8話
鍵さんは語る。
「私はあなた方を待っていたんですよ。黒田茜さん。本田巧さん」
人好きしそうな柔和な笑みを浮かべて鍵さん?が僕たちに一歩踏み出す。
「待って」
そこへ有無を言わさぬようにアカネさんが進み出た。
「……どうして私たちの名前を?待っていたって何ですか?」
「そりゃああもう。そういうあたりを引いたんですな」
「あたり?」
鍵さんはできの悪い生徒に教える教師のように続けた。
「あなた方がこのホームに来るパターン、あなたが黒田さん。名前を茜さんであるパターン、後ろの男の子が本田さん、名前を巧さんであるパターン、それらの確率をすり抜けて私たちはであったんです。それはまさに奇跡ですよ」
「私たちの…パターン?そんなの信じられない」
「そうですかあ?あなたならなんとなく理解できているのでは?」
鍵さんは芝居がかったように言った。
すう……っとふと気が遠くなるような錯覚を覚えた。
『赤羽あかねさん。』『赤井佳乃さん』『赤田ノイさん』『黒柴さん』『黒野正道さん』『佐藤巧さん』『おや?通り過ぎましたか』『青山紀子さん』『須々木京さん』『野島須美さん』『黒田茜さん、本間康太さん…おや?違いましたか?』
ホームを踏みしめる。立ち眩みだろうか。
「あなたは何者?」
鍵さんは目を細めた。
「ふむ。そうですねえ」
『あなたは何をしているの?』『ストーカー?』『あなたがボス?』『さっぱりわからないわ?』『その帽子似合ってないわよ』『ばーか』『…………』『は?』
ぐらぐらと視界が回る。固いホームに立っているのに酔いそうだ。僕はたまらず膝に手を突く。深呼吸……
「やめませんか?お連れの方がツラそうですよ」
アカネさんはハッとしたように僕を見た。「大丈夫?」駆け寄って背中をさする。
「大丈夫……です。乗り物酔いが今頃出てきたのかな」
不思議なもので、心配してくれる人、アカネさんの気遣いによるものか、気分は少し良くなった。吐き気もおさまってきている。
「大丈夫?ごめんね。もうしないわ」
アカネさんは少しだけよくなった僕の様子に安堵したのか、改めて鍵さんに向き合った。
「私たちを捕まえる……とか?」
「それなら今やってましたよ。隙だらけでしたし」
鍵さんはちょうどホームの長椅子2つぶんの距離のところで歩み寄るのをやめた。
「ここからは可能性を排して語りましょう。その方がドラマチックです」
「ドラマチックなんて関係ない。私たちはここから出るんだ」
なるほど。と言って鍵さんは少し考えるようなそぶりを見せた。右手首をぐりぐりを回して沈黙する。考えるときの癖だろうか。
「実のところ、あなた方が求めるゴールは私は持っているのです」
鍵さんはあごに手をやり話し出した。
「つまりですが、あなた方を生かすも殺すも渡し次第……といったところでしょうか?」
「なにそれ。私たちを脅してるつもり?」
「言葉に気を付けましょう。あなたはどうも、想定される答えの平均より少し下から話すようだ。それは賢明ではないと考えます」
「……残念です」




