第20話 夢から目覚めて
さっきまで自室に居たはずなのに、これはどういうこと。真っ暗で何も見えない。でも体はなにかに触れている。とても懐かしく、温かい心地だ。
「クラリッサ、目を覚ませ、クラリッサ」
これは、ハルの声、、、、ハルどうして、キミがアタシを呼んでるの?
アタシはどうしてたんだっけ? 頭の中で多くのイメージが怒涛のように走り出す。それらが重なりあって、頭の中が混乱してしまう。
そして、それらのいくつかは一場面、一場面、ややゆっくりとイメージが動いた。ひとつは、メイド風の女性に説教をされているアタシ。
もうひとつは、謎の人物と格闘するアタシ。お城のような大広間で、イケメン王子のような人と優雅に踊るアタシ。
そして、アタシとうり二つの女性と対面するアタシがいた。
鏡を見ているわけではない。その人はアタシより少し、若い感じだった。アタシの女姉妹は、双子の妹のクロエ、いえ晴香だけの筈。
彼女は母親譲りのアタシが羨む程の艶のある黒い髪の毛の持ち主だ。彼女はその黒髪をとても気に入っていて、染めたりなどしない筈だ。
『アナタはアタシよ』
その女性は白い部屋の中で、アタシにそう微笑んで言った。誰だったのか。名前は。なんと言ったっけ?
すると、右頬を叩くような軽い痛みが走った。何、何が起きてるの。そして、口の中に凄いピリッとするものが入って来た。これは、ワサビだ。
アタシは飛び起きた。そして、ぺっぺと口の中のワサビを吐き出した。
「やっと目を覚ました。クラリッサ、心配した」
アタシはハルが言い終わる前にハルから離れて、右足を大股開きして、下駄でハルの頬を踏みつた。
「姉さん、股の間が見えてるよ」
足元を見たら紐付きパンティが足の袂に落ちていた。まあ、別にハルに見れてもどうってことない。こいつはアタシの舎弟なんだから、それよりも、怒りの方が先に来てしまう。
アタシは下駄をハルの頬にあててぐるぐる回して、押し付ける。
「うっさい、何だお前。なんて起こし方しやがるんだ」
「姉さん、今は場をわきまえて。お客さんというか姉さんの連れの方々がご一緒だから」
「連れ? 連れって誰だ」
アタシは背後に人の気配を感じ、振り向いた。
「ハル、誰? この人たち」
「え、覚えていないの? 真ん中の人は姉さんがこの数か月お世話になったザック・シュミットさんだよ。そして、そのお隣は、」
アタシはザックと言われた人の隣に立っているスーツ姿のいかした女性が目に留まった。その女性はすごく面影を感じた。忘れもしない、だって、大親友なんだから。
「あー、アンタ。シンデラーじゃないの。そうでしょう。シンデラーよねー、懐かしい何年ぶりかしら」
アタシはつかつかと歩み寄り、彼女の手を握り、近くで彼女の顔を再確認し、彼女がシンデラーであることを確信した。
「あなたトロイメライなの? 良かった記憶が戻ったのね!」
「記憶が戻った? アタシって記憶喪失だったの?
そういえば、なんでここに居るのか、すごく不思議なのよ。何かをやってたはずなんだけど、それが全く思い出せないのよ。
でも、ハルが居るから一応、平和な環境にいるのよね」
「いいわ、その話はよしまよう。済んだことだもの。
でも、驚いた。アナタがあの有名なクラリッサ・ワイルダーだったなんて、衝撃よ。只者じゃないとは思っていたけど、凄いわ。
アタシの本名は、エレナというの。エレナ・ローゼンバークよ」
アタシは、シンデラーと熱い抱擁を交わした。彼女は、アタシのわがままな日本旅行に付き合ってくれた12歳のときからの親友だ。
アタシはシンデラーとの久々の再会の感動をいったん落ち着かせ、彼女の隣のイカした男性に目をやった。彼には何か親近感のあるオーラのようなものを感じた。
アタシは思った。きっと、彼はシンデラーの彼氏ではないのかと。そこでアタシは聞いてみることにした。
「そのお隣は、もしかして、シンデラー、いえ、エレナの彼氏さん、それとも旦那さまかしら?」
アタシの問いかけに、そのいかした男性はややひきつった表情をした。あたし、今、怖い顔してるかな。してないよ。だって、ハルがいるから優しいお姉ちゃん顔の筈だから。
「いやー、クラリッサ・ワイルダーさん、は、初めまして、ボクはエレナの恋人のキースです。キース・エマーソンで、す」
やっぱ、エレナの彼氏なんだ。夢かなったじゃないエレナ。でも、彼氏さん、何かとてもぎこちないわね。
「そう緊張なさらないで、キースさん。なんかアナタとはすごく相性が合いそうな気がするの?」
アタシはくすっと社交辞令笑いをしたが、なぜかキーズさんはぞくっとしたように引いていた。何でかな?
そして、アタシは最初にハルに紹介されたザックという人の方を振り返った。ザックはかなり困惑した顔をしていた。でも、どことなく見覚えのある顔つきだった。
「アナタ、どっかで見た覚えがあるけど、気のせいかしら?」
ザックは目を見開いて、アタシを見ている。まるで、何かの衝撃でもうけたかのような驚きの表情のまま硬直し、ぶるぶると震えている。当然、アタシの問いかけになんか反応できないようだ。
それならと、アタシは記憶をたどってみた。その背後からハルが来て、アタシの脱げたパンティを持ってきて、下から上げて履かせてくれた。
よく気がきく弟だ。普通の弟ならこんなことはまずしないけど、そこはアタシとハルの間柄なんだな。しかし、この光景を見たザックは、更になんだか複雑な顔をしていた。
「ハルー、オマエ、その、トロイ。いや、クラリッサさんと、ど、どういう関係なんだ」
ザックはわなわなと震えながら、ハルに問いただす。
「えーっと、非常に言いにくいのですが、なんというか、クラリッサさんは、ボクのー、姉です」
「お前に、姉なんかいないだろう。5人全員男兄弟だったはずだぞ」
「ええっとですね。この方は、オレの兄、和樹のお嫁さんでして、義理の姉なのですが、義理とか姉が嫌うので、普通に姉とか、名前のクラリッサと呼んでるのです」
ザックに返答するハルが恐縮しきっていることをアタシは少し不快に思った。なんだコイツ、アタシの弟に馴れ馴れしい、と。
「ハル、このヒト、凄くアンタに馴れ馴れしいけど、アナタの何なの?」
「ええええ、今、ここで話すの?」
ハルは凄く困惑している。
「今は話さないで、いつ話すのよ!」
「えとー、えとですね。ザックさんは、ボクのお嫁さんになるジョアンナさんって、方のお兄さんなのです!」
ハルのお嫁さんと聞いて、アタシの頭には一気に血が上り、湯気が出始めた。
「アンタ!、このアタシに黙って誰と婚約とかしてんの! その女、今ここに連れてきなさい。それか、その女の居場所を教えなさい。乗り込んで行ってやるわ!
アンタにふさわしい女かどうか見定めてやるわ!」
ハルは少々女に騙されやすいから、これはきちんと見定めないと。不幸になるハルなんかアタシは見たくないんだ!
「うわー、それだけはやめて! というか、そこは記憶が戻る前の姉さんの家だったんだけど」
「何言ってんのアンタ。
アタシの家は、ビジネス・ウオリヤー・ガードとかいうしょぼい会社が下に入っているビル、チョモランマ・スカイスクライパービルのペントハウスなのよ。
そうそう、一応あそこのしょぼい会社の筆頭株主やってるけど。業績がいまいちなのよね。社長は若手でキレ者って聞いていたのに、アタシの目を見るなり小さくなっちゃってさ。ほんと、田舎者でダサイ奴だったわ!」
「しょ、しょぼい会社・・・・、田舎者で、ダ、ダサイ奴・・・・、おまえ、もうトロイじゃなくなったのか・・・・トロイ、帰って来てくれよ」
ザックは、ぶつくさ言いいながらうずくまった。何言ってんだコイツ!全く持ってうぜえ。
「ああ、今度はザックさんがトラウマ状態になっちまった。今日はいろいとやらかしてくれるな姉さんはもう!」
そうこうしていると送迎車の到着の連絡が入った。なんでも皆はアタシの家に行くらしい。
ハルとエレナはいつでも歓迎だが、このコブどもは招待した覚えはないのだが、ま、飲みながら、こいつらの話を聞いて、アタシの身に起こったということを聞こうじゃないか。
しかし、ハルが車の、しかも高級リムジンを手配をしてくれたと聞いて、アタシは満足した。流石はハル、姉思いの憂い奴だ。
今日なら、ちょっとくらい抱かれてやってもいいぞ!




