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第23話 クラリッサビレッジ

 今日はボクにとって人生で2番めに当たる大事件に遭遇したと言えるだろう。


 1番めは何をおいても幼少時から青年期にかけた戦争体験に尽きるけど、あれについては自分ではけじめをつけてるんだ。


 その人は、とてもバイタリティーに溢れ、エネルギッシュで、破天荒なのに、異様に人を惹き付け、健やかで、清掃で美しく、魅力に溢れた女性だ。


 その女性ひとの名は、クラリッサ・ワイルダー。本名は、クラリッサ・麗香・加藤という。


 ビジネスの業界人なら知る人ぞ知る超がつく程の大金持ちで、世界のお金持ちで5人以内にいる人だ。


 彼女が何でそんなに金持ちなのかと言えば、全世界にエネルギーを供給する発電会社の社長なのだ。

 表向きは違うことにされているが、彼女が代表であることは業界では常識なのだ。


 更に驚くべきは、あの世界的な格闘家、ミハエル・和樹・加藤の奥様であるというのだ。


 一見、まったく接点のなさそうな2人が、どういう馴れ初めで知り合ったのかと疑問に思ったが、春一番、富士山の若き経営者である、ユーリー・晴信・加藤の兄であることを踏まえれば、二人は幼少期からの幼馴染みの線が濃いと見える。


 しかし、少し気になることがあるんだ。彼女は、最初、男装してあたかも誠実な青年に差し掛かった少年の出で立ちで、ボクらの前に現れた。


 その少年は、実は少女だった訳だが。いや、ここは年齢的にも、彼女の社会的な地位的にもそう呼ぶのは極めて失礼なことになるので、ここでは女性と訂正させていただこう。


 その女性は、昔の記憶をほとんど持ってなく、ザック社長が発見したときは、名前はおろか性別すらわから無いにも関わらず、人工筋肉繊維が編み込まれた政府機関でしか使用されていない特殊なパワードスーツを着用させられ、その使い方も知らないのに、ちょっとしたコツを掴んだだけで、簡単に使いこなせた。


 更に、言語も自在で、何語で話されているか分からなくても、瞬時に受け答えが出来たという。料理のような日常的な家事の中でも、重労働にも近い大人数の食事の調理や味付けも出来て、電気や機械工事、コンピューターも入り口さえ教えれば容易にこなしたというのだ。


 そんな器用な記憶喪失者は、これまで聞いたことが無い。もちろん彼女のベースの能力が、異様に高いことはよく知られているが、語学力という点では3、4ヶ国語ぐらいだったと聞いている。そんなに臨機応変なマルチリンガルじゃないってことだった。


 それよりも、これって、僕とコベナント博士の研究に似てないか?


 僕の研究は、戦争や事故で精神的な障害を持った人の記憶を部分的に埋没させ、精神状態を安定させようとするものだ。

 実験はいくつかやっているが、長期間の維持が難しい、幸いなのは副作用がないことくらいだ。


 コベナント博士の研究は、人の経験の移植のようなものだ。大災害のような天変地異で人類が失うものは多く、引き継ぎ後世に伝えるには、記録だけではどうにもならない。

 

 人がその知識を活用し、技能を継続しなければ、・・・・・。博士の研究は、人の経験を基本技量を持つ人に植え付け、その経験にある学問や技術、運動能力を更に向上させることだった。


 ただし、植え付ける基礎技量の無い者にこれを行っても知識にすら残ら無い。わかりやすく言えば、不器用な者が器用になることは無く、やり方を知らない者がそのやり方を知って上手くできるようになるのだ。

 さらには、同じような知識や経験があっても、移植にはバイタルパターンの似た融合させやすい適合者が必要であると言ってたように記憶する。


 だが、僕らは、あくまでもスポーツや事故障害からの回復医療という接点でお互いの研究を融合させ、その派生で人が危険な場所に行かずにアンドロイドの体を自我の体のように操作するといった研究をしていたのだが、


 ボクは彼女に触れたり、近寄ったりすると、実験の時に体に埋め込まれた生体インターフェイが共鳴を起こしているように感じるんだ。それは、彼女と精神的な部分融合のようなものを感じるんだ。

 彼女は、たぶんボクと同じ時期に実験をしたことがあるのだと思う。それどころか、共鳴者かもしれないんだ。


 トロイとしての彼女は、完全にクラリッサの意識が埋没し、埋め込んだ誰かの習性が出ていた。

 あの利発そうなものの話し方、好奇心の塊のような貪欲さは、まるで少年時代のボクを見ているようだった。


 でも、仮にボクの経験が使われたとして、いったい何が使われたんだ。全く接点が見えない。彼女は、ザック社長が見つける前はいったい何をしていたんだ。


 奇怪なことに、発見された彼女に埋め込まれていたプレートディスクの情報がコベナント博士の出身国とも関係があるのは、偶然にしては出来すぎだ。

 そして、博士は未だに行方不明のままだ。絶対に何かからくりがあるに違いない・・・・・、これはミステリーだ。何としても謎をとかねばならない。


 と、考え込んでいたら、視界に入ったとてつもないもののせいで、今まで考え込んでいたことが、さっぱり消し飛んでしまった!


 眼の前に現れたそれは、ビルの中であることを感じさせない程にスケールのでかい、まるで人工の都市だった。

 何故か青空があり、太陽のようなものまである。中央には大きな噴水のある広場があり、それを囲むように柱と融合したビルがある。ビルとビルの間にはモノレールのようなものまで走っていた。


 厳かに掲げられている会社のロゴを見るとIT関係や医療関係の有名企業ばかりだ。そして、ここを街と思わせた最大の要因は、様々な人種の人々行きかっていることだった。 

 通行人はすべてこの企業街のビジネスマンばかり。服装はビジネススーツな人もいれば、カジュアルな服装の人、民族衣装の人もいる。聞える言語は、主に英語のようだが、フランス語やドイツ語、中国語も聞える。


 ボクらは慌てふためいて、実景をもっと近くで見ようと、ガサガサと慌てて車を出た。それとは対象的にクラリッサさんとハルくんはゆっくりと車から出た。

 ハルくんはこの光景は初めてではないようで、特に驚きもせず、姉のクラリッサさんを手をひいていた。二人は本当に仲がいいようだ。兄の嫁のお姉さんというよりも、幼馴染の友達という感じなのだろう。


「これ本当にビルの中なのか、異世界に転移したとかじゃないだろうな!」


 ボクはバカになってしまったかのような発言をしてしまうほど、驚愕したのだ。


 皆の仰天ぶりは、ボク以上だった。さんざん、しょぼい会社だの田舎くさい男だのこきおろされた、社長は顎を外し、腰も抜かし、失禁・・・、(おっと、それはしてなかった。)とにかく、慌てふためくほどの驚きぶりだった。


「ようこそ、皆さん、ここがクラリッサビレッジですわ!」


 クラリッサさんは、満面の笑顔で、誇らしげに右手で前方の中央塔を示すようして、皆に紹介した。

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