4話
それを『歩く』と言うべきなのか。なんというのだろうか。
私は上手く説明できない。実際に歩いているわけではない。手足を動かすのではなく、動いているのに手足を動かしていない。
頭の中にいる何かを通して私を見る。私を見ているんだけど、目の前の私も見ている私も私なのである。
念じるようにすれば、目の前の私は動き出す。
正確には私だけではなく、私の周りも。落としかけた雨は浮き上がり、蛇口の水は吸い込まれる。
目に見えないぼんやりとした何かが点滅し、時計の針が逆に戻る。
それが特別なことだと気づいたのは小学生の時のこと。
遅刻しそうなクラスメイトが『時間よ止まれ~~!!』なんて叫んでいる。
机の上から消しゴムを落とし、どこかに転がって見つからなかったとき。
給食のスープを床に落として泣くクラスメイトを見た時。
「どうして戻らないの?失敗の前に戻ればいいのに……」
体育の授業中に転んでケガをしたクラスメイトに駆け寄って私は一生懸命に伝えた。
一生懸命に繰り返し、繰り返し質問し説明し、妙な空気に気が付いた。
目の前で泣いていたクラスメイトが泣き止んで怯えている。
ころんだ子の友達が、遠巻きに見ていた別のクラスの子が。
「先生ー!こっちこっち!」なんて遠くの声を聴いた私は、クラスメイトが転んだ直後まで戻った。
わんわん泣くクラスメイトをぼんやりと眺めながら、これは話してはいけないことだと理解できた。
それから私は、この秘密がバレないように、周囲から距離を置きひとりになった。
そして月日は流れ……




