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第25話 真実の扉

 クラリッサさんが言った丁度、1時間後、カフェでくつろいでいたボクらのもとに執事のような初老の人物が現れた。流石、お金持ちは、執事とかいるんだね。ボクの家は簡単な作業ができるアンドロイドと、対話型の家事管理コンピュータだけど、やはり生身の執事は趣が違うね。


「エマーソン様、私はクラリッサ・ワイルダー様の執事のアレックス・ベンドルトンと申します。

 お迎えのお時間となりました。クラリッサ様が応接室にてお待ちです。ご友人の方々とご一緒に中央のパラダイスタワーへお越しください。そちらまで、私がお送りいたします」


 ボクが皆の代表なんだ。一番取り乱してなかったからなのか。それとも彼女はボクを共鳴者だと認識したのだろうか。


「では、アレックスさん。ボクとエレナとサラの3人だけで行こうと思うのですがよろしいでしょうか?」


「いえ、全員お越しくださいとお嬢様はおっしゃっておいでですので、全員いらっしゃってください」


「キース、オレはもう大丈夫だ。行くぞ。トロイ、いやクラリッサ・ワイルダーと対面する。そうしないと、また馬鹿にされる。気負いなどしてられない」


 ザックは先ほどとは打って変わって、闘志がみなぎっていた。


「キースおじさん、アタシも行くわ。トロイの記憶はもう無いのだろうけど、あの子と正面から向き合ってやる。それとハルともね。そうしないと、アタシらこの先、付き合うことも結婚もできないよ」


 おお、ジョアンナもオトコを賭けた勝負に出るようだ。


「二人の意思は分かったよ。覚悟が出来たんだね。じゃあ、行こう。アレックスさんお願いします」


「では、その前にお身なりをお整えください。タワーの一階に衣装室がございますので、そこでお着換えください。

 シャワーなども用意がありますので、そちらで、30分くらいでお願いいたします」


 ボクらはそう言われて、中央塔に入ることになった。塔のゲートをくぐる前にアレックスさんからボクらはブレスレッドを渡された。


「それは認証用のものです。これから先、絶対に外さないように願います。完全防水ですので、手を洗われたり、シャワーやお風呂に入られたりする場合も外さずにお付けください。

 かゆみ等で外されたい場合は、その前に私に仰せ付けください。体から10秒以上、外してしまわれますと、警報が鳴り、通路におられれば防犯用の拘束液が噴霧され、呼吸は出来ますが身動きがとれなくなります。部屋におられる場合は、施錠され、武装した警備員が参ることになりますので、十分にご注意ください」


「さっきの場所では、ブレスレッドをつけてなかったのですが、あそこはいいのですか?」


「本当は店内に入る場合は、いるのですが、こちらでモニタリングをしておりましたので、一時的にセキュリティを切り、店への他者の新規入室を禁止にいたしました」


 いやはや、とても厳重だな。当たり前と言えば、当たり前か。


「違和感のある方がおられないようでしたら、これから塔の中へお入りいただきます。衣装室はゲートくぐって、奥の中央ゲートを入ってから左右となります。右側が殿方用。左側がご婦人用となります。

 ご婦人方の対応には、メイド長のマリアがご婦人用の衣装室におりますので、彼女にお申し付けください」


 ボクらは衣装室に入った。ゲートを入ると左右にエリアが分かれ、そこから扉の無いセンサーゲートを通って、通路を境に左右に10部屋ずつ個室がある。また共通ゲート付近に小さなホールがあった。

 どこの部屋を使うかはブレスレッドから脳内に信号が行くようで、ここに入ると自分がわかっている感じで入るんだ。これはますますコベナント教授がからんでいることを確信するよ。


 部屋に入ると、ブレスレット以外の身に着けたものを全部預ける棚が用意されていた。これも防犯なんだろうね。ボクはウェアラブル端末などを外した。下着もすべて全部だからね。更にセンサーゲートを通るという念のいれようだ。

 さあて、いよいよ教授との再会となるのだろうか? 教授とクラリッサさんとはどういうつながりなのだろうか? 当然、研究がらみの投資がらみなんだろう。うさんくさい爺さんだからな。


 ボクは期待に胸を躍らせながら、シャワーを浴び、髪をとかして服を着た。部用意されていた服はすべてオーダーメードのようにピッタリだった。

 自動服製造機でフォーマルなカジュアル着を出してくれたのだろうな。流石、世界的に有名な衣装デザイナーのお姉様だ。彼女のセンスにも負けない、いいスタッフを持っているんだな。服のセンスばっちりだ。

 これだったら女性陣も期待大だ。また、エレナに惚れ直してしまうかもな。そうなったら、もう一人産んでもらうかな。


 30分前5分を告げるチャイムが鳴る。なかなか親切だなと思い、ボクは全身鏡と背後カメラ映像で身だしなみを確認し、ゲート付近のホールに出た。ほぼ皆、同時刻に入って来た感じだった。女性陣は薄化粧もして、期待以上の出来栄えだった。

 ザックも最高にイカした感じだ。これでは、たとえクラリッサさんでも、田舎者のダサおやじなどと毒舌吐いたりしないことだろう。


 女性陣の中でも、一番若手のジョアンナは、若い頃の筋肉の少ない、お淑やかなレイラ姉さんにそっくりで、プロポーズしたくなる程だった。この化粧はきっとメイド長のマリアさんという方がやられたに違いない。

 こう言っちゃあ何だが、ジョアンナはお世辞にもお化粧がうまいとは言えないからなあ。


「ちょっと、キースおじさん。心の声がだだ洩れなんだけど。人前で恥ずかしいからやめてくれない。

 そうですよ、マリアさんに着付けしてもらって、お化粧もしてもらいました。どうせアタシはお洒落には不器用ですよ!」


「ジョアンナさん、ここはおさえて、せっかくのお化粧がくずれてしまいますよ」


 サラくんが、ナイスなフォローをしてくれた。口は災いの元と昔の人は言っていたが、ボクという奴は本当に不用心だ。まったく。


「すまない、ジョアンナ。すっかり見惚れてしまったんだよ。君があまりにも美しくてね」


「もういいですから、おじさん。黙ってて!」


 くあああ、恐ろしい目つきだ。これはアンタ殺す!の視線だ。


 ボクはまたジョアンナに見下されてしまったようだ。頼りがいのあるおじとして失格だよなあ。


 まあ、しかしだ、我が恋人、エレナに、サラ君はすごいなモデルなみの美しさだ。おっと、よく見ると女性陣が着ているのはクラリッサさんの妹君、クロエさんの今年の春の新作ファッションじゃないか。オーダーメードだから彼女からのプレゼントってことなのだろうか?


 お姉さまはさすが太っ腹だ。ビジネス業界情報では、双子ってことになってるけど、二人は確か年子の同学年なんだよな。この情報はとある情報通に聞いたのだけど。


 そうえいば、クラリッサさんの身長なんだが、公式では158cmと書かれているけど、どうみても165cmくらいは優にあったよなあ。エレナほど長身ではないけど、彼女がトロイくんとして社を訪れたとき、女子研究員がときめいたのは、そのすらっとした体つきと、そこそこの身長があったからなんだよな。

 女性だから長身に見られるのは、体重も重いってことだから、他人に公に知られるのは嫌なものだから少なめに表現をしたのだろうな。


「おじさん、妄想にふけってないで、早くいくわよ!」


 独り言を言ってる間に、一人になってしまうところだった。ボクは慌てて、衣装室のゲートに向かった。 


 アレックスさんは、ボクらを再びゲート方面へ案内し始めたのだが、ここへ来るときエレベータや他の入り口のようなものが無かったように見えた。切れ目のほとんど見えない切込みスライドドアなどがあるのかなと思ったりわしたが。ちょっと想像つかなかった。


 アレックスさんは、通路の真ん中あたりでボクらを止めると、ボクらの周囲を光の円環が覆い、床が空気圧か磁力のような力で垂直に持ち上がるのを感じた。我々も半浮きの状態なっており、移動を始めているようなのだが、周囲は何も見えない。場所を特定させない配慮なのだろう。

 やがて、円環は消え、床が浮遊している感じもしなくなった。目的の場所に着いたということなのだろう。


「あちらでございます」とアレックスさんが示す方角に円卓があり、その中央にビジネススーツをより、上品にあしらったカジュアルスーツを着たクラリッサさんと、ハルくんが居た。二人は距離を開けて座っていた。

 さっきまでのべったりスキンシップタイムは終わったのだろう。


 クラリッサさんと、ハルくんは立ち上がった。そして、クラリッサさんは、ボクらの方をしっかりと見た。


「皆さん、大変長らくお待たせいたしました。

 私もいろいろとあり、短い時間ながら私に起こったことを、先ほど知ることができ、その内容は皆さまとも共有いただくいた方が良いと考えました。

 これまでの皆様方への数々の非礼について、この場を借りまして心より謝罪させていただきます。お世話になった皆様に、知らずとはいえ、さんざんな無礼をしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」


 クラリッサさんは、深々と頭を下げた。さっきまでのイケイケ宴会女王の姿はそこにはなかった。一人の貞淑な女性がたたずんでいた。


 ボクらはクラリッサさんとハルくんを囲むように円卓に座った。卓上のテーブルが丸く開き、ちょっとしたおつまみや軽アルコール、コーヒーなどが出て来た。

 家というからボクは、自分の家のようなものを想像したのに、この塔が彼女の家とかもう、考えが及びつかなかった。


 さて、話は彼女から切り出してくれるようだが、果たして真実の扉は詳らかに開かれるのだろうか。ボクは武者震いをした。

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