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第19話 もうひとりの私

 床は凹凸の少ない石畳。研磨されていて床面はかなり摩擦抵抗が低い。スラインディングするのにうってつけだが、当然、相手もそれをやって来る。


 キャメロンは階段の背後に隠れた。警報機も切られているのかな。全く鳴らない。


 警報機は要所要所に設置されているはずなんだが、探知機は動くが館内の通信中継器は切られているようだ。


「キャメロン、警報機を押して、お願い」


 アタシは通信機で彼女に問いかけるが、返事がない。そこまで怯えてしまうのか?


 彼女は無鉄砲なタイプではないから、咄嗟の危険に度胸が座ることがないのか。仕方ないだろう一般人はそんなものだ。


 アタシはやや身をかがめ様子をうかがった。サーモグラフモードで周囲の敵を探知すると3人居ることが分かった。


 他は不意打ちをくらったのか、殺されてなければいいが。血の匂いはしていないが、首を折るなどの方法もある。


 不思議と照明が落ちないところを見ると、どうやら、ここの照明を彼らは落とせないようだが、唯一、薄暗い場所を選んで、アタシらを誘導したのだろう。


 さあ、敵はどうするつもりなのか。殺すことが目的なら、なんでこんな城の内部でやるのか。そういうことは今、考えてもしょうがない。


 生きて帰らなければ、アタシはここで死ぬつもりなどないのだから。


 膠着状態の中、静寂をかき乱すかのように、カラカラカラと小さく硬いものが床にスライドして投げられた。


 アタシは咄嗟に閃光弾だと察知した。


 アタシは目を閉じても五感増幅器の影響で周囲の空気の動きを察知できた。


 耳をすませば、左右から走って来る足音が聞こえた。右の奴はアタシの背後に回り込み、左の奴は前方に回った。フェイントをかけて、前後で挟み撃ちするのか。


 なんとも無防備で間抜けな仕掛けに思えるが、もう一人が待機していることで何かの罠があるのかもしれない。


 アタシは後方のやつが2メートル手間に近づいた時に、後方に向かって走り出し、身をかがめスライディングして、足を払い、左に回転して立ち上がった。


 倒れる奴の側面にスライディングして、頭の後ろを掴み、床に頭をぶつけさせて失神させた。


 死んだかな。相手は威嚇だったのかもしれないけど、これはもう王族へ対する殺意なのだから、正当防衛よ。死んでも咎められることはないわ。


 後方の奴が瞬時に倒されたのを見て、前方の奴はアタシに飛びつくタイミングを外され立ち止まった。そして、格闘の構えを見せた、軍隊格闘の構えだ。


 アタシは後転して、反ったバネ板が戻るかのように立ち上がり、今度は前方の奴に突進し、前に出した右ひざを足場にジャンプして奴の肩に乗った。


 一瞬のことに対応しきれずヲタヲタする奴の首を横に曲げで折り、飛び上がって床に着地する。奴は床に倒れる。


 間髪入れずに、静寂の中にぱあああんという音がした。そして、脇腹あたりに熱と小さな痛みを感じた。


 3人目がアタシに銃を撃ってきたのだ。場所は脇腹だったが、察知できたので防弾強化が行え弾をはじいた。


 それでもかすかな痛みはある。アタシも銃で応戦する。こちらは小型拳銃、口径も9mmと小さいが精度は護衛が持っている銃より遥かに高い。だが、簡単には当たらない。


 急所を狙って2、3発撃ったが体をかすった程度の反応だった。相手も防弾チョッキは着ているから9mmじゃ頭にでも当てない限り、致命傷は追わせられない。


 もちろん、眉間を狙らったつもりだったが外れて肩をかすめた。やはり緊張している。訓練通りにはいかない。


 アタシは射撃は得意だが、この状況でやはり狙撃は無理だ。アタシは奴のいる方角へ全速で走り出した。奴はたまらず、隠れていた柱から現れるが、アタシが左右に移動するので狙えない。


 アタシは左右に動き回って、近くの柱の近くで奴の死角に入ると柱をつたて天井まで登った。石造りを模倣しているおかげで、指や足先をかける部分がたくさんある。

 ボルダリングが得意なアタシにはなんてことない。アタシは天井を伝って奴の頭上まで移動した。


 奴はアタシを見失い気が動転している。アタシは奴の頭めがけて飛び降り、頭を床に落とさせ、右手をつかんで、奴の頭を右足で押さえつけ、いっきに右腕を絞り上げて首ごとへし折った。


 周囲には奴らに殺された護衛が転がっているのが確認された。護衛は全部で8人いたようだ。センサーに護衛の生体反応は全くない。アタシが殺ったのも含めて全員死亡した。彼らの名前も知らない。家族には彼らの死亡通知と報奨金がであるだろうが、悲しいことだ。


 裏切った3人の家族はどうなるのだろうな。家族は関係がないとはいえ、裏切りは重罪だ。そこはアタシが気にすることろではないのだろうけど。


 アタシは、状況を確認してひといきついた。体からは熱が発散され、水蒸気のようなものが上り立った。


 生死をかけた戦いは、これが始めてではなかったが、いつも緊張する。


 アタシは大きく深呼吸をした。


 周囲はもの静かで、未だに警報も鳴っていない。そういえばキャメロンはどうしただろうか。


 時間にしたら5分も経っていないのだが。全力だったアタシにはその何十倍の時間に感じられている。


 アタシは無線でキャメロンに話しかけようとすると、急に背後に人の気配を感じた。


「トロイメライ!」


 歓喜に満ちたキャメロンの叫び声が聞こえた。しかも近い。そして、生声で真後ろだった。


 彼女がアタシに近づいてくる気配を全く感じていなかったことにやや驚愕した。でも、不思議だ、ほんのさっきまでアタシは敵と交戦中だったのだ。彼女はその中でアタシに近づいて来ていたというのだろうか?


 疑心暗鬼のまま振り返ると涙目で顔を赤くした笑顔のキャメロンが居た。キャメロンは泣きじゃくりアタシに抱き着いた。


「トロイメライ! あなた凄いわ。凄い、凄い。護衛のアタシより強いだなんて。道場育ちのアタシは今ので失格ね!」


「アナタは護衛と言うよりアタシの側近なんだからあれでもいいのよ。アナタをクビにしたりはしないわ」


『でも、アナタはやりすぎ。流石は世界プロ格闘家の妻にして、職業軍人さんね。本物のトロイメライはここまではやれないわ。瞬時に相手の命を奪うだなんて、ね』


 何! アタシは頭の中が急にぼやけていった。




 チ、チ、チ、チ、チ・・・・・、遠くで小鳥のさえずりが聞こえる。


 温かい光が入り込んでいるのも感じる。


 アタシはその光を感じて、ゆっくりと目を覚ました。視界に入った場所は、部屋だった。寝ていたのはふかふかのベットの上。服は寝間着を着ている。ここは自室?


 あれ、アタシはどこに居たのだっけ、こことは違う場所に居た気がするが。でも全く思い出せない。


「トロイメライお嬢様、お目覚めですか」


 メイド長のクレアが寝室に居た。


「おはよう、クレア」アタシはクレアにいつもの朝の挨拶をする。


「おはようございます。トロイメライお嬢様」


 クレアはむすっとした表情だ。また、アタシ、何かやらかしたのかしら? ぐっすり眠れてて、昨晩のこと全く記憶に無いのだけど。確か、キャメロンに王都を案内してもらって、それからカフェで昼食をとって、バチスカン城へ舞踏会の下見に行ったのよね。


 それから、それから・・・・・。あれ、何したんだっけ。思い出せない。


「今日は宮中舞踏会ですからね。そろそろ目覚めていただきませんと、ドレスのお仕立てもありますし、舞踏会の前には晩餐会もありますから。

 それと、お昼過ぎにはカール様もお越しになられますので、今日は忙しいですよ。身支度を済まされて、ご朝食をおとりくださいませ。その前に先に、お風呂に入られてください。

 昨晩は泥酔でお帰りでしたから、お風呂も入っておられないのですよ」


「え、アタシが泥酔! 酔ってなんかないわよ。全然」


 アタシは息を手にふきかけ、匂いを嗅いでみた。かすかにアルコール臭がする。でも、泥酔ってレベルの匂いじゃないわ、日本酒1本も飲んでないレベルよ。ありえないわ。


「アタシを家に送ったのはキャメロンかしら?」


 アタシはクレアに疑心暗鬼に問いかけた。


「そうです。シュトレーゼ様です。

 酔いつぶれたお嬢様の肩を担がれて、それは大変な状態でしたわ。お嬢さまは、酔ってはしゃぎまわって、夜の路上でセクシーポースに投げキッスをして、タクシーに拾われようとされたそうですが、シュトレーゼ様がお屋敷のお車をお呼びになられて。

 お嬢様は、もう少し世間体というものをお考えくださいませ。ご両親と離れて暮らされているとはいえ、次期コベナント家の当主になられるご自覚をお持ちください」


「はいはい、わかりました。肝に命じておきます」


 アタシはクレアの小言にいつもの返事を返した。

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