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第24話 パラダイス

「おおお、何だこれは! 街、ビルの中に街、青空に太陽まで、どうなってんだ、目の錯覚か!?」


 社長、驚愕しすぎ。本当に失禁とかしてないだろうな? と、心配になってしまう。


 無理もない、眼の前の光景は作り物感が少なく、リアルに見えるのだから。三次元投影も一部はあるのだろうが、継ぎ目がわからない。

 奥行き感もフェイクだと思うのだが、そう見えない、素晴らしい!


 まるで、ここはパラ、


「まるで、パラダイスでしょう!」


 あ、クラリッサさんに先に言われてしまった。


「いやー、クラリッサさんって、なかなか素敵で魅力的な女性だね。

 さっきの、宴会女王様とは別人のようだよ。彼女ほどのセレブだと、いくつもの顔を持っているんだね!」


「はあ、クラリッサさんだと! キース、お前まさか、トロイ、もといワイルダー女史に鞍替えするつもりじゃないだろうな!!」


 ええ、社長。鋭いなあ。一瞬どころか、マジに頭をよぎっていたんだよ。ここの医療ラボに就職できればって。


 クラリッサさんの恩恵も多少なりともあるんだろうな!

 ここならば、もっと研究の幅を伸ばせるじゃないか!


「クラリッサさん! こちらの企業は一般には非公開ですよね!

 こちらの医療ラボに就職するには、どうしたらいいんですか!」


 げー、早いぞ、サラくん。ボクを差し置いて、若い子は何でも早いなああ!


「あ、私もそれ考えてた! 麗香、私もお願い!」


 ゲゲゲ、エレナくんもかい。更にミドルネーム呼びなんて、くー遅れてなるものかーーー


「クラリッサさん、ボクも真剣に考えています!」


 ボクも声を上げずにはいられなかった!!


 クラリッサさんの方へ前進する俺たちの後ろで、社長の悲痛な叫び声が聞こえるが、今のボクにはクラリッサさんの姿しか目に映らない状況だ!


「あら、皆さん、ここに興味がおありのようですわね。このヴィレッジの企業や機関は本体とは独立してましてね。ここで採用された方は、ここを拠点とする就職となります。

 けれど、アタシにここへ招待されたという事で、企業への私の推薦権利を得られたということにはなりますね。

 このヴィレッジにある企業や機関に所属されるには、ここに来れることが第一条件になりますから。通常の方法では入ることはできませんからね」


 クラリッサさんは、小悪魔的な微笑みでウインクする。これにときめかない男がいるだろうか!


「あ、皆さんすみませんが、あたくし服を着替えて参りますので、しばらく街を見ていてください。

 飲食店もあります。ひとまずはおくつろぎください。1時間後にアナウンスさせていただきますので」


 そう言って、彼女はハルくんの手を引いて中央の塔へ走り去って行った。


 彼女が道行く人の目に留まると、ヤンヤの歓声が巻き起こる。ここでの彼女の人気は絶大だ!!


「ちょっと、なんでハルまでついていくの! ハルーーー!」


 ああ、ジョアンナ。可哀想に。ハルくんがまさかあそこまでのシスコンだったとは!

 しかし、義理の姉へのシスコンって、アリなのか? 血のつながり無いのに、それって、ただの恋愛では無いのか?


 ボクらは意気消沈した社長を連れて、近くのカフェに行った。軽いアルコールも出す、高給カフェ店だったが、すべて無料となっていた。


 このクラリッサヴィレッジの飲食店や医療施設、カイロプラクティック、スパ、ジムなどの施設はすべて無料とのことだ。クラリッサさんの莫大な資産で運営されているのだろう。


 どこで調べたかって?


 店内の端末に載ってたんだ。ここの情報はウェキペディアにも、動画投稿サイトなどにもリークされないんだな。


 強力なサーチで根こそぎ削除され、投稿した奴もお縄になってるのだろうな。

 リーク犯人たちの逮捕者情報も見れたりするのだから、怖いよね。


「くそー、今日はとんだ災難の日だ!

俺たちのトロイが、あの可愛くて、健気な女の子が居なくなってしまうなんて!

 変わって現れたアイツは何だよ、まるで女王様じゃないかよ! 本当にトロイと同じ人間なのか? どっかで、入れ替わったんじゃ無いのか?

 俺はこの後、父さんや母さん、動く家の皆に何と言えばいいんだ。トロイは皆のアイドルだったんだ。

 トロイがもう居ないとか、チクショー、これじゃ、トロイが死んだも同然じゃ無いか!」


 社長は周囲の目も気にできないほど取り乱している。顔は真っ赤で涙ぐんでいる。社長と同じ気持ちであろうジョアンナが見かねて、兄である社長をなだめている。


 ボクは、複雑な心境なのだが、社長には悪いがボクは本気で転職を考えているんだ。義理や人情で高度な研究は無理なんだ。社長、いや、ザックくん。君のご家族との絆はこれからも大事にはしたいと思うが、研究はボクの夢なんだよ。それは夢で終わらせたくない!絶対に完成させたいんだ!


「ちょっと、キースさん。心の声がボソボソ聞こえているんですけど、どーいう神経してるんですか!」


 眼の前にレイラさんの怒りモードMAX時のような表情のジョアンナが居た。ボクとしたことが妹のようなジョアンナの存在を周囲の壁と同じに見てただなんて!


 でも、大人としてここは、しっかりと意見をせねばなるまい。ボクは、弟として見ていたザックの時のように真剣に対話することにした。


「いや、ボクは真剣だよ。ジョアンナ。

 そして、社長。いや、ザック、君も大人として行動し、言動したまえよ。トロイくんを失った君の悲しみはわからないでもない。あの子は本当にいい子だった。君とはまるで兄弟のようだった。たぶん君のことだ、自分の会社にでも入れるつもりだったんじゃないのかな。

 これはボクの推測なんだが、彼女は心を誰かに埋没させられ自我を失っていたんだよ。そして、自我を失った姿がトロイくんだったんだよ。ハルくんと彼女の会話から察するに彼女には、愛する夫が居て、5歳の娘を持つお母さんなんだ。

 そんな彼女が、ずっとトロイくんのままで居て良かったはずは無いんだよ。ザック、君だって父親だろう。家族と長期離れているけど、レオナさんやクルトくん、リアちゃんのことを思わない日なんてないだろう」


「ああ、そうさ。俺だって、家族は恋しい。できれば、一緒に居たいさ」ザックはようやく小さく口を開き、囁くような声で話してくれた。


「ジョアンナだって、わかるよな。君はもう18歳なんだ。ハルくんは、ちょっといまお姉さんに振り回されているけどさ、彼との結婚を考える年齢になって、婚約もしてるじゃないか。いつまでも、わがままな末っ子じゃないんだ。トロイのことはきっぱり諦めるんだ」


「社長、麗香は慣れない人には毒舌吐くきらいがあるけど、根はとてもいい人なの。確かに彼女は、自分と釣り合う人を選ぶ傾向は強いわ。だって、彼女はとてつもないセレブだから。

 でも、彼女は、数ヶ月もの間、社長のご家族の世話になっているのよ。それを理解できない人じゃないわ。きちんとお話をしたら、彼女の対応は変わってくると思うの。

 だって、彼女は、自分が日本人の血を受け継いでいることも自慢にしているの。一宿一飯の恩義ていうのを大事にする性格なのよ。

 今は混乱しちゃって、ああなってるけど、きっとそれなりに礼儀をわきまえた対応をしてくるから。ね。ジョアンナも、そう理解して」


 流石は我が恋人。エレナくん、ナイスフォローだ!


「ジョアンナ、もうしばらくすると、クラリッサさんから呼び出しのアナウンスがあるだろうけど、君はザックについてここに居てくれよ。彼女の元へはボクら3人だけ行くよ。

 多分だけど、あそこでする話は、キミらではついていけないだろうし、やれることも無いよ。(ちょっと、冷たすぎるかな、この言い方)」


 でも、再就職の話は別だからね。と、言いそうになったが、グッと我慢をした。ふー、良かった。


 今はシリアスにしなければ、ボクはそう心に深く誓った!

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