手がかかる◯◯◯
夜風吹くたび、右に左にぷらーんぷらーん♪
「こちらミノムシ、異常なーし」
木の上から吊り下げられた俺、できることと言えば上下に跳ねたり左右に揺れるだけ。それだけ。
「もう悪さをしないと誓え」
「うっさいネリア、カチカチ山の狸さんじゃあるまいしもうなにもしないて」
近くの湖で水浴びをする間吊るされた無実の俺。大丈夫です、覗いたりしませんから。ロープでミノムシにされた哀れな俺、ロープをブチりとナイフで切ると落下して顔面から地面とキスする俺。
「ふぉっ!鼻が~鼻が曲がる!!」
なんて野蛮な人たちでしょう。これでも丁重に扱ってほしいもんだね。割れ物注意のシールでも張れってんのかボケェが!体の埃を払いのけそこら辺に適当に座り込む。
「後もう少し進めば前線基地手前の補給線に出ていくはずね。これからは徒歩になるかな」
「そりゃドラゴンが陣地に侵入なんてした日にはどうなることやら」
大あくびして涙目になる俺。疲れてるな、そりゃ俺だけ悪路を歩いてきたわけだからな。頬についた蛭をひっぺがしてネリアめがけて投げる。
「きゃっ!?今なに投げた!?」
「ちっ…」
かすりもしなかったがな…俺は急いで前線基地に戻りたかったので周りを急かすがネリアだけが座り込む…尻を蹴り上げてやったがな!
「ちょっ!なに!乙女の尻を蹴るだなんて…」
「女扱いしてほしけりゃ今すぐ帰れ」
「何よこの…」
ぶつぶついいながらも立ち上がりこちらの様子をみながら未練がましく文句たらたら喋り出す…
「遠足に来てるんじゃないんだ、文句あるんなら」
「はいはい!行きましょ!」
言葉を遮って先に歩き出す。けっ…ずいぶん尻が重たかったんだな!森を抜け、林を抜けると馬車一台ぶん通れそうな道に出た。俺は右の前線基地に向かう皆を止めた。
「お前らは左へ行け、勇者一向の案内役になってくれ。俺はそれまで前線を守り抜く。異論はなしだ」
「なしと言われても…」
「だって、俺はお前ら嫌いだもん」
「はい?」
「いざとなったら保護してくれなさそうだもん。ネリアは元は俺を殺そうとしてた暗殺者だし?裏切って罠にはめたの忘れんな!?又兵衛は殺しに来てーシュラから守ってくれてー魔物になってーあとのクソ蜥蜴…コホン…ドラゴンは信用していたにも関わらず裏切った!この場で安心して身を任せられるやつが一人としているか、いないね!」
皆しゅん…となって我が家での俺の立場とは逆にこちらが責めまくる。皆は触れられたくないところをほじくりかえされ項垂れている。別に俺は女々しくなんかないよ?方便だ、許しているともさ。俺がそこまで皆を責める立場に無いのは知ってる。でもこうでもしないとコイツらを勝ち目の無い戦いに放り込むことになる。どうしても俺は巻き込みたくなかった。頼ってまた失うことがこの上なく恐ろしい。
目の前で化け物になる仲間を見てもう俺は誰も側においたくない、そんな気持ちになっていた。仲間の援護もなく戦えるのだろうか?どの勇者も仲間とともに魔王を討ち果たした…でも俺は…俺には…
「敵に洗脳でもされたら余計な敵が増えるだけだ。俺はお前らを連れては行かない。ここでお別れだ」
と、次の瞬間。又兵衛の左ストレートが顔面に直撃し俺は鼻血を吹き出し倒れる…ぐほぉ
「まぁーだユウ殿はそんなに自信家でおられて内心安心でございます。その慢心が私たちを失うことになるとは思いませんか?」
「はへ?」
すまんな、気の抜けた返事しか出せなくて。鼻を押さえながら涙目になって反論する。
「何すんだバカ!!」
「何すんだですと?過信されてるようですから喝いれてやりましたよ。一人で何とかなる訳がないでしょう。魔王の能力から足手まといなのは認めましょう…でもこちらとしてはハラハラしながら見とけと言われて「はい、そうですか」とはならんでしょう!」
「違うから…秘策が…あいててて…」
涙目になりながら、手を上げる。皆呆気にとられたが又兵衛だけが赤面して視線をそらす。
「信用に応えるためにも今は俺に従ってくれ…あーあ嫌われたくて言ってる俺の親心がわからんか!」
「はいすいません!?」
「さっさと行け!勇者パーティーを連れて来るんだぞ!いいな!」
「はい!了解であります!」
全員ぴしっとその場に直立して一目散に駆けていった。よし、俺は苛められることもなく前線基地に行ける。勇者がパシられるなど指揮に関わるからな!
るんるんスキップしながら前線基地に向かいます。
「いーい湯だな♪アハハ♪」
木の桶、五右衛門風呂のようなこっちの世界の簡易式お風呂。体中泥だらけだったからな。疲れた体に染み渡る~
「帰ったのなら先に報告をお願いしま…す…わわっ!入浴中!?」
「お嬢ちゃん…風呂場に入ってくるとは無作法なやつめ、もうでるよ」
「前ッ!?前ッ!?」
「ん?見たくても見れんレディーだっているんだぞちみぃ~いつまでも突っ立ってないで着替え終わるまで外に出ていくことを推奨するよ」
「死ねー!」
なんだあいつ…タオルを腰に巻いてシルフの風で乾燥。鎧を装着していく。さて、腹が減ったな…食糧庫からちょろまかしますか…にへへへへ!!
「もう…いいでしょ…ねえ!?聞いてる…」
覗き込むとそこはもう無人…
るんたったっーるんたったっー食糧庫はこの建物か何やら異様な雰囲気だが…はて?
中から異様な物音が…入り口からこっそり覗き込むと何やら人型の物体が食糧を根こそぎ貪り食っているではないか。あれはなに…むむ…
なんか三角形の物体が頭らしいところからこう…ビョーンととびたしてパタパタと動いている…2つ忙しく動いている…ものは試しだ。こんな獣、俺はやつしか知らない。
「シュラたーん♪シュラたんいい子にゃーん」
耳の動きが止まりどうやらこちらを見ているようだが…動かない…ぴくりとも動かない。でも…
「にゃるるーん♪コロコロコロコロコロ♪」
のどを鳴らす音だけは確かに聞こえる。食べるのを止めて俺が来たことを喜んでいるようで…おい、ここに山ほどあった食糧は?食い散らかした残骸もなくすっからかん。本当に何でも食べるな…目を凝らせば部屋のすみも見えるからな。
「あっこんなところにいた…」
運悪くお嬢ちゃん合流…隠せないけどこれは…お嬢ちゃんは何ごとかと駆け寄ってくる。
「どうしたのここは立ち入り禁止ぃぃ!?ひぃー!!1週間分の食糧が空に!?」
「確りしろ!死ぬな!死ぬんじゃなーい!!」
もっちゃもっちゃぱくぱくぱくぱく~
「…」
ばくばくごっくん…コロコロコロコロコロ♪
「甘えたってダメだ。俺は怒ってるぞ」
食べおわったとたんこれだ。
「今回はあんたに謝っとかないと…」
「ルー・ルカ・アリアベッシュ(お嬢ちゃん)中隊長は泡吹いて倒れたと?
シュラに補食されたんじゃないのね~くすくす♪」
この狐に謝る日が来るとは…シュラたんはマタタビを与え発情覚悟で放置しているけど大丈夫じゃないだろうな…
「それで?覚悟決めたところ悪いけど死にたくないから一兵もあげないから」
「はぁ?何抜かしてんだババァ!!」
「大事な働き蟻をこれ以上無駄に削るのにどんな利点があって?それよりも私が魔界に寝返る可能性の方が重要なことでしょう?追加の補給物資の件はもうエル・ビレンツ中隊長に報告してあるから問題ないわ~」
「問題はそれだけじゃないだろ」
「あら?ご不満~?」
尻尾で顔を隠してくすくす笑う狐女…ここにいたお偉い方も前の魔王軍の攻撃に合い、(敵に殺害された)と報告書にはあがってたが実際は混乱に乗じてこの女が瞬殺したことでしょう。俺は歯軋りして拳をぎゅっと握る。
「欲しいものは言ってくれればこちらで何でも用意する。それくらいはこちらでさせてもらうわ」
「なら今から行ってくる。魔方陣で瞬間移動したいが封鎖されてるからな、結界で…後の勇者が合流できるように俺が先陣切って結界を解いてくる。カイドロとキグミントに連絡いれとけ。お前の悩みの種のシュラは俺が連れていく。急がないと敵の態勢が整う前に討ち取りたい」
「なら急ぐことね♪」
「ほう…では当然の権利とか思ってるのか知らないがお稲荷さんは無しだ」
「ふええ!?」
すっとぼけた表情で立ち上がる。獣耳もふさふさ尻尾も総毛立ってる…面白いな~尖ってるぞ先が♪
「言ったろ?忙しいんだ。それに食糧はシュラが食い尽くした。隠してたぶんもだ。それにたいして働かん貴様にくれてやるお稲荷さんはねえ!」
今度は小さい子どものように足にへばりついて何とか逃がさないとするが引きずって外へ出る…
「何日もこっちは我慢してるのにぃー!?」
「ふん、知ったこっちゃないね!」
「わーん!わーん!」
狐になって泣きわめくが知るか…首根っこつかんでイスに座らせると髭を引っ張って頭からウィンディーネを浴びせる。
「ぎゃっ!」
「いいか?俺は今とてもイライラしているんだ。魔界に寝返るってんならその毛皮、剥ぎ取ってシュラに食わせるからな!」
執務室のドアを蹴破り外に出ていく。残されたのはずぶ濡れになって仰向けになる一匹の狐だけ。
外に出るとまぁ…シュラが暴れまわって…騎馬を襲う世紀末の世界になっていた。
「シュラたーん…お外行こっか!?」




