第二章 第3話 図書室での情報
一之瀬の案内が終わってすぐ、俺は長谷沼校長を訪れた。
「やあ、高嶺くん。コーヒーでもどうかな」
「……、頂きます」
椅子に深く腰掛けて、カップに口を付けた。
「っ……!」
勢いよくむせる。
「どうかしたかね?」
毒……でも何でもない。それは校長の態度を見ても分かる。本気で驚いている。
「あ、いや、ちょっと。苦くて」
「あぁ、すまない。苦いのは不得意だったか」
「いえ――」
言い掛けて、止まった。
――コーヒーは好きだったのですが……。言葉を飲み込んだ。おかしい、新しい人生ではこんなところさえ変わるのか?
「それで、何の用かな?」
俺が考え事をしていると、校長の方から問い掛けてきた。
「ああ、いえね。前回と違うと思ったところがいくつかありまして。これも実験の成果なのでしょうか?」
「ほう、この短時間でいくつもの相違を感じとるとは。左様、高嶺くんの言うとおり、実験の一環だ。して、どのような違和感があったのかな」
当たり障りのないところから言ってみることしようか。
「えぇっと、前回見掛けなかったような人がいまして……」
そこで気づいた。校長がこれまでに見たこと無いほどの目をしていたのを!
不味ったのか!?
しまった、と思ってももう仕方がない。
「高嶺くんは、前回の高校生活をどれくらい覚えているのかな?」
「……えと、あまり覚えていませんが、行事とかクラスメイトとか。あと、大きい事件くらいなら覚えています」
「ふむ、ならば今回君が見知らぬ生徒がいてもあまり不思議ではないと思うがなあ」
「そ、そうですよね」
何だ? 校長にとってこの話は不都合なのか? 一之瀬 陽菜は、そこまで重要人物とでも言うのか?
「む、すまんな、もう時間だ。君も授業が始まるから、もう行きなさい」
「はい。失礼します」
こうして、新たな疑問がいたずらに増えるだけの校長室訪問は終わった。
俺は、今回の学園生活で、一体何をすればいいのだろうか。もう一度卒業式を迎えたとして、また記憶は引き継がれるのか?
それともその前に、俺というバグが直されてしまうかもしれない。校長は大事なデータだと言ったが、俺をよく思わない派閥があってという可能性もゼロではないはずだ。
情報が欲しいな……。
情報といえば、学校には付きもののパソコン室か、図書室だろう。
今回は、図書室に行くことにした――。
「こんにちはーっす……」
図書室のドアを開けると、生徒はほとんどいなかった。
ほとんど、と言ったのは一人だけいたからだ。
「……」
その女子生徒はカウンターで本を読んでいるだけで、俺には一切見向きもしなかった。……まあいい。俺が用があるのは司書室だ。
「すんません、この学校の歴史について知りたいんすけど……」
「あら、珍しいわね。そんなこと言う人。あれ、あなた、授業は?」
あっ。校長にもそう言われて追い出されたんだった。何してんだ俺は……目立たないようにと気をつけていたのに。
この司書の先生ももしかしたら、科学者か? となると、俺は今とてつもないピンチに陥っているということになる。
「はぁ、まあいいわ。授業抜けてくるほど気になるのね。その代わり、もう授業サボっちゃだめよ」
まさかのお許しが出た。科学者かそうでないか……今ので見分けるのは難しいな。科学者だから見逃したという可能性も、AIだから追及しなかったという可能性もある……。
「ここか」
望月学園創立……等と書いてある本がたくさん並ぶ棚を見つけた俺は、とりあえず取りやすい本を手にとって読んでみることにした。
『望月学園・学校概要
自ら考え、学び、創造的学力並びに人間力を身につけ、社会に貢献出来る生徒を育む』
「社会に貢献って……卒業できねえのに、んなもん意味ねえだろっ」
……言って気付いたが、今の言葉……真実に近付く一歩なのではないだろうか。
そうだ。卒業出来ないのだから、こんな学校概要を作る意味はない。
いや……俺がこうなったからこそ違和感があるのであって、普通の生徒には違和感はない。つまりこの学校概要は、大して特別なものではない……?
ちくしょう。いや、こんなに早く真実に近付けるはずもないか。それに、俺の頭を過った『どこかの学校をトレースしたからこそ、この学校概要がある』という考えも可能性はゼロじゃない。
可能性を捨てるな。まだ諦める段階じゃない!




