036 新しい生活に期待を
「ほら、あれです」
道化者が遠くを指差した。
そう言われて目を凝らして眺めるが、ソレらしいモノは見つからない。
「どれどれ・・・? あれ? 何も見えないんだけど」
「よ~くご覧なさい。まだ遠いですが木柵が見えています。その柵の内側が目的の国の領地ですよ。あそこまで案内するがわたくしの役目です」
よ~く眺めると人工物な何か立ち並んでいた。
「そろそろ、わたくしとの愉しい時間は終わりとなります。残念ですねぇ。名残惜しいですねぇ。そうは思いませんか」
そうは思いません!
少なくとも私は、悪意が無いとしてもなじられて喜ぶ変態じゃない。
「そうだな、残念だ。名残惜しいな。そう思うと何かあるのかい」
棒読みに言い放つ。
道案内は有り難かったが、何となく鬱陶しさを感じていたから、解放されると思うとちょっと嬉しくなった。もう最後ならばと勢いに任せて嫌がらせを返したくなって声に出してしまった。
「ええ、もちろんです。『最大の演出』とお詫びをプレゼント致しましょう。さぁ両手を出して下さい」
言われるままに両腕を伸ばした。
『神様の祝福』とか呼ばれるチートスキルは不要だとしても、共通言語という自動翻訳スキルも何も与えられていないと教えられては心許ない。
お詫びと言うのだから、スキルの代わりに万能なチートアイテム・・・時勢的にはスマホとかそうのだろう。ボイス翻訳機能あれば言葉が疎くても何とかなるはずだ。
そういうアイテムを手渡してくれるのだろうと期待したから、なんの疑いもしなかった。
ブンッ!
突然、そんな擬音が聞こえた・・・様な気がした。
道化者が両腕を鷲掴みすると、軽く一回転りして私をぶん投げたのだ。
正確には4分の3、だいたい270度回転して手を離した感じではあるが、大人と子供の身長差を考えれば相当な勢いで投げられてしまった。
・・・って冷静に状況判断している場合じゃ無い!!! このままだと地面に叩き付けられる!!
一瞬、大怪我をした自分の姿が脳裏を過った。このままじゃ危険だ! と足から着地できる様な体勢を取り首を守る為にと頭を抱えた。刹那程だが、どうやって着地、いや受け身と言う方が近いだろう。そのイメージを何度も反芻した。
体育で柔道の授業があったおかげだろう。完璧では無いが、着地した後は勢いが消えるまで転がる事が出来たので四肢に擦り傷が残った程度で済んだ。少しとはいえ、体験すると体は結構覚えているのだなと感心した。
ったく、いきなり何すんだ!って道化者の方を向くと、クレハが両手を前に出して駆けて来る。
「リト、だいじょう・・・ブっ」
あ、転んだ。
クレハは自力で起き上がった。転んだ痛みで涙が滲んでいたが、歯を食いしばって駆け寄って来た。
だいぶ動ける様になったんだな~と、つい考えながら眺めてしまった。
「リト、だいじょう・・・ブっ」
あ、また転んだ。
クレハは涙を拭いながら起き上がった。そして歯を食いしばって駆け寄って来た。
「リト、だいじょ・・・」
って呑気に眺めてる場合じゃ無い! と、四肢の痛みを堪えて私も駆け寄った。クレハが転ぶ前に抱き支える事ができ・・・ずにお互いが支え合う様に崩れ落ちた。
「リト、だいじょうぶ? けが、いたくない?」
クレハの方が何度も転んで痛いだろうに、先に私の心配をしてくれた。
「私は大丈夫だよ。それよりクレハの方が大変じゃないか」
「ほんとうに、いたくないの? だいじょうぶ?」
そう言うとクレハは私の頬を拭う様に撫でた。べたっとした湿り気と、ざらっとした土の感じが気持ち悪かった。
「でもリト、ないてるよ。いたいよね。いたいのいたいのどんでゆけ~」
そう言ってクレハが手足をさする。
今時、そんなおまじない使うのかな? と思った矢先に、涙が溢れて頬を伝う。鼻の奥をくすぐられている感じが鼻全体に広がった。
「あれ? 涙が止まらない。なんで?」
きっと人から心配されたのが嬉しかったのだと思う。無味乾燥な生活だったから、この暖かさが恥ずかしく、すぐったい感じを受けている。
年を取ると涙もろくていけねえや。とか、子供の体だから感情が直ぐに現れたのだろう。とか、照れ隠しに考えてしまったが、きっと両方の感情が入り交じっているのだろう。
「ありがとう。もう大丈夫だよ」
「そうなの。だいじょうぶなの。よかった。でも、かおがすごいよ」
そう言いながらドレスのエプロンで涙と泥を拭ってくれた。とってもこそばゆい。
「それはそうと、道化者! いったいなんのつもりでぶん投げやがった!」
道化者を指さすその手には震える程に力が入っていた。
そんな叫びを気にも止めずに、指フレーミング越しにというか写真を撮る前の仕草をして近づいてきた。
「まぁ、こんな感じでしょう。受け身をしなければもっと良かったのですが、及第点としましょう」
「子供を投げ飛ばして「物足りないけど良いでしょう」とか、いくら何でも非道いだろ!」
「非道いだなんてとんでもない。『最大の演出』の為なのですよ」
道化者は人差し指を振りながら、からかい風に応えた。
「思い出して下さい。リト達は『襲撃に遭って逃げてきた』のですよ。綺麗なままでは説得力が無いではありませんか」
虐待を正当化された気がしなくもないが、怪我一つ無く命さながら逃げてきた、というのは確かに無理がある。悔しいがその通りだと思った。流石にこれ以上は文句の言葉が思いつかない。
「納得して頂いた様でなによりです。それでは、素直なリトには『お詫び』をプレゼントしましょう」
そう言いながらアイテムボックス? ・・・から、薄汚れた布製の鞄を取り出した。フラップ状の被いが付いている、子供の腕程の小さい鞄だった。ショルダーストラップの雰囲気から少々重みがある様だ。中に何か入っているのだろう。
手渡された鞄の中を早速探ると、防災グッズなラジオライトが見つかった。ソーラーと手回しで充電が出来るバッテリーがある。
そうなればもう一つは『スマホ』だ。チートアイテムゲット~! っと内心、はしゃいで取り出したのは・・・
見覚えのある携帯電話というかフューチャーフォン。つまりガラケーだった。
ガッカリ感が半端ない。
「なんでガラケ-なんだよ! スマホ出せ。今時の話しではスマホの流れだろうに!」
「・・・分かってませんねぇ。スマホは通信技術と優れたサーバーが有って初めて使えるのです。この世界にその様な設備はありませんので、ただの文鎮でしかありません。それよりもフューチャーフォンです。通信を除けば多機能ではありませんか。何よりバッテリーの消費が少ないのが良い」
揚々と説明する道化者に対して、ちっ! と舌打ち鳴らしてしまった。悔しいがその通りだ。
サーバーが無ければ機能は制限される。電卓とかカメラ程度ならスマホの必要は確かに無い。それにバッテリーだ。毎日手回し発電なんてしていられない。
中世な時代背景ならガラケーでも十分チートアイテムだろうと納得してしまう。
改めてガラケーを弄る。スライドしてキーが現れるカメラ特化したこれは、昔使っていて無くしたと思っていたモノだ。道理で見覚えがある訳だ・・・って、チョット待て!
「もしかして、このガラケーは私が使っていたモノか? まさか無くしたと思ったのは・・・」
「ええ、その通りです。別に問題は無かったでしょう。使わなくなって仕舞っていたのですから。拝借しても生活に不自由は無かったのではありませんか。それに使い慣れたアイテムが良いと思いましたので」
「・・・そうだけど、何か腑に落ちない・・・」
「それからサービスで、リトが厨二病的に集めたオカルト本、いいえ魔術書は嵩張るので、幾つか見繕ってデーターとして入れておきましたので、機会がありましたら確認してみて下さい」
「厨二病」とか余計な一言にイラッとさせられたが、有るだけマシかもな。
「・・・意外に気が利いているんだな。とりあえずは礼を言っておく」
とは口にしたモノの、こんな小さい画面で読書とか無茶すぎだろ。やっぱりスマホだ!
・・・と考えたが、バッテリーを考えると仕方ない・・・か。不意にため息が漏れた。
「わたくしが案内出来るのはここまでです。この柵を越えたら、あっちの方へ向かってください。城門が有りますのでそこから国に入れます。それから最後となりますが『決して気付かれてはいけません』。ではグッドラック!」
道化者が門の方を差した手で、力を込めて親指を立た。釣られて私も親指を立てた挨拶をしてしまった。
「幸運を」と言うその表情は『笑み』なのか『ニヤけ』なのか微妙ではあったのだが・・・。
『気付かれるな』とは2周目迄の事だろうか。何に何を気付かれてはいけないのか全くもって謎だけど、流石にバッドエンドは私自身も避けたい。この忠告は素直に受け入れよう。
そして私達2人は『設定通りに助けを求めて』門へと歩いて行った。
取り急ぎで恐縮ですが、
以上で第1幕は閉幕となります。
ご閲覧頂きありがとうございました。
この後は
閑話 1話
あとがき 少々
で、完結し、第2幕(異国生活編)と続きます。
この後もまたお付き合いいただけましたら幸いです。




