎだろ……。


「むぅ……、10秒切れんかったか……

 わしもまだまだかのぉ……」

 

 鼻をポリポリかきながらバリスタから離れるゼクスに、シドが右手を差し出した。

 ゼクスがニヤリと笑って、ガシッと握手をする。


「役立ててもらうぞ、その力」


 コクリと頷くシド。


 また地を揺らす雄叫びが上がった。

 こういう展開も、脳筋の大好物なんだよなぁ。


「国境警備の連中と、今巡回でここにおらん奴らにも機会を与えんとな。

 アレク、明日になったら、国境警備の連中と、ここに来れなんだ奴らを集めい。同じようにやってもらうわ」


「了解です」


 今更ながらゼクスとシドの剛力を思い知らされた気分だった。


 ちなみに私もヤラされた。

 無理やりにだ。


 当然、あの2匹のバケモノに並び立てるワケがない。


 結果、1分10秒……。


 平均値範疇を少し越えてしまったが、無様は晒さずなんとか面目を保った。

 

 もっとも……、私はそういう立ち位置ではないのだが、それでも賛辞が沸いたのは……チョッピリうれしかったりもした。

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