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異世界駐留記(不幸で奇妙な物語)  作者: ふじひろ
反撃の英雄たち
111/135

泣くな、悪いのは自分。突き進め俺

「けっ嘗めてた訳じゃないけど戦は勢いが鍵だと思うよ。チャンスを見過ごさず手を打ってだな…」


「もう少し思慮深くあるべきかと…」


膠着する話し合いも夜になるにつれて作戦から部屋割りへとシフトしていくところにまだ余裕とも感じられる俺らの行動…


「では二階はグロリアとコクテンさんが使ってくれ又兵衛は階段下の作戦室で、ネリアはハンモックだし…俺はソファーベットで寝るよ」


「床でも構いませんのに…命令とあらば…」


「ではおやすみなさいませユウ様」


部屋の明かりを消していくとリビングにはネリアと俺だけが残る。ネリアは軽く宙返りを決めると高い位置にあるハンモックに狙い通りすっぽりと入っり姿は天井の暗闇に紛れてしまった。俺は最後の机の上の明かりをそっと吹き消す。雨の音、時おり混じる雷鳴の他、辺りは静まりかえっていた。

ソファーベットに座りレザーブーツを脱ぎ揃えておく、装備を脱いで背もたれにかける。パンツとシャツだけになるとそのままソファーベットにうずくまる。眠たくはない、瞼を閉じるも意識は外の雨音に注がれる。吸い込まれそうな暗闇から声が聞こえた。


「本当のところはどうなるの?」


「うん?」


ネリアだった。


「ドラゴンを引き渡してどうにか停戦とかにはならないかな?人質交換みたいなのでさ」


「停戦は停戦だ、一時停止したところでまた動き出すさ………二人が怖いか」


「………怖い」


少し悩んだ後で申し訳なさそうにポツリと呟いた。

雨音に紛れながらでも会話は聞き取れる。いや、紛れることなく分裂して頭に入ってくる。まるで違う空間、器官を通しているようだ。


「魔物、でもユウの友だち。それでもドラゴンってその…強くて恐ろしいものなんでしょ?気を許すものなんかじゃないと思う。現に手のひらを返して襲いかかってきたんだし安全だとは思えない…」


「俺がサラマンダーとシルフを守りにつけてやっても不安か?」


精霊を二人、ネリアに守らせている。俺なりの保険だ。1度裏切ったグロリアを早々許してた訳じゃない。ネリアを人質にされて逃走されたら…それより目の前で殺害して完膚なきまで俺を破壊、追い詰めるなんてされでもしたら…俺は人間には2度と戻れなかっただろう。今のネリアの気持ちは理解できている。グロリアとコクテンさんのことは方便だ。今の自分の本心、恐怖心を身近なものに当て替えて誤魔化してるにすぎない。本当は魔王軍のことが気がかりで不安なのに相違ない。


「二人は悪くない…悪いのはそうだな…自分かもしれない。勝手を押し付けてなにもかも先送りしてきたつけかもしれない」


「敵だった私だけど今は味方だよ。正義の…ユウの味方、今少し…少し落ち着けないだけ…静かに寝るよ、おやすみなさい」


最後は自分に言い聞かせて話を切った。上から寝返りをする音だけ聞こえるとその先、何も言わなくなった。


「ありがとう、我慢してくれて。感謝してるよネリア、いい夢を…」


頭の中にこだまするサイレンに意識を傾け、吸い込まれてみるのも試してみようか?瞼は閉じ、次に目を開ける時は別世界だ。カウントダウン…3.2.1テレポート。





















実際に目を開ければそこは別世界で人型(女性)ゴーレムが右へ左へ右往左往…とんだ騒ぎだ。又兵衛が言ったことを裏付けることになりそうだ。冷たい石畳の魔方陣が書かれた床から起き上がると部屋の外、廊下を動き回るゴーレムの様子を見ていた。働き者だなゴーレムは…命令に忠実、さて俺も忠実に役目を守ってここに来た。然るべき報酬を貰ってもいいんじゃないか?知った道をたどり、朽ちかけたドアをギイギイと立て付けが悪いのか押し開けて中に入る。腐敗臭はもはや廊下の外まで匂ってたが中はそれ以上だ。


「前に防腐剤を換えたのはいつだ?」


「そんな話、したくない。連れてきた理由。他にある…わかってると思う」


「進軍の話か」


「二日後、事態は大きく動く。止められなかった」


無表情の少女、何故だろう。表情が変わらない彼女だが俺の目には悲しげに写る。俺は知ってたと続けて話す。


「又兵衛の予測ではそうなる予定…だ。あくまでも予定だ。近日起こるであろうもっとも可能性のある未来ではそうなってるらしいが」


俺はたいして臆することもない。魔王にぷるぷる震えているところを見せる自分の姿を想像すると吐き気がする。本を踏まないように足場を探してぴょんぴょん跳ねながら近づく。青白い肌は今日も青白く魔導師の少女は帽子を深く被りなおすと契約の一方的破棄を申し入れてきた。俺の予想の外の範疇だ。

少したじろぐが諭すように食いついた。


「何をいきなり…助けておいて今度はなんだ?命を捧げろってか?お断りだぜそんなの」


生け贄はお断りだ。断ったがそんなこと当たり前だと切り返された。勝負しろ、その勝敗で生死が決まると言い出した。俺はああと全てを悟った。


「私は腐っている。でも腐っても魔物、魔王様には従う義務化?違う使命だから勇者、ユウとは仲良くできない。殺し合うしかない。わかってたこととは思うけど話し合いはできない、やはり魔物は魔物だった。話し合いは無駄、殺し合う、最後の一人になるまで」


なるほどな、俺の殺害理由に乗っ取って話し合いはできないと、そう言うわけだな?話がわからない奴は死ね。自分の言葉に自分が殺されるのか、こりゃまいったね。


「それがあんたの答えか…恩を仇で返すつもりはない。この場は逃げさせてもらうからな、これまで世話になったな」


「幹部を前にしてそう簡単には帰さない」


「帰らせてもらう」


視線は外さず詠唱破棄のテレポートでこの場から離脱する。ローブの袖から出ていた腕からマジック・ミサイルが飛んできた。数発が胸元に当たったが魔法によって俺は元の家に体が転送される。二人の悲しい表情での対面はここで幕切れとなった。


「どう?終わった?」


カーテンの隙間からリリスが姿を現す。呆れるような目付きでリッチを見つめるが顔を合わせるつもりはリッチにはないらしくピクリとも動かない。


「想像以上、これは良い(化学変化)というやつになった」


嬉しそうにリッチはそう返した。意味がわからないと聞き返すリリスだがリッチは興奮冷めやらぬ勢いでまくし立てた。


「任せておける。期待した通りの変化、魔力が減少し、魔法も使えない。その代わりにベルセルクは新たな力を手にしている!魔王を倒す、可能性に光が見えた!!」


ローブを羽ばたかせぴょんぴょん跳ねるたびに本の山が雪崩のように崩壊していく。発破をかけて力試しをしたが予想以上だと喜ぶリッチ、期待通りとお祭り騒ぎに転じる。


「それで?リッチは魔王に賭けるの?それともあのボ・ウ・ヤ?私は当然後者だけど。私にはあのやり取りはどうも意味不明なのよね~」


今度は魔法書を天井目掛けて水のかけあいのように

飛ばし出す。無視されたリリスは当然怒鳴るのだけれども。目を擦ってバカにしたような目付きでリリスに説明する…バカにしたような目付きで…


「私の命、あのユウの可能性に賭ける。ユウのポカポカ陽気な気分になるパワーなら何とかしてくれると思われる…きっと」


それだけ言うとゴーレムに命じて部屋の片付けをさせる。ローブの埃を払うとリッチと供に部屋を出ていく。やるべきことは決まったのでリリスに告げることにした。たぶん同じことを考えていると思うけど。


「ユウの勝機を上げるために加勢しようと思う。有力な幹部…穏健派の幹部の尻を蹴りあげて応援にいこう。うん、そうしよう」


「あなたらしからぬ暴力的な発想…二人の兵力は僅か、だれか有力な幹部知ってるの?現時点で疑われてないやつって…いる?」


「逆転の発想とはあり得ないとこらから出てくる…あてはあるから来て」


「はいはい…」


翼をパタパタはためかせると不機嫌そうに尻尾をくにゃくにゃ曲げながらリッチの後に続いた。そんなリッチの心、俺知らずとは言ったもので…



















「あんにゃろ~」


悔し涙に歯をギリギリと歯軋りしながら無理矢理眠ることにした。寝て忘れることにした。あーあストレスでまた記憶障害にならなきゃいいけど。寝返りをするだけでも苦痛だ。なんであんな話を聞くために睡眠時間を削って!!怒ってもダメだ、人に食事も睡眠もするなと言うくらい仲良くするのもきっとダメなんだ。しょうがない、これはしょうがないでかたのつく話だ。それなのに、それなのになんで悔しいんだろう。悔し涙が止まらない。


「うっうっう…」


今日の乱闘で師匠から受けた傷とリッチのマジック・ミサイルを受けた傷に苦しみながら呻き声を雨風の音に混ぜて溶かしながら苦痛を飲み込みそしていつの間にか眠りに落ちていた。


朝とは今日の苦難に思いを馳せながら憂鬱でなくてはならないんだ。それなのに、なぜまだ昨日のことを引きずっているのは全部この体の傷が悪いんだきっと。昨日風呂に入らなかったことが災いした。

匂うからといういわれのない誹謗中傷に合い、まだ寝ぼけて反撃のできない俺のシャツを脱がされたことで全てが白日のもと曝されることとなった。そうだよ、傷に滲みるから入らなかった…ただそれだけの事だよ。開き直ったよ私ー!


「えーんえーん!二人して俺のこと苛めるんだよ~天罰が下れ!!」


「悪者みたいに言われても困りますぞ」


「大丈夫、小言言えば気がすみますから。それより傷が深くなくて良かった」


コクテンさんはどんなときでも俺を優しく抱擁してくれる。うーん、訳でもないか。今日はたまたまか?そっか、俺の味方は見えないところにいるあんただけだ。あんたって?あんただよ。マイエンジェルスウィートハニ~♪ユリネル~!理不尽な目に遭うといつも君の顔が浮かぶのは何故だろう(涙)


「うえーい…うえええーい…」


「気に入らないなら食べなければいいだけじゃないなんで露骨に…」


「嫌みじゃないです。俺の鳴き声です」


「鳴き声か、へぇ~又兵衛、こいつの分も食べちゃえよ…」


「ふまーん、ふまままーん」


「明らか不満って言っとるだろうが!!」


フォークでぷすぷす刺してくる暗殺者…やめろ、傷口狙うのやめろ…やめ…あっ痛って~!!

傷口開いた。うひゃーうひゃーあははぽーんぽん…

きっと大事なものが壊れたんだ。そうだろ?そうだと言ってくれ!?元からじゃないと…


「俺は悪くない。明らか人の嫌いなものを食卓に並べる奴が悪いんだ。俺は悪くない」


「暴れないでくださいよ今度は…又兵衛さん、確りと押さえとかないとまた暴れてセクハラしてきますからね」


「私は…特に気にはせんのですが…乙女の恥じらいというやつでしょうか?あいわかりました」


よくないよその傷口に塩を塗っていくスタイル。消毒だろうが知ったこっちゃない…清潔な水で傷口を洗い、マ○ロン(消毒液)を傷口にぶっかけ薬草塗り込み絆創膏を貼る。傷が深ければ糸と針を鍋で水が沸騰するまでくつくつ煮込み、除菌されたもので傷口をちくちく裁縫の要領で縫い合わせ打撲には冷却効果がある薬草を複数磨り潰したものを塗りつけその上に湿布…俺はこの間又兵衛とグロリアの胸が更に大きくなることを祈願して揉みこむ。やらけーのまったくネリアの野郎に止めを食らわなければもっと続けられたに違いない。これからは妄想に胸を膨らませ自分の胸を大きくする…俺はもっと胸を張って生きてくべきなんだ…


「手を止めない」


「はい!喜んで!!」


身仕度するのも俺一人…他の奴はって?見てるだけだよ!命令するだけだよ!


「誰だ~この紐と僅の布しかない際どいのはいてる奴は?」


グロリア愛用のよく知る下着を被りながら持ち物を物色中の俺、もちろんシバかれる。俺はどうやらこっちの方にも目覚めそうだ。


「ドラゴンの握力でアイアンクローは洒落にならんぞ…!」


みしみしと骨のきしむ音が聞こえる…グロリアの勝負下着を被ってみれば頭の軋む、音がする。俺はあくまで突っ込み待ちで、自殺志願者ではない。


「又兵衛は褌だし?グロリアは黒…ぐはっ!…の勝負下着だひっぐわっ!?このヒモパンは誰の…」


静かに手を上げるコクテンさん。こんなの毎日はいてるんだ。へぇーてかなんでネリアがぐべら…

注 コクテンさんは走るとき擦れないよう極力着けたくないそう。だから布地少なめ。休日は全裸派


「お前に任せたら日がくれる…余計なもんまで開けるな!!乙女の私物を!!」


「最初からそれが狙いさ!!きびきび働け~」


「うるさい変態仮面!!」


なんの荷造りか、そう最後の戦場へ赴くための準備だ。俺は無限ポーチで事足りるが…女の身仕度とはなんと長きにわたることか…お泊まり会でも行くのか!?シャンプーなんていらん!置いていけ!


「皆それぞれに思うとこはある。戦う理由は違えど結果は同じ!善は急げ、これより前線基地へ移動する!」


罰ゲームからか皆の分、無限ポーチの無い分何かを持ったらどうだと皆から荷物持ちとして扱われるかわいそうな俺、必然的に一番遅いので後方…だと思うだろ?違うんだ。迫り来るドラゴン、コクテンさんとグロリアに追い立てられて先頭突っ切ってるかわいそうな俺(涙)ネリアは頭に乗せてるのになんで!なんで俺だけ!


「きびきび歩けー変質者並んで歩けると思うなよゲスが(棒読み)」


「ドゲシャー!!チキショー!!悪女め!呪われろ!!」


雨の中、泥にまみれながら突き進み。転んで顔をぶつけても助けてくれないの…心配するもさっきのことで素直になれないグロリア、高くて怖くて下りれない又兵衛。命令がないと動けないコクテンさん。

そして全てを牛耳るネリア。この関係から俺は…俺だけは完全に孤立した…俺は…これから仲間の援護もなく戦えるのだろうか?

「それがあんたの答えか…恩を仇で返すつもりはない。この場は逃げさせてもらうからな、これまで世話になったな」

決め顔でそう言った時も俺は下着姿だった。リッチよぉー何とか言ってくれよ!?見てたリリスも何とか言え、くそシビアなところでパンツて…それが俺が悔しかった本当の理由かもしれない。

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