Lazzo/ちょっとした喜劇
第二王子襲撃事件について、無論リーンハルトはすぐに捜査の手を差し向けた。しかし蜥蜴の尻尾が切られただけに終わった。
その結果、リーンハルトに命じられたローズは益々リュシアンに貼りつくようになった。
「夜会で会ったグラナートという人物が怪しいのではないでしょうか。最近は政界にも進出したがっているようですし」
ローズの推理にリュシアンは首を横に振った。
「逆。あのオッサンたちはね、神輿は軽い方がいいって連中。有能な兄上に王位を継がれちゃ都合が悪いから、僕を煽てて乗せようとしてくるんだ。襲撃してきたのは、第一王子過激派かな」
「第一王子過激派?」
「兄上を玉座に据えるためなら手段は択ばないって輩も多くてね。軽薄な第二王子を目の敵にしているんだ」
「なるほど」
それを聞いたローズは頷いた。
「で、……そこまでわかっていてなぜ、お忍びで出かけようとするんです?」
それもそのはず。
粗末な服に身を包んだリュシアンは、重装鎧に首根っこを掴まれたまま、抜け出そうと藻掻いていた。
「離してよ! 女の子たちが僕を待ってるんだ‼」
「そんな理由で継承権二位の方の身を危険に晒せる訳がないでしょう」
兜の中からくぐもった溜め息の音が聞こえる。
「──関係ない。王になるのは兄上だ」
駄々っ子のように暴れていたリュシアンは急にローズを見上げると、凍てつくような声音で言った。
「王統を繋ぐのは全てにおいて完璧な兄上の血であるべきだ。──僕じゃない」
「リュシアン様、それは」
ずるっ。
鎧が言葉を失って襟首を持つ手を緩めた刹那、掴まれていた上衣から身を抜いたリュシアンが薄手のシャツ姿で窓枠に飛びついた。
「じゃあね、僕の薔薇の騎士!」
そのまま窓枠を強く蹴って二階の窓から飛び出し、リュシアンは軽やかに宙を舞った。
「──リュシアン様!」
「夜更けまでには帰るから、心配しな……おわっ」
目測を誤った。
庭木に飛びつき、更に枝に移ろうとしたところで指先が虚を掻いた。内臓が浮くような一瞬の後、真っ逆さまに落ちていく。
叩きつけられる痛みに備えてリュシアンは強く目を瞑った。
──ガシャン!
衝撃は、来なかった。
窓からダイレクトに飛び降りた重装鎧が重い金属音と共に着地し、リュシアンを受け止めたからだ。
鋼鉄の腕の中にすっぽりと収まったまま、リュシアンはローズを見上げた。恐怖の残滓と冷たい鉄の感触に、心臓が飛び跳ねている。
「──ローズって、焦ると声が"La"になるんだね」
身体をまるごとローズに委ねたまま、リュシアンはへらりと笑った。
「仕方がありませんね。行きましょう、お忍び。その代わり自分もついて参ります」
兜の中からまた、くぐもった溜め息が聞こえた。
「ただし、その赤い帽子はお脱ぎください。目立ってしようがない」
ローズは成人男性を危なげなく片手で抱きながら、頭から深紅の帽子を取り上げた。
「え、ダメかな。これ、お気に入りなんだけど」
「射的の的にでもなりたいようにしか見えませんよ」
結局、目立たない身なりに着替えた主従は、賑わい始めた夕刻の王都へ繰り出した。




