第13話「守る者たち」
「おーし、こんなモンじゃろ。
みんな、ご苦労じゃったな、お疲れさん」
ゼクスの作業終了の声に、室内の騎士団全員から歓喜と安堵の混じったため息が漏れた。
壁際には、先端に矢じりではなく壺が取り付けられたバリスタの矢。
その数11本。
「それじゃ、みんな今日は休んでくれや。
コイツは明日の朝、バリスタと一緒に運び出すでな」
ぞろぞろと寝所に向かう彼らを見送り、ゼクスは、奥で何かを見つめているアルベルトのところに来た。
「なに見とるんじゃ、青二才ーーおう、これか」
壁に置かれている矢じり付きの矢。
バリスタ本体とともにリヒテンラーデから取り寄せた矢だ。
「はい、せっかく買った物なので、これも一緒に持っていこうかと」
「じゃが、お前の見立てでは、コイツはヤツに通用せんのじゃろう」
「はい、おそらくは……。ただ、公費で買った物だし、何がどう役に立つかさっぱりわかりませんから、手札は多い方が良いかと」
ゼクスがフンッと鼻息荒く苦笑した。
「フフ、お前らしいわ。ええじゃろ、ソイツも持っていこうか」
「ありがとうございます」
ゼクスの顔が引き締まった。
アルベルトの表情を改めた。
「いよいよ……じゃな」
「はい……」
ーーー翌日ーーー
ガラガラガラ…
無人の石畳の上をバリスタが通る。
誰一人いない街並みの静寂。
それが逆に禍々しく思える。
「ジイさ〜ん、補佐さ〜ん」
街角からシドとエヴァが走ってきた。
ゼクスの目つきが厳しくなった。
シドは数に入っている。
だがエヴァは……。
バリスタの傍らに立ったふたりに、ゼクスが静かに話しかけた。
「……エヴァ……、気持ちはわかるが……お前はここで引きあげてくれんかい……?」
えっ?という顔のエヴァ。
「……な、なに言ってんのさ……、アタシも行くよ」
だが、ゼクスは頭を振る。
「いや、ダメじゃ。ここにいるのは、バリスタを動かせる連中だけ。そういう奴らだけの祭りよ。
お前の力ではバリスタは動かせん。
のう、わかってくれや……」
エヴァは、ゼクスとシドを交互に見回し、何度も顔を横に振って震えだした。
「……やだ……やだよ……。ダンナ置いて……アタシだけひとりなんて……」
エヴァがシドに縋りつく。
「ねえ、アンタからも言ってやってよ!
俺たちは一緒に行くって!
ねえ!このわからず屋のジイさーー」
エヴァがそこまで言った時、シドがガバっと彼女を抱きしめた。
「……え……?」
茫然とするエヴァ。
「……アンタ……」
そのまま、シドがエヴァの耳元に顔を寄せる。
「………」
「……や……、やだよ……アタシも一緒に……」
「……………」
「……で……でも……、でも……」
「………………」
「……そりゃ……そうだけど、……うん……」
「…………………」
「……そうだね……アンタは強いよね……誰よりも…、」
「……………………」
「……うん……うん……そうだね……
……わかった……、アタシ……待ってる……」
シドは無言だ。
いつも通りだ。
だが、この夫婦が何を語り合っているのかは、誰の目にも明らかだった。
やがてシドが、エヴァの背中を軽く、避難所方向に押し出した。
エヴァは2度3度、こちらに目を向けたが、少し泣き顔が混じった笑顔を見せて、タッと走り出した。
シドは彼女の姿が見えなくなるまで、静かにそれを見送っていた。
エヴァがようやく見えなくなった。
シドは皆に向き合い、深々と頭を下げた。
一同のなかから、ほおっと感嘆の息が漏れた。
ゼクスが、ポンッとシドの肩を叩く。
「……すまんな……。じゃが……ようやってくれた……」
シドが顔を上げる。
いつもの無表情のままだった。
だが、誰一人、その表情を無機質とはおもわなかった。
❖ ❖
バリスタとともに、アルベルトたちがアミドニア・カーチス入場門の近くに布陣した。
ほとんど誰も口をきかない。
ジリジリする緊張の時間だけが続いた。
しかし昼前、その緊張の時間も、監視台からの声が粉々に打ち砕いた。
「『はぐれ』発見!こちらに接近しています!
繰り返します!『はぐれ』、こちらに接近中!」
緊張がまたたく間に、全く違う色に変貌する。
ゼクスが大きく息を吸い、あらん限りの怒号を鳴らした。
「おうっしゃ!お客サンじゃ!
花束の用意せい!!」
「おう!!!」
全員がそれに呼応し、決意に満ちた怒号で返した。




