6話
ゴトゴト……と揺れる車体。
微妙に薄暗い、薄く黄色がかった蛍光灯。
カビ臭い緑のシート。
『駆け込み乗車はご遠慮ください』とセリフの書かれたデフォルメされたネズミのポスター。
シートに横並びで座る僕、ひとつスペースを開けて彼女。
「今度はネズミのポスターなんだ……」
アカネさんはいつもマイペースだ。
マイペースというか……なんというかあまり取り乱した姿を見たことが無い。
いつでも落ち着いていて余裕げだ。走っているところも見たことが無い。もしかして運動音痴?鈍感?なんて思う時も……実はあるが、そんなことはないだろう。たぶん、おそらくだ。
「猫?ネズミ?窮鼠、猫を噛む?トム&ジ……」
あごに手をやり首をかしげながらブツブツとアカネさんは暗唱する。
「ネズミと猫、猫は1匹、ネズミが3匹……」
……ネズミが3匹?
僕はそのつぶやきに思わずポスターを見た。
ドアに挟まれる親ネズミとそれを心配そうに見つめる2匹の子ネズミ。ご丁寧に『心配チュー』などと吹き出しが書かれている。なんだこれ。
「なにかしらコレ」
そこから先、僕とアカネさんは猫とネズミについて激しい議論を重ねた。
猫とネズミ、ネズミと猫。その関係性、人との関わり。特定の種について。ライオンとハムスター。
強さとは何か、力関係だけではない真の強さとは……
「とても……とてもいい議論だったわねたくみくん」
僕とアカネさんはガッチリと握手を交わした。
僕とアカネさんの関係は今までと変わったのだ。今までの友人関係ではなく、それは一歩進んだ関係性と言えよう。それはおそらく強敵と書いてライバルと言えるそんな関係に……
「ええ、とてもいい議論でした。この時間、こんな場所でなければですが」
「そ、そうよね……」
「どうしてこんなことになったんでしょうね。なにかのスイッチが入ってしまったのか……」
「議論が白熱してしまって素通りしちゃったけど、3駅くらい通り過ぎたし」
握手した右手がじっとりと湿った気がした。
「…………ガガガピ、ピピ」
ちょうど駅に着いたのか、プシューとドアが開いた。
車内から見えるホームはやはり薄暗い。またもかび臭い。蛍光灯は古くてチリチリと音を立てながらチラついている。
「降りましょうか。たくみくん」
「そんな簡単に決めちゃっていいんですかね。悩んだりとか」
「乗ってても何も進展しないのがわかったのだし、悩むより行動したほうがいいんじゃないかしら。それとも」
アカネさんはチラリ(やはり前髪で目は見えないが)とポスターを見た。
「ネズミの」
「やっぱり降りましょう。不毛な議論は危険です」
僕たちはホームに降り立った。




