第二章 第2話 前世との齟齬
「ここが、食堂でー」
はっきり言って、一之瀬さんに案内してもらわなくとも、この学園の配置など全て覚えている……のだが。
「うん?」
「どしたのん?」
「あ、いや。何でもない……」
やはり、何か違っている。これが、校長の言っていた、全く同じ行動をしないということだろうか。
違っているとは言っても、本当に些細なことなのだ。口にするのも躊躇うぐらい、本当に小さな小さな……。
ただ、気にせず見逃せるほど、俺は楽天的じゃなかった。
「結構興味無さそうだねえ。もしかして、ここ第一志望じゃなかった?」
俺を心配してか、一之瀬さんが声を掛ける。
「あ、いや。そんなことないけど」
少し白状しよう。俺は女性慣れしてない。かといって男とすぐ打ち解けられる訳でもなく、要はコミュニケーション能力が低い。
会話のとき、「あ、」と前置きしてしまうのを見れば、低さが窺えるだろう。
「そう? 体調悪いとかじゃないよね?」
「あ、はい。それは大丈夫」
あまり外見での判断はしないが、この一之瀬陽菜という女子生徒は、整った顔立ちに、活発そうな性格を思わせるショートカットの髪型だ。
それに、片側だけを結んでいるのも更に活発さを上げている。
そんな少女と相対したら、固まってしまう……。
「そかそか。ま、困ったことがあったら何でも言ってね」
「う、うん。ありがとう。一之瀬さん」
俺がそう言うと、彼女は腰に巻いた明るい色のカーディガンをいじった。
「わ、一之瀬さんだなんて。さん付けで呼ばれたの初めてだ……。呼び捨て、でいいよ?」
うん……? 照れてる? え、何で?
「あ、あぁ……。じゃあ、これからよろしく、一之瀬」
意外と初めて――女子のことを呼び捨てにした気がする。