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夢の中で生きていた僕は、ある日目を覚まさなくなった  作者: 月白
最終章

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第三十七話

眩い光が視界を包み込む。


「.......っ」


ゆっくりと目を開く。


冷たい岩肌の感触が背中に伝わる。


身体を起こすと、そこは薄暗い洞窟だった。


「ここは......」


見覚えのない場所だ。

辺りを見回していると、あちこちから声が聞こえ始めた。


「うっ......」


「ここはどこだ......?」


歪みに囚われていた人々が、一人、また一人と目を覚ましていく。


皆、困惑した表情で周囲を見回していた。


どうやら無事に戻ってこられたようだ。


その時だった。


ゴゴゴゴゴ......


突然、洞窟全体が激しく揺れ始める。


「な、何だ!?」


天井から小石が降り注ぐ。


次の瞬間、大きな岩が轟音と共に崩れ落ちた。


「まずい!」


俺は咄嗟に叫ぶ。


「全員、出口へ向かえ!」


人々は慌てて走り出す。


その時、俺は辺りを見回した。


「ミナトは!?」


どこにも姿がない。


「ミナト!」


叫んでも返事はなかった。


もう一度探そうと足を踏み出した、その時だった。


「待て!」


後ろから男が叫ぶ。


「早く出ないと、生き埋めになるぞ!」


さらに大きな揺れが洞窟を襲う。


天井には大きな亀裂が走り、今にも崩れ落ちそうだった。


俺は歯を食いしばる。


「くっ......!」


今ここで探せば、他の人も巻き込まれる。


「ミナト......」


外にいることを願いながら、俺は人々と共に出口へ向かった。


外へ飛び出した、その直後だった。


ドォォォォォン!!


凄まじい轟音と共に洞窟が完全に崩れ落ちる。


土煙が舞い上がり、辺り一面を覆った。


誰も言葉を失う。


その時だった。


ゴゴゴゴゴ......


今度は地面そのものが揺れ始める。


「まだ終わっていないのか......?」


皆が身構える。


崩れた洞窟の中心から、一筋の眩い光が天へ向かって伸びた。


光は地面を突き破るように勢いよく立ち昇り、そのまま一本の大樹へと姿を変えていく。


幹は天を覆うほど高く伸び、枝葉はどこまでも広がっていく。


神々しいほど美しいその姿に、誰もが息を呑んだ。


やがて光が静かに収まる。


俺は導かれるように樹へ近付いた。


幹の奥。


そこには、一人の青年が静かに眠っていた。


「......ミナト」


俺はその場に崩れ落ちる。


「どうしてだ......」


震える声が漏れる。


「どうして......」


「そこまでして、皆を助けたのか......」


幹へそっと手を当てる。


返事はない。


眠るような穏やかな表情のまま、微動だにしない。


涙が頬を伝う。


「ミナト......。お前は、生きなければならなかった」


どれだけ呼び掛けても。


ミナトは目を覚ますことはなかった。


――――――――――


その後、助かった人々を見送り、俺は家へ戻った。


扉を開ける。


部屋の奥から足音が聞こえた。


「......どなた?」


ゆっくりと姿を現した女性は、俺の顔を見た瞬間、その場で立ち尽くした。


「......レオ......ニス?」


聞き慣れた声だった。


顔を上げると、そこにはエリシアが立っていた。


その瞳は大きく見開かれ、ゆっくりと涙で滲んでいく。


「本当に......あなたなの?」


「ああ」


それ以上、言葉は出なかった。


エリシアは震える手で俺の頬に触れる。


「本当に......夢じゃないのね?」


俺は静かに頷く。


その返事を聞いた瞬間、エリシアは俺に抱きつき、声を上げて泣いた。


俺も静かに抱き返す。


ただ、胸の奥には、ぽっかりと穴が空いたままだった。


――――――――――


数日が過ぎた。


俺はエリシアと静かな時間を過ごしていた。


ミナトのことを考えない日は、一日としてなかった。


そんなある日だった。


コンコンーー。


家の扉が叩かれる。


「私が出るわ」


エリシアが立ち上がろうとした。


「いや、俺が行こう」


俺はゆっくりと扉へ向かった。


扉を開けると、そこには三人の若者が立っていた。


見覚えのない青年が一人。

そして、二人の若い女性。


「......どちら様ですか?」


そう尋ねた瞬間だった。


女性の内の一人が俺を見るなり、大きく目を見開く。

その瞳には、みるみる涙が溢れていく。


「お父......さん?」


震える声だった。


俺は息を呑む。

その声。

その瞳。

幼い頃の面影が重なる。


「まさか.......セレナ」


名前を口にした瞬間。

彼女は堪えていた涙を零しながら、俺へ飛び込んできた。


「お父さん!」


俺は思わずその身体を抱き止める。


「本当に......お父さんなの?」


泣きじゃくる娘の頭を、俺は静かに撫でた。


「ああ。すまなかった」


「ずっと......帰れなくて」


セレナは何度も頭を首へ横へ振る。


「いい。帰ってきてくれただけでいい」


気付けば、俺も涙を流していた。


もう二度と会えないと諦めていた娘が、今、腕の中にいる。


こんなにも大きくなっていたのか。


失われた長い時間を思うと、胸が締め付けられた。


少し離れた場所で、エリシアはその様子を静かに見守っていた。


失われた長い時間を埋めるように、親子はしばらく互いの温もりを確かめ合っていた。


少し落ち着いた頃。


俺はセレナの後ろに立つ二人へ視線を向ける。


「ところで.......。君たちは?」


青年が一歩前へ出る。


「俺はカイルです」


隣の女性も軽く頭を下げた。


「ノクティアです」


二人は静かに名乗る。


その直後だった。


セレナの表情が曇る。

辺りを見回し、不安そうに口を開いた。


「お父さん......。ミナトは?」


その名前を聞いた瞬間。


俺の胸は強く締め付けられた。


「ミナトは......」


その先が続かない。


何度口を開いても、言葉が出なかった。


やがて俺は、ゆっくりと口を開く。


「大樹の中で......眠ったままだ」


三人の表情が凍り付く。


俺は静かに話し始めた。


アルケアのこと。


巨大な樹のこと。


そして、ミナトが皆を帰すため、自ら歪みへ残ったことを。


部屋は静まり返っていた。


誰一人、言葉を発することができない。


話し終えた頃には、セレナの瞳から涙が溢れていた。


「嘘......」


震える声が部屋に響く。


「帰ってくるって......」


「約束したのに......」


涙が淡々と零れ落ちる。


「ミナトは、絶対に帰ってくるって言ったのに......」


その言葉を最後に、セレナは勢いよく立ち上がった。


「セレナ!」


俺が呼び止めるよりも早く、彼女は家を飛び出していく。


「待て!」


カイルが慌てて後を追う。


ノクティアも小さく一礼すると、二人に続いて駆け出した。


扉が静かに閉まる。


部屋には、俺とエリシアだけが残された。


エリシアは心配そうに扉を見つめる。


「追いかけなくていいの?」


俺は静かに首を横へ振った。


「大丈夫だ」


「向かう場所は分かっている」


セレナが向かった先は、一つしかない。


あの大樹。


ミナトが眠る場所だ。


きっと今は、俺たちが何を言っても届かない。


一人で、あいつと向き合いたいのだろう。


俺も同じだった。


ミナトを失った現実を、まだ受け入れることはできない。


家の外では、風に乗って白い花びらが一枚、静かに空へ舞い上がっていた。

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