XXX.断章Ⅱ
――アラン選手がはじめて出場した大会は日本選手権水泳競技大会だったのですか?
過去をさかのぼる限りではね。
彼はその大会で圧倒的な成績で優勝し、オリンピックの日本代表選手に選ばれたんだよ。
――オリンピック代表選出には、二つの条件があると公表されています。一つが、日本選手権で二位以内に入ること。二つ目が、派遣標準記録として世界ランキング一六位のタイムを越えること。たしかにアラン選手はこの条件を突破したのでしょうが、国の威信をかけることから、今までなんの大会にも出ていないのであれば、オリンピックでも結果を残せるかわからず、代表落ちさせられると思うのですが。
たしかにね。
普通ならそうだろう。
だけど、彼が選出されたのが現実だ。
裏でどんな取引があったのか。どんな情報を国は知っていたのか。
それはわからないが、彼が代表となったのが現実なんだ。
そう、二〇一四年に突如としてこの世界に現れたアラン選手がね。
――それは、どういう?
書類上は、という意味だがね。
公表されている彼の卒業した小学校の同級生で、彼が通学していたことを知っている人はいなかった。
教師でさえも。
あたかも、存在しなかったかのように。
彼は本当に存在していたのか?
彼の過去を知る人は誰もいないんだ。
彼の過去を共有する人は誰もいない。
――そういう意味では、私たち記者の間でも有名な話があって。元オリンピック代表の天陣選手も過去が存在しないのではないかと。
よく知ってるな。
――ええ。過去、天陣選手のドキュメンタリー番組を作ろうという話があって。しかし上層部からの圧力で企画が取り潰されました。それに納得できなかったあるプロデューサーが、個人的にネットで番組を配信しようと過去を調べたところ、アラン選手と同じように誰も過去を知らなかったそうです。
彼女は彼とは違うよ。
というより、彼女のことは忘れたほうがいいよ。
国に消されたくなければね。
――それは、どういう……。
知らないほうがいいよ。
この話は忘れよう。
それで、アラン選手の話だけど。
――はい。
個人的にいろいろと調べて、考察してね。
ある程度、正体は推測できたんだ。
――それは、この国も認識しているのでしょうか?
しているだろうねえ。
というよりも、知っているからこそ手を貸しているんだろう。
――(唖然)
ひとつ質問しよう。
この答えがわかれば、彼の正体を察することができるかもしれない。
いきなり答えを言うのは、番組的にも盛り上がらないだろう?
――(苦笑)
では、クイズだ。
かつて国からの指示で回収となった童話があるだろう?
それの……
(突然の銃声、そして画面がブラックアウト)
《日の目を見ることなく破壊されたドキュメンタリー動画より》




