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第26話 クラリッサの秘密

「これから、私に関することや、私が皆さんと関わることとなったきっかけについてお話してまいりす。ただ、一度に話してしまいますと、皆様も話が呑み込めなくなりますから、間をおきますので、そこで皆さんのご質問をお受けしたいと思います」


 なるほど、とても気配りのきいた対応をしてくれるようだ。これは助かる。


「まず、私の自己紹介しましょう。私は本名をクラリッサ・麗香・加藤といい、業界名はクラリッサ・ワイルダーという企業経営者であり、投資家ですが、現在はT.R.O.J.A.N.という国際組織のエージェントでもあります。

 年齢は、今日で21歳。5歳年上の夫と5歳になる娘がおります。また、年子で同学年の妹、クロエ・晴香・ワイルダーがいます。彼女は世界的なファッションデザイナーで、実はこのクラリッサ・ヴィレッジの住人でもあります。

 このクラリッサ・ヴィレッジの名付け親は、私の父、ロバート・隆介・ワイルダーです。ワイルダーの一族は皆、ミドルネームに日本人の名を持っています。それは、父方も母方も日本人の血を引いていることに由来します。

 このビルは私の誕生を記念して、父が建てたものなのです。私が初の女の子供だったので親ばかでの行為だったのですが、私はこのビルを大変有益に使えて、とても嬉しく思っています」


 ボクはさっそく手をあげ意見を言わせていただくことにした。もちろん、確信の部分ではなく、ハルくんたちとの関係をだ。ジョアンナも気になるだろうからね。


「はい、エマーソンさん」


「あ、ボクのことはキースと呼んでください」


「では、キース。ご質問をどうぞ」


 おお、なんか恋人になった気分だな。おっと心の声、出してないよな。


「えと、アナタはハルくんのお兄さんの妻ということで、姉と弟の関係であるとハルくんに聞いたのですが、我々の目にはそれ以上の関係に見えたのですが、お二人は幼馴染のような間柄なのでしょうか。ご年齢もお近いですよね?」


「そうです。ハルと私は幼馴染です。ハルは妹の晴香と誕生日が近いのです。私たちは幼少期はパシフィック共和国の日本自治区の山間部に居住しており、ハルの家の加藤家とはご近所でした。

 ハルは男ばかりの兄弟の末っ子で、幼少期は病弱でした。両親共働きで祖父母が面倒をみておりました。それで、私が子供の知恵ではありますが、ハルの面倒をみに週3回ほど通っておりました」


「クラリッサには幼い頃から面倒をかけておりましたので、兄のお嫁さんになる前から、僕にとっては姉だったのです。だから、酒の場のわがままは出来るだけ聞いてあげたいだけなんだ。

 ジョアンナ。さっきは、優柔不断なところ見せてゴメンよ。ボクを嫌いになったなら、それも仕方ないよ。でも、キミのことは本当に好きなんだ。クラリッサの代わりとかじゃないから」


「ハル・・・・」


 ジョアンナは何かを勢い任せに言うつもりだったのだろうが、ハルくんの言葉に考えを変えたようだ。


「ハル、そして、クラリッサ。アタシは、さっきまでのアンタたちを簡単には許せないわ。少し考える時間を頂戴。

 アンタたちが幼馴染で、凄く仲が良くて、たぶんハルにとって、クラリッサは初恋の人なんだと確信したわ。

 でも、アタシもハルとたくさんの思い出があるわ。知り合ったのは7歳からだけど、恋愛対象に考えるようになったのは、つい2年前だもの。アンタたちには到底敵わない。でも、ハルのことは好きよ。大好きよ。これだけは覚えておいて」


「ジョアンナ・・・・。ボクだって・・・・」


 ハルくんは、くどくなると思ったのか、途中で言うのをやめた。


「それと、クラリッサ。アンタが記憶なくしているのをいいことに、アタシたちは悪ふざけが過ぎたわ。アタシに妹が出来たような気分に浸ってしまった。無礼を働いたのはアタシたちも同じだったわ。

 もっと、アナタの記憶が戻ることに働きかけるべきだった。でも、アナタと過ごしたこの数か月は、アタシら家族と動く家の仲間にとっては宝物のような思い出だったことは本当よ。父さんも母さんも、アナタを本当の娘のように思っていたわ。そして、動く家の仲間たちもね」


「ジョアンナさん、本当にすみません。アタシ、その時の記憶が全くないのです」

 

「トロイ、いやクラリッサ。オレも大人げない態度をとってすまない。アナタの記憶が戻ったことを誰よりも喜ばねばいけないはずなのに、オレは、オレは、本当にすまない。許してくれ」


 ザックは、また泣いている。でもこれで、彼の気持ちは、クラリッサに伝わったようだ。彼女も目に涙をうかべている。鼻水もすすっている。


「クラリッサ、ボクらとの関係話はそのくらいにして、先を続けてくれませんか」


 ボクは当り障りのないよう、やわらかく話を進めていくことにした。


「それでは、先ほど申しましたT.R.O.J.A.N.とは何かをお話ししましょう。一見、何かの略語のように見えますが、それはただのブラフで、TROJAN WARのTROJANです。名前から想像がつくかもしれませんが、目的とする組織の懐に忍び込み、作戦を行う国際軍事組織です。

 私は今から3年前に組織にスカウトされ、2年前に正式所属し、訓練を積んで、数か月前に、ある国にとらわれている要人を救出する任務につきました。

 その要人とは、バチスカン公国の第3王女である、トロイメライ・バチスカン・アナスツィアータ。またの名をトロイメライ・コベナント・アナスツィアータと言いました。皆さんもよくご存じのコベナント博士の二番目のご息女です。

 彼女は、公国の国宝級の科学者で、公国の地下研究都市施設で様々な、科学実験や設計をする研究者であり、技術者なのです。

 公国は彼女の類まれな頭脳をつかって、超兵器の開発させ、科学超大国になることをもくろんでいたとのことでした。彼女は研究や発明の先に起こる惨事などに無感情なため、人類にとって取り返しのつかなくなるものまで、作ってしまう可能性が高く、彼女の開発の停止と、彼女の保護は必然でした。

 トロイメライには日常生活を送り周囲の注意をそらすための影武者がおり、私はその人物に容姿が似ていることで選抜され、その影武者と入れ替わって、任務につきました。

 周囲への違和感をなくすため、自我を埋没され、トロイメライの記憶の他、私の能力を助けるためにある軍事戦闘経験者の経験なども植え付けられました。私の自我抑制は、トロイメライである私を擁護する現地の協力者が徐々に解いていき、任務遂行のその時に覚醒させられる手はずで進められました」


 あまりにも衝撃的すぎる話に、ボクも含め、皆、唖然となった。こうもあっさりと、コベナント博士がかかわっていたとは、、、だ。彼の娘と言うのは国の非公式な第3王女。つまり、彼は、影の支配者層であるバチスカン王家の一族だったわけだ。


 バチスカン公国は、異常な科学力を持っていると噂には聞き世呼んでいたが、王家が隠蔽しているため、公にはその強大さは伝わっていないが、公国への旅行者は、街は大災害前の古い欧州の街並みなのに、そこかしこに超IT化されたもので埋め尽くされ、すべてが合理的に成り立ちすぎていて、知らず知らずにその便利さ、快適さの虜になってしまったという話を聞いたことがある。


 旅行者の重い荷物が浮遊したり、とても小さな店舗なのに、圧縮したとしか考えられない料理がふるまわれる飲食店があったり、街と街を瞬時に移動できる箱のような移動手段があったり。清掃員がいないのにゴミがまたたくまに掃除されるとか、あげればキリがないほどだ。迷子や落し物の捜索も、80%の検出率だと行っていた。どんな手段かはわからないが、警察に届ければ、治安のよいところならほぼ100%見つけられたという。


 暴動なんかあれば、犯人たちは瞬時に鎮圧され。その後は、何事もなかったかのように街の機能が平常運転しはじめるとか、裏で何が起きているかを考えると、ワクワクするより恐怖を感じるくらいだ。


 皆は次に急展開があるとふんで、クラリッサに話を続けてもらうジェスチャーをすると、クラリッサは、こほんと、息をついて、話を続けだした。


「しかし、その計画は、真っ赤な嘘でした。コベナント博士は、娘の殺害を私への指令に入れていたのです。そして、ワタシは彼の娘と研究施設ごと自爆させられる運命だったのです。

 狙われているトロイメライもそれに感づいており、アタシが彼女がいる研究室に現れるのを待っていたようなのです」


「でも、トロイメライは厳重なセキュリティのエリアに軟禁されていたのではないのですか? どうやって、クラリッサはそこへ到達できたのですか?」


「それはアタシの両耳たぶに埋め込まれたプレートディスクの情報です」


「確かそれは、うちのドンが最初にキミから発見したやつだな」


 ザックもクラリッサの驚愕すぎる話に平常心を取り戻したようだ。


「ちょっと、待ってください」


 サラが発言した。


「今、お話しされたこと、すごい情報量なのですが、それを着替えに戻られてからのたった1時間程度で把握されたのですか?

 いくら何でも短かすぎませんか?」


 確かにそうだ。ボクらはクラリッサさんの話について行くあまり、肝心なことに気づけていなかった。


「それには秘密があります。でも、ここまで急ぎ足でお話をしたので、ご理解が進みにくいかもしおれませんから、20分ほど休憩いたしましょう。

 参考人ももうじきこちらに参りますので、次は参考人のお話もお聞きいただきたく存じます」


 クラリッサは、ハルくんを連れずに一人で奥の部屋に引き戻ってしまった。やや困惑するハルくんだったが、彼は気持ちを落ち着かせるように瞑想にはいった。

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