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第20話「誰一人として」

 周りの皆の視線がエリシアに集まった。


 驚き……期待……不安……


 

 皆の目にはさまざまな感情が浮かんでいた。


 暫しの静寂が場を支配する。


 エリシアはふぅ〜と息を吐いた。

 そして皆の前に立ち、深く一礼した。


「……ごめんなさい……、でも私は……誰かを犠牲にしなきゃならないなんて……やっぱり……嫌なんです……」


 皆が無言のまま、その言葉に聞き入っている。


「………」


「誰一人として死なせない……、全員が生き延びる……。

 私の誓いなんです……。

 どうか……守らせてください……」


 誰も声を発せなかった。


 彼女は、本気で誰一人として死なせないと決意している。


 皆がそう感じた瞬間だった。



 静まりかえる詰所の中、

 ムクッとシドが立ち上がった。


「……ア、アンタ……」


 気遣うエヴァを制すようにスッと右手をかざし、痛みを堪えるようにゆっくりと歩く。


 そして、傷だらけの体躯がエリシアの前に立った。


「……シド……」


 シドはなにも言わず、エリシアをヒョイッと抱き上げた。


 そのまま詰所の外へ歩み出る。


 そして、繋がれていた馬の背に、静かにトンッと座らせた。

 

 戸惑うエリシア。


「……いいのか……?」


 相変わらずシドは無言だ。なにも話さない。


 だが、大きくひとつ頷いた。


 それを見つめるエヴァ。

 目を潤ませ、俯き、微笑みながらボソッと呟いた。


「……さすが……アタシのダンナ……だ……」




 エリシアがシドに、はにかむような笑みを浮かべた。


「……ありがとう……」


 次に、エリシアの前にアレクと騎士団員が進み出た。

 

「エリシア様……、あと残るは……おふたりです」


 アレクが膝をつき、胸に手を当てた。


 ザッ!


 続いて、騎士団員全員が一斉に膝をつく。

 

「必ずや……、我が騎士団長と……、あなた様の大切なあのお方を……無事にお連れ下さい……」


 全員の瞳に浮かぶ『託す想い』。


 エリシアがアレクたちを見つめる。

 その覚悟を示すように、手綱を握りしめる。


「……わかった……」


「……リン……」


 リンを見る。

 馬の横で泣きそうな顔をしている。


「お姉ちゃん……」


「リン、あのふたりを迎えに行ってくるよ。

 お前はここでーー」

「いや!」


 エリシアが少し驚く。

 リンのここまで強い拒絶は初めてだった。


「……リン……」


「わたしも……行く……」


 エリシアは途端に頭(かぶり)を振った。


「駄目だ、リン。危険すぎる」


 だがリンは、その言葉を拒み、エリシアの手を握った。

 

「お姉ちゃんがホサとじいじを連れ帰るんでしょう。ならわたしも、一緒に連れて帰る」


「ーーだがーー」


 リンの声が震える。

 だが、そこには揺るぎない決意が窺えた。


「わたしも行く。わたしがいれば、お姉ちゃんは必ず帰ってくるでしょう」


 リンの銀糸の間から、涙がこぼれた。


「そばにいて……ひとりぼっちにしないで……」


 リンの言葉が、あの口伝に重なった。


(……ああ……そうだった……。

 そうだよな……私たちは“家族“なんだよな……)


 傍らでシドがリンをジッと見ている。


「わたしも行く。お姉ちゃんと一緒に、ホサとじいじを迎えに行く。そしてみんなで帰ってくる」


 リンは泣き出すのを必死で堪えながら、はっきりと言った。


 シドはしばらくリンを見つめていた。


 やがて、その決意を認めるように一度だけ頷いて、リンをそっと抱き上げ、エリシアの前に乗せた。


「シド……」


「シドおじちゃん……ありがとう……」


 相変わらず顔の筋肉は動かない。


 だが、その場の誰もが、彼の暖かさを感じていた。


 

 ベンも、ゴッヅも、アンナも、メリッサも、アレクも、ルナも、シドも、エヴァも……


 この街テーゼの、心優しき住人たち。


 誰もが、自分たちの背中を押してくれている。


 エリシアは一人ひとりの顔を、心に刻み込んだ。 


 大きく息を吸い込む。


「行ってくる!!」


 あらん限りの声を張り上げ、エリシアが馬を駆った。



 


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