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【完結】姫担モブ令嬢カリネリアは、悲劇的なシナリオをやり直す~可愛い推しは、絶対に死なせません~  作者: ジュレヌク


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第八話 偽物父娘の敵情視察

 カリネリアが同じ人生を二度歩むことになった日から数えて、七年の月日が経った。


 愛らしい推しは、あの日の自分と同じ八歳。


 幼稚舎に登校するようになり、お友達も順調に増えている。



「カリー、どうかしら?」



 そういってクルクル回って真新しい制服を見せてくれたのは一か月前の事。



「本当に、素敵です」



 手を叩いてカリネリアが喜ぶと、プルチーノは何度もクルクル回ってくれる。


 そして、最後には目を回して、座り込んでしまった。



「あぁ!申し訳ございません、プルチーノ王女殿下!」


「いいの。一杯カリーに見て欲しかったの」



 スカートをパンパンと叩きながら自分で起き上がったプルチーノは、とても大人になった気がした。


 甘えん坊だった部分はなりを潜め、今は、お姉さんぶるのが楽しいらしい。



「お兄様達ったら、私の制服姿で泣き出してしまったのよ。本当に、可愛いんだから」



 微笑むプルチーノの方が百倍可愛いと、カリネリアは思う。


 まるで、わが子を思う母の気分だ。


 そして、プルチーノの成長を喜びながらも、会える日が週末だけになったことを寂しく思っていた。



――ダメよ、落ち込んでいる場合じゃないわ。私には、しなければならないことがあるのだから。



 カリネリアがやろうとしていることには、どうしても護衛のノーヴァの協力が必要だった。


 それは、将来聖女になるであろう少女を、今からマークすることだ。


 カリネリアの記憶が正しければ、十五歳で聖女の称号を得た少女の名前は、メンティーレ。


 下町出身の八百屋の娘だったはず。多分、今捜しても、きっと見つかることだろう。


 彼女は、他と比べてかなり遅い年齢で洗礼を受けた。そして、突然聖女として一躍有名になったのだ。


 しかし、残念ながら聖女だからと言って治癒魔法などといった便利な魔法が使えるわけではない。


 ただ、洗礼の時に聖母像から降り注いだ光が彼女を照らし出したのだ。


 その頃、度重なる疫病で国は疲弊していた。


 そんな中、彼女が救世主のように見えたのだろう。


 あれよあれよという間に王宮の住人となり、そして、悲劇が起こった。


 しかし、今思えば、あまりにも展開が早すぎる。


 最期の言葉、



『今日の所はゲームオーバー。今度こそ、全攻略対象をコンプリートしてあげるから!』



は、彼女が何度も、この世界をループしているようにも取れる。



――見つけ出せたからと言って排除できるわけではないけれど、少しでもおかしな行動を起こしたら、一つずつ対処していかないと……。



 万全を尽くすべく、カリネリアは下町へ偵察に行くことを決意した。


 無論、その護衛はノーヴァだ。



「今日も、お願いね」


「はい」



 深く頷く彼は、今年で二十五歳になっていた。


 そして、残念ながら、見た目は以前と変わらず三十代。


 益々逞しくなった体と、板についてきたオールバックで更に渋さを増した彼は、ジェンティーレ公爵家に仕える未婚女性を虜にしているらしい。


 そんな彼の落ち着きが、今回の偵察のキモなのだ。


 威厳のようなものすら感じさせるノーヴァと、可憐なカリネリアは、まるで親子のようだ。


 それをうまく利用して、今回は平民の衣装を身に着けて大店の金持ち親子に扮していた。



「では、お父さん、行きましょう」



 コクリと頷いたノーヴァだが、カリネリアが手を出してきたことに驚き、一瞬動きを止めた。


 どうやら、彼の推しは、手を繋ごうと言っているらしい。


 十歳離れているといえども、一応未婚の男女。不用意に手など繋ぐものではない。


 しかし、カリネリアは全く気にもしていないようで、



「ほら」



と言って、ノーヴァの手を握ってしまった。



「あ……はい」



 振りほどくことも出来ず、ノーヴァはカリネリアに手を引かれて下町を歩く。


 それは、まるでお転婆な娘にタジタジになっている父親のように見えた。


 その微笑ましい様子に、露店からは、



「そこのお父さん、娘さんに美味しい果物はいかがですか?」


「可愛いワンピースもあるから、見ていっておくれ」



と、次々に声がかかる。


 お忍びの偵察のはずなのに目立ちまくりの二人は、結局店主たちに呼ばれるまま、あちこちで買い食いをしたり商品を買ったりした。



「お父さん、美味しいね」



 ノリノリで娘を演じるカリネリアとは違い、ノーヴァの方は生きた心地がしない。


 下町に突然現れた世間知らずそうな親子を、スリや誘拐犯等が狙っていないとも言えないからだ。


 こんな風に通りを一通り練り歩いた二人は、とうとう目的の八百屋の前まで来た。


 その店先に置かれた野菜は、採れたてなのか、どれも新鮮そうだった。


 そっと中を覗くと、一人の少女が店番をしていた。


 年の頃は、プルチーノよりも少し幼く見える。



――プルチーノ王女殿下より一歳下だったはずだから、多分、あの子ね。



 カリネリアは注意してよく観察してみたが、今のメンティーレには、未来で聖女と言われるような特徴は全く見当たらない。


 申し訳ないが、顔も特徴がなく、覇気もない。


 ただ、不貞腐れたように頬を膨らませて地面を蹴っている何処にでもいる子供だ。


 しかし、不意に彼女が呟いた言葉に、カリネリアの心臓はキュッと掴まれたかのように痛くなる。



「なんで、今思い出すのよ」



 それは、メンティーレの処刑直後にカリネリアが叫んだ言葉と似ていた。


 ただ、メンティーレの方は、思い出すのが遅すぎて絶望したカリネリアとは違い、記憶が早く戻り過ぎた事への不満のようだった。



「こんな子供時代からやり直すなんて、今までなかったじゃない。聖女認定の所からで十分なのに」



 予想通り、彼女は、聖女として認められて以降の部分を何度もやり直しているようだった。


 多分ゲームで言うセーブポイントが、そこだったのだろう。


 しかし、今回に限って、九年も早く記憶が戻ってしまったようだ。



「しかも経験値が空っぽになってるし。今から貯め直すだなんて、最悪よ。課金アイテムすら手に入らないじゃない」



 カリネリアにはゲームの内容は全く分からないが、他のRPGと同じで、報酬を得るためには先に何かしらの対価が必要なのだろう。



――今直ぐ、何か悪さをする余裕は無さそうね。



 そう判断したカリネリアは、ここで相手に顔を見られるよりも、そのまま立ち去った方が良いと考えた。


 そして、ノーヴァの手を引いて今回は帰還することにする。



「もう、よろしいのですか?」


「えぇ。また、よろしくね、ノーヴァ」


「はい。いつでも、お供いたします」



 結局、ノーヴァにはカリネリアが何をしたくて下町まで来たのか分からなかった。


 ただ、彼女の使命の為に必要なのだろうと納得している。



――私に出来る事は、嬢担(ジョウタン)として、お嬢様に誠心誠意仕える事のみ。



 二十五歳にしてノーヴァは、老齢な匠のような悟りを開いた。


 その後、家に帰ったカリネリアは、今日の戦利品をベッドの上に並べてみた。



 ウサギのアップリケが付いたポシェット。


 小花が散りばめられたワンピース。


 いつ使うのか分からない動物の絵が描かれた紙製のコースター。



 可愛いが大好きなカリネリアを大満足させる逸品ばかりだ。


 ワンピースに至っては、カリネリアの黒髪にも合うネイビーに白のカスミソウが刺繍されている物を選んだ。


 ずっと自分には似合わないと諦めていた『可愛い』を、ノーヴァが薦めてくれたのだ。



「とても似合っている……と思う」



 父親という役どころの為、敬語が使えなかったノーヴァは、今回の外出で殆ど言葉を発しなかった。


 しかし、この一言だけは、ハッキリと伝えてくれた。



「可愛いを諦めないでもいいんだ……」



 鏡の前でワンピースを体の前にあてながら、カリネリアは、ほんの少し泣きそうになった。


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