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【完結】姫担モブ令嬢カリネリアは、悲劇的なシナリオをやり直す~可愛い推しは、絶対に死なせません~  作者: ジュレヌク


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第十四話 元夫イディオータへの意趣返し①

 

 洗礼の儀が終わり、メンティーレが隔離されてから二年の月日が流れた。


 時々送って来られる報告書には、未だに何の反省もしていない彼女の様子が書かれていた。



「本当に、良く飽きないものね」



 九歳になったはずの少女は、何の成長も無く未だに自分が聖女なのだと騒いでいるらしい。


 それでも奉仕活動に参加しなければ食事すら与えられない為、渋々清掃や洗濯、ジャガイモの皮むき等をしているようだ。


 二年だけでも長い時間だろうに、この先何十年も同じことを言い続けるのだろうか?



「聖女って、そんなに良いものじゃないと思うけど……」



 プルチーノの洗礼が行われた日、七色の光に照らし出されたカリネリアは、何故か聖女に祭り上げられている。


 常に人々の目に晒され、気持ちを落ち着かせる間がない。


 それでも、推しであるプルチーノが無事で学園に通う姿は、何度見ても良いものだ。


 こうして、大きな事件などが起こらない幸せな日々を噛みしめていたカリネリアは、少し油断をしていた。


 ある日、十歳になったプルチーノに婚約の話が持ち上がったのだ。


 まだ年齢も幼い事から直ぐにという事ではないが、代わりに一年間そちらの国に留学をして王太子との友好を深めて欲しいという申し出があった。


 前の時間軸では起こらなかった出来事に、カリネリアは困惑する。


 このまま自分の知らない所へ、推しが旅立ってしまうのか?


 そう思うと心中穏やかではいられない。


 不安げな表情を見せるカリネリアの傍には、怪我から復帰したノーヴァが必ず寄り添っていた。


 十七歳になった少女と、二十七歳の青年は、並ぶととてもお似合いに見えた。


 だが、あと一年で学園卒業を控えたカリネリアの元には、多くの家から婚姻の申し込みが届いていた。


 選びたい放題と言ってもいい状態だったが、父ジュストと兄トレーロの審査が厳しく、誰一人通過できる者が居ない。



「カリネリアの才能と肩書を欲する馬鹿どもなど、一刀両断に切り捨ててやりましょう」


「待て、トレーロ。表立ってやればカリネリアが心配する。こう言う事は、裏から手を回すのが一番だ」



 巻き戻る前の時間の中では外面に騙されてろくでもない男に娘を嫁がせてしまったジュストだが、今回は、何故かやる気満々で身辺調査を行っている。


 事の発端は、カリネリアの事を狙った青年が、舞踏会の場で不埒にもカリネリアの肩に手を回して暗闇に引き込もうとしたことだ。


 その男は、なんと、ループ前の世界で愛人に跡継ぎの男子を産ませたカリネリアの元夫イディオータだった。



■



 社交界デビューした貴族令嬢、令息達は、未来の伴侶を見極めるべく舞踏会へと足を運ぶ。


 招待状には曲名が書かれており、その横の空欄には踊りたい相手を書き込めるようになっていた。


 そうして、意中の人間と踊ることで距離を縮め、互いに気持ちを確認するのが主な目的だ。


 所謂集団お見合いのような場に来ることを、カリネリアは余り好んではいなかった。


 何故なら令息達の殆どが彼女の名前を書き込むものだから、カリネリアが無記名で出したとしても次々と踊り続けなければならなくなる。


 誰からも指名されずに壁の花となる事も女性としては恐ろしくもあるが、足が痛くなるほど踊るのは苦行のようなものだ。


 それでも、正式な婚約者がいないカリネリアは参加しなければならない。嫌なら、さっさと決めてしまえばよいのだ。


 ただ、ループ前の記憶があるカリネリアは正直短時間に数度あった程度の人間の本質など見抜けないと思っていた。



――私の事を、聖女とか金の生る木とか、そういう目で見ない人はいないのかしら?



 時々、カリネリアを聖女様と呼ぶ男性陣がいるが、本名を知らないのではないかと思う。


 突っ込んで質問すると目をウロウロとさせ、コソコソと逃げ出してしまう。



――せめて、名前くらい覚えてから声を掛けて欲しいわ。



 ウンザリとした気持ちで会場に入ったカリネリアは、急に声を掛けられて驚いた。



「どうも、聖女様。お初にお目にかかります。私の名は……」



 言われなくても分かっていた。ループ前にカリネリアを不幸のどん底の落とした元夫。


 初夜の日に、『お前を抱くことは無い』とわざわざ捨て台詞を残して愛人の家へ行ってしまった彼とは、一度として閨を共にしたことは無い。


 ジェンティーレ公爵の娘を娶ったと言う自慢話をしては、『まぁ、女としては最低ランクだがな』と名誉を傷つけるようなことを付け加えたのは、自身の爵位が下だった劣等感を晴らそうとした為だろう。



「聖女様、聞いていらっしゃいますか?」



 一瞬過去に囚われ動けなくなっていたカリネリアに、追い打ちをかけるようにイディオータが顔を近づけてくる。



「も、申し訳ございません。少し気分が悪く……。ノーヴァ、お願い」


「はい、お嬢様」



 傍に控える護衛のノーヴァに右手を差し出すと、彼は労わるようにその手を取って壁際の席へと連れて行ってくれる。



「大丈夫ですか?聖女様?」



 しつこく後をついてくるイディオータの顔を、カリネリアは見ることが出来ない。



――さっきから聖女様、聖女様って煩いわ。きっと、名前が分からないのね。



 公爵家と聖女という肩書しか見ていないことが良く分かる行動だ。


 しかし、周りにいる令嬢たちは、彼の見目の良さと優し気な声に、体調の悪い人間を気遣える良い人だと思っているだろう。


 まさか、その気分を悪くした張本人などとは考えも及ばない。



「ごめんなさい。暫く静かに座っていれば良くなると思いますので」


「では、お水でも持って来ましょう」


「いえ、本当に結構です。私にはノーヴァが居ますから」



 そう言うと、イディオータは眉間にしわを寄せてノーヴァを見た。



「申し訳ございませんが、聖女様、護衛の事をわざわざ名前で呼ぶのは外聞がよろしくないかと」


「え?」


「未婚女性が、男性の名を軽々しく呼ぶものではありません」



 確かに、一般的な話ならそうだろう。


 しかし、長年支えてくれた大切なノーヴァを侮辱されたようで気に入らない。



「彼は、家族同然です」


「それは、益々いけません。結婚後も連れていくとなれば、二人の仲を怪しまれることになりますよ」



 この時、カリネリアは、何故婚家にノーヴァが付いて来てくれなかったのかをやっと理解した。



――この男が、引き裂いたのね?



 幼い頃から護衛として、無口な彼は誠心誠意尽くしてくれた。


 当然カリネリアは、結婚しても付いて来てくれると信じていた。


 しかし、ノーヴァは姿を消したのだ。父ジュストにすら何も告げずに。


 その原因は、きっと目の前の男だろう。


 ノーヴァに今と同じような言葉を言ったのだ。


 そして、大切なお嬢様に変な噂が付きまとってはいけないと思い身を隠した。



――許せない。絶対に、許せない。



 自分が蔑ろにされた事よりも、ノーヴァと引き離されたことがショックだということの意味をカリネリアは気付いていない。


 今はただ、どうにかして目の前の男を完膚なきまでに叩き潰したいという思いに駆られていた。



「貴方こそ、そのような下世話な発想をされること自体品位を疑われますよ?それと、私は貴方に話しかけても良いと許可は与えていません」



 確かに、公爵令嬢に対して馴れ馴れしく下位の者が声を掛けるなどあってはならない。


 自分が人気者だという自負があるイディオータは、自分が声を掛ければ喜ばれるくらいに思っていたのだろう。


 一瞬顔が歪んだが、その後慌てて取り繕って、



「それは、申し訳ございませんでした。しかし、もう知らぬ間柄でもございません。傍に侍ることをお許しいただけないでしょうか?」



と、媚びてきた。



「ごめんなさい。私、人見知りなのです。知らない人間が傍に居ると心が休まりません」



 暗に、『お前が居たら、ゆっくりできない』と言ったカリネリアに、イディオータは頬をピクピク痙攣させていた。


 多分、怒鳴りつけたいのだろう。



『大して顔も良くないくせに。家柄だけしかない女は黙っていろ』



 時が戻る前、彼はよくカリネリアに罵声を浴びせていた。


 日頃のうっ憤をぶつけていたのだろう。


 しかし、今のカリネリアは彼の妻ではなく、そして、お近づきになりたいとも思っていない。



「で、では、また気分が良くなられたころに参りますね」



 そう言ってイディオータは去っていった。



「大丈夫ですか?お嬢様。顔色が……」



 カリネリアを心配するノーヴァの方が、よほど顔色が悪い。



「えぇ、大丈夫です。ただ、このままでは終わらないでしょう」



 立ち去るときにイディオータが見せた表情は、社交界の貴公子と呼ばれる美しさとはかけ離れた恐ろしいものだったからだ。


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