第3話「対応策」
遠方の砦が『はぐれ』に襲撃された事を目撃した監視部隊はいきり立った。
「た、隊長!」
「ならん!」
「……しかし、このままでは……!」
「ならんと言ったらならん!」
部下が加勢に向かおうと進言しようとしたが、ソロスは言下に却下した。
確かに今から駆けつけても間に合うかどうか。
間に合ったとして、果たしてどうなるか。
おそらく『はぐれ』は歯牙にもかけず、加勢を一蹴するだろう。
被害者名簿に新たに何人かが追加されるだけだ。
「……堪えてくれ、今の我々の装備では太刀打ちできん……。我々の任務は監視だ。任務に背いてお前たちをムダ死にさせるわけにはいかん」
「……隊長……」
ソロスの言は正しい。
アルベルトもそう思った。
二次災害は防がねばならない。
だが一方で、一次災害の事後処理も迅速に行わねばならない。
「ソロス殿、仰る通り今から加勢に行っても間に合いません。だがこれでは監視対象の『はぐれ』が確認できません」
「……アルベルト様……?」
「部隊を移動させましょう。監視部隊は『はぐれ』の監視が任務。この場所では監視対象が遠すぎます。もっと近くに行かなくては『はぐれ』が見えません」
「アルベルト様……」
「見える場所まで行くまでに『はぐれ』は飛び去っているかもしれません。
その時は飛び去った方向を把握しましょう。
それで任務は遂行できる。
その後は現場の救助活動を最優先にしましょう。
一番近くにいるこの部隊が速やかに救助活動を開始する必要があります」
部隊員からおおっ、という声が上がった。
ソロスも深く頷き、指示を方向転換した。
「指示を修正する!ここからでは監視任務を十全に果たすことはできない!『はぐれ』の監視任務継続のため現場に向かう!
尚、救助活動も視野に入れ、医療品、救助器具を中心に搬送する!武器の類いは要らん!ここに置いて行け!」
「了解!」
部隊員がすぐさま動き出した。
準備に沸く部隊員を見つめるアルベルトが、ソロスに礼を取る。
「ソロス殿、部外者が出しゃばって勝手な事を申しました。お詫び致します」
その言葉に逆にソロスがさらに深い礼を取った。
「アルベルト様……、お心遣い誠に感謝致します」
アルベルトはそんなソロスの肩をポンと叩いた。
「さあ行きましょう。森の中を進めばヤツにも気取られないでしょう。
襲撃は発生した。これはもうどうしようもない。
では、一次被害者の救助に注力し、被害拡大を防げましょう」
❖ ❖
現場は相当な被害を被っていたが、それでも全てが灰燼に帰した初期の襲撃よりは程度が軽かった。
「襲来の可能性を察知した医療班の指揮官が機転を利かせ、食糧を山積みにするとともに、病人たちを砦の地下倉庫に移そうとしていたそうです。
『はぐれ』は最初に建物を壊し始めましたが、山積みの食糧が目に入った後は、ソレを平らげるのに夢中で、逃げ遅れた者には目もくれなかったらしく、多くの者が大した被害を受けず、生き延びる事ができました」
ソロスが安堵した口調で、アルベルトに状況説明をする。
空腹ゆえの襲来。
食欲を満たすための襲来であれば、目的の食料が見つけられれば食う事に集中し、腹が膨れればここに用はない。
ある意味運が良かった。
「アルベルト様、我々はここの者たちを避難させます。申し訳ございませんが、調査協力はここまでという事で」
「いえ、ご協力感謝致します、ソロス殿。
ヤツはここに食糧があると知りました。
エサ場と認識されたとみていい。
またここにやってくる可能性が高い。
ヤツの腹が満ちている間に、お早く」
ソロスと別れの握手をし、アルベルトは馬を駆った。
馬上で、アルベルトがさまざまな事を思案する。
ヤツは空から襲来する。
テーゼに限らず、どの都市、どの国も防御は不可能。
戦って退けられるか?
いや、ヒトの力では無理だ。
剣や矢ではヤツの身体に通らない。
投石機やバリスタでは…?
有効かもしれないが、それはヤツに飛ばれない事が前提になる。
飛ばれてしまっては当てる事は不可能に近い。
食糧を与えて去るのを待つ…?
いや、その時は有効かもしれないが、ヤツにエサ場認定されるだけだ。
考える傍から否定する。
これだという策が浮かばない。
神経を摩耗させる作業を延々と繰り返し、アルベルトはテーゼに戻った。
❖ ❖
「ーーというわけで、明確な対応策に繋がる情報は掴めませんでした」
アルベルトはエリシアとゼクスに今回の調査結果を伝えた。
「そうとばかりも言えまい。お前は実際に『はぐれ』をその目で見てきたんだ。数十年ぶりの目撃者だぞ、貴重な情報じゃないか」
「おう、そうじゃぞ。実際に見た人間がテーゼに居るかどうかも定かじゃないんじゃ。直に目撃したお前から見てどうじゃった?やれそうか?」
稀にしか発生しない『はぐれ』。
しかも前回の出現はシュルツで、甚大な被害を与えながらも何処かに去ったため、結局は局所的な影響にとどまった。
故にシュルツでさえも国民の大多数は『はぐれ』を伝聞でしか知らず、いわんや他国なら目撃者など皆無だった。
「……そう……、見た目は翼のあるデカいトカゲといったところですね。
腹以外の外皮は極めて硬い印象です。おそらく剣や矢では、あの外皮を通せない。狙うなら腹でしょうが、身体の何倍もある翼で腹部を防御するでしょうから、攻めるのは難しいと思いました」
「……う~む……、剣では無理か…」
ゼクスが腕組みして唸る。
「騎士団長の豪剣でも、渾身の一撃を数回浴びせてようやく活路が見えてくる…くらいに考えて間違いないかと」
「アホ言うな。量産できんから渾身の一撃なんじゃ。
しかしそうなると、こりゃもう攻城兵器でも持ち出す以外ないんかの」
ヒトの技で太刀打ちできないなら、兵器で挑む。
武人として勝利を目指すならば、当然の視点と言えた。
「投石機ではおそらく威力が足りません。
大型のバリスタで鉄の槍を腹に撃ち込めれば勝機はあるかもしれませんが、如何せん相手は動きますし、飛ばれでもしたらもう当てるのは不可能でしょう」
「……なるほどのお……、確かに当てるのはしんどそうじゃ。相手は城ではないからの……」
今度はエリシアが腕組みして唸った。
「テーゼはそもそも他国を攻める立ち位置にないからバリスタも投石機も持ってないぞ。
どこかから調達せねばならないだろう。
現実問題として手に入れられるのか?」
「アミドニア・カーチスは当事国ですので、礼儀として避けるべきかと。
一方でリヒテンラーデなら、国が承認すれば商会から武器を購入できますし、賃貸しも可能でしょう。事情が事情ですのでリヒテンラーデも拒む事はないと思います」
「であれば貸与を受ける形で、至急動いてみよう。とにかく出来る事を全てやる、今はそれに集中するぞ。
アルベルトにリヒテンラーデとの交渉を頼みたい。
商業の国だ。お前の方がツテが多かろう」
アルベルトが恭しく一礼した。
「畏まりました。迅速に貸与を受けられるよう働き掛けてみます。
それから、正式に『有事緊急対処法』の発動をお願いします。
テーゼとして初めての発動になりますが、これからは状況に応じた迅速な対応が不可欠になりますので」
エリシアが強く頷いた。
「了解だ。本日正午に正式に発動!
市民にその旨布告する!」
「ありがとうございます。
では、私はすぐにリヒテンラーデに向かいます。後の事はよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
リヒテンラーデとの交渉後、アルベルトが持ち帰ったのは、組立式バリスタ2台と半年間の賃貸借契約だった。




