9話
「あなたが何を言ってるのかわからない」「私たちを出せ!!」「殺してやる!!」
たくさんの世界が目の前に見えるようだった。
私はその認知の暴風から選び出す。一番の未来を?
「おそらく、あなたが望む未来を選べばいいということかしら?」
私は絶対に戻らなくては。たくみくんも戻してあげないと。
「その通りです。私のゴールを目指していただきたい」
「でも、気に食わないわね。あなたの描くゴールなんで私はイヤよ。自分の未来は自分で決めるわ」
「そうかね?レールの上の人生も、そう悪いものではありませんよ」
鍵さんは眼鏡をはずしてレンズ指で拭った。
ぐらりと視界が歪んだ。自分でやった時の代償と違う。多用は危険……とは?
目の前の男は繰り返した。
「つまりですが、あなた方を生かすも殺すも渡し次第……といったところでしょうか?」
この男は何を言いたい?何を求めている?
超常現象、舞台装置、神の罰、偶然の悪魔・何かしらの具現化。顕現化?
この世界の守り手?ただの気のいいおじさん?私と同じ人間?人間なの?鍵??
「あなたの……あなたの要求は?」
「私の願いは、私の役割の継承と、私の世界に戻りたい。それだけです」
この男は何を言っている??
「さあ、もう一度」
ぐらりと揺れる視界。思わず目頭を指でもんだ。
「こんばんは。こちらに来て座りませんか?」
優しげな声にハッとする。頭の中の靄が一気に晴れる気がした。
暗いホームの一角の何故か蛍光灯がちらつくことなく光を照らすその場所の、ベンチに腰かけている老人がいる。
異物感のする、そこにいるのが不自然なその姿。なぜかそこにいるのが当たり前のようにその場面に収まっている。
いや、この空間の上位に君臨する王様だ。王様は周囲に溶け込まない。
背後で静かに地下鉄が動き出す音がした。
「よかった。人がいた。助けてください。僕ら困ってるんです」
たくみくんが少しだけ安堵したように言いながら老人に近づいて行く。
私は追いかけようとして、しかし、足がその場に縫い付けられたように動かなかった。
時間を戻す?いや、長く戻れば戻るほど頭痛がひどくなる。
地下鉄から降りる前に戻ろうとしても、無駄だという感覚がする。
第六感というやつだろうか?
「これで分かったでしょう?茜くん。ここから出ることはかなわないのです」
老人は能面のように無表情に告げ、手にした瓶を思い切り、たくみくんの後頭部に叩きつけた。
「たくみくん!!」
強烈なめまいに足をもつれさせながら、私はたくみくんへ駆け寄った。
抱き起こすそうとするも、背中がべったりと濡れている。
大量の血が。
「茜くん。彼を助けたくば、わかっているだろうね」
服が汚れるのも構わずたくみくんを抱きしめる。何もかも私のせいだ。
私の……私の気まぐれで彼は死ぬ。
「大丈夫ですよ。私の代わりにこの駅にいればいいんです。次の私たちのような人が現れて代わってもらえばいいのです。なに。運が良ければ明日にでも代われるでしょう」
私は……老人を見上げた。蛍光灯の明かりで表情は見えない。
「ほら、彼が死ぬ前に終わらせましょう。さあ、手を取って」
伸ばされた手をじっと見つめ、私は。
私はたくみくんの少しづつ冷えていくからだから右手を離し。
血に塗られた右手を伸ばし、その手にふ――
第1章完




