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BORDER  作者: 鴻上縞
第三部
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終章

 通達


 私設兵団KT-α所属

 ソル・アルベール


 貴殿を帝国軍第七防衛ライン司令部付として任用する。

 本通達受領後、直ちに第七防衛ライン駐屯地司令室へ出頭せよ。

[pagebreak]

 そのメッセージに気付いた深夜、ソルはあらかた宿舎の掃除を済ませていた。あとはダストボックスにゴミを入れれば、この部屋はまた次の兵達の安息の地になるだろう。


 高圧的なメッセージを見詰めながら、ソルはマルグの庇護に縋っていた自分を愚かしく思った。けれどこれも、断ち切らなければ開けなかった道だ。

 ソルはタブレットを閉じ、リュックの外ポケットに仕舞い込んだ。


 ゴミを処理し、忘れ物はないかと部屋を見回したところで、休眠モードに入っていたペゴがようやく瞼を開く。

「おはよう」

「オハヨウゴザイマス、ソル」

「そろそろ出るぞ」

「リョウカイデス」

 短い言葉を交わし宿舎を出て、ソルはペゴと共に歩き出す。


 外はまだ暗闇に呑まれていた。星々だけが照らす夜を、二人は真っ直ぐに歩き続けた。


 街の外れ、テンと語り明かした丘の上まで辿り着き、ようやくソルは足を止めた。肺いっぱいに乾いた空気を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。真っ直ぐに闇の向こうにある地平線を見据え、ソルは少しだけ指先に力を込めた。


 夜明け間近の空は、少しだけ白み始めている。惰性的な平和の上にも、血に濡れた戦地にも、等しく朝が訪れる。


 また一歩足を踏み出す。そんなソルを見上げ、ペゴが小さな駆動音を響かせて口を開いた。

「テンニ、アイニ?」

 驚いて足を止め、目線を合わせるように腰を落とし、ソルは曖昧に首を振った。

「ペゴは本当にテンが好きだな」

「ワタシハ、ソルノスキナモノガ、スキデス」

 真っ直ぐな言葉に小さく頷いて立ち上がる。また少し朝が近付く匂いがした。


 指先に握っていた白い花を一輪、胸ポケットに仕舞い込む。胸に手を当て、ソルは静かに瞼を閉じた。


 地を撫でた風が、ソルの身体を這い上がる。白金色の髪がそれを受けて舞い上がった。

 胸の最も深いところで、薄い栗色の髪が翻る。白い花畑の中で、古の戦地に突き立てられた戦旗のよう。その笑顔はどこまでも純真で、まだソルの胸の中で鮮やかに蘇る。


 顔を上げ、瞼を開く。

「さあ、行こうかペゴ」

 踏み出した足は軽く、荒野の砂を蹴る。


 二人の眼前、太陽が地平線を鋭く光らせる。世界が明ける気配の中、ソルは肌にふれる大気の形を確かめるように両手を広げた。足を踏み出すたび、ジャケットが風を孕んで翻る。呼吸は深い。


 二つのロケットがぶつかって、硬い音が胸元で揺れた。その小さな音を聞きながら、ソルは地平を睨んだ。


 満たされた国から見れば、この国は愚かに見えるのかもしれない。それでもこの大地は、ソルにとって愛した国だった。

 誰に理解されなくてもいい。理解などできるはずもない。ここに、境界線がある限り。


 擦り切れるまで読んだ絵本の、一番好きな最後のページ。最も大切なものを見つけた時の、満ち足りたあの顔。

 旅に出よう。自分の足で、自分の瞳で、自分のために、世界を見よう。あのうさぎのように。


 大地を染める光の中で、白い頬に一筋の涙が光った。瞳を細めれば、世界が歪む。それでもソルの頬は、朝の中でほどけてゆく。

 深く、深く、乾いた空気を吸い込む。金色の朝焼けの中、砂を蹴りまた一歩世界へ踏み出す。


 託された真名と、この胸に抱いた、もうひとつの魂と共に──。




あとがき


 ここまでお読み頂きありがとうございました。ネット小説としてはエンタメ性の薄い本作を読了してくださった方々に、心から感謝しています。

 正義という言葉が心底嫌いな私が、真っ向から正義を題材にしてみました。思想全開のなんとも荒々しい作品でしたが、なにか少しでも残る作品になれていれば幸いです。


鴻上縞

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