一 異動命令
乾いた風が砂埃を巻き上げる。地盤沈下により切り立った崖となった台地にしがみつく街は、遥かに望む首都とは掛け離れた様相を烈しい太陽の下に晒している。
ひび割れた壁は補修されず、風化した廃墟も目立つ。数日前に防衛ラインがまた一つ消し飛んだ今、この辺りに住む民間人はすでに数えるほど。ライフラインを確保する為に設置された配給所の他は、行き場のない浮浪者や物好きな酒場がぽつんとあるだけだ。
ここにまだ防衛ラインが存在していることだけが、この街が呼吸出来ている唯一の理由だった。
死にかけた街の中心部、一見廃墟にすら見える建物に黒い煙を吐いたジープが滑り込んだのは、正午もすぎた頃だった。歪んだフレームの扉を蹴って車から降りた人物の姿に、オフィスの入り口で煙草を咥えていた兵が誘うように口笛を吹いた。
少年と青年の間にある危うい年頃だが、手本のような真っ直ぐで凛々しい姿勢。歩くたびに煌めくプラチナブロンドの髪は柔らかく、風を受けて翻る。けれど荒廃した大地に芽吹いた異物のようなその絢爛な顔は、苦々しく歪められていた。
入り口の兵を蔑んだ視線で一瞥し、建物へと足を進める。ブーツの踵がコンクリートを蹴る音が寂れたオフィスの廊下に高く響く。ちょうど整備室の脇を肩を怒らせたまま通り過ぎようとしたとき。神経質で怒りに満ちたその音に、整備士の男が手元の偵察用ドローンから顔を上げた。
「よう、ソル。どうした」
「緊急の呼び出しだ」
その声に足も止めず、その少年、ソルは押し殺した声で言い捨てた。
ここに異動したのは先月のことだった。アカデミーを卒業してまだ一年と少し。再びの異動には早すぎる。特に問題を起こした覚えもないが、ソルに限ってはいい知らせなど来たためしがない。
こんな寂れたオフィスでも、至る所で監視カメラのパイロットランプが赤い光を放っている。それを念入りに睨みながら三階まで上がり、ソルは遠慮なく一つの扉を開いた。煙草を咥えたままパソコンと睨み合う男は、一瞬ソルに視線を向けたがすぐに画面に向き直るとため息と共に吐き出した。
「ソル、お前に第七防衛ラインへの異動命令が出た。すまんがこれは軍からの指示だから拒否権はない」
とことんまで排除する気か──ソルは声に出さず胸の内で吐き捨て、奥歯を噛み締めた。
数日前、ここから百二十キロ離れた崖の下に拡がる森を境にした第八防衛ラインが陥落した。生存者はおらず、オペレーターの記録を辿るとたった三日で全滅したらしい。
そこを守っていたのは殆どが捨て駒である私設兵団の兵達だ。残された録画データはことごとく解析のため軍に回収されてしまったが、いくつかくすねたという噂も聞いた。もう少しすれば何があったか分かるだろう。
今や第七防衛ラインは最前線となる。しかも敵国が何をもって三日で第八を破ったのか、何も分かっていない。そこに放り出される。
帝国の軍人を育てるアカデミーを首席で卒業したはずが、民間の私設兵団に所属している。その現実が示すものを考えれば、この暴挙に諦めに似た納得はある。しかしソルの若さはそれを受け入れるにはまだ青すぎた。
最前線で戦うことに不服はない。この国を守るため鍛えてきたのだから。けれど今の状況は、努力も、忠誠も、何ひとつ認められないまま厄介払いされている気がしてならないのだ。
黙り込むソルに視線を向け、煙草を咥えた口元から再び白煙混じりの吐息が漏れる。
「ソルが優秀である事はデータとして伝えてはいるんだが」
データがなくともそんなものは分かりきっている。昨年度のアカデミーを首席で卒業したのはソルだ。
「仕方ないことだ、ボリス」
ここで吠えても何も変わらない。その諦めにようやく怒らせていた肩の力を抜き、ソルは私設兵団に入団して以来何かと目をかけてくれているボリスを見据えた。
「異動はいつ」
「明日物資輸送のトラックが出る。それに乗って行け」
「軍管轄のものか」
「そう、嫌だろうが検査付きだ」
思わず身を固くするソルを見上げ、ボリスは一度天井の赤い光に視線を向け、哀れむように眉を下げた。
「ソル、異動は覆らないが、それ以外はそうじゃない。嫌なら嫌と言ってもいい。正直お前の待遇は酷すぎるし、何より俺たち私設兵団を肉壁だと思っていやがる」
ソルはゆっくりと首を横に振り、興奮するボリスに向かい声を落とすよう視線で訴える。
「俺は求められることに応えるだけだ」
この会話も記録として残されている。こんな辺境の分隊オフィスなど有事でなければ聞かれることは少ないが、ソルが来たとなれば別だ。吐息ひとつ漏らさず解析されるだろう。
ボリスもそれ以上かける言葉がないのか、小さく肩を竦めた。
「諦めずに俺も掛け合ってみる。まあ、期待はするな」
元より期待などしていないソルは、気のない返事を返しただけだった。
「それで、お前のバディだが、新しい者を紹介するから帰りにシェイルの所に寄ってくれ」
「セルゲイは」
今のバディである男との相性がいいかと言われると分からないが、セルゲイは退役軍人だ。経験は豊富で、一切無駄な会話がなく過ごしやすかった。
「爺さんは第六防衛ラインに残る。それとお前は観測手に回れとのお達しでな。新しい奴は狙撃手だ」
「何故俺が。観測手としては経験不足だ」
「まあそうなんだが、それも軍の指示だから。それに新しい相棒はすげえぞ。狙撃の腕はこの国一かもしれん。なんたって、森の民だ」
ボリスはふざけた調子で言うが、とても笑えない冗談だ。まさか、森の民とは──予想もしていなかったその相手に、ソルは思わず眉を寄せた。
「何故森の民が戦争に?」
確かに帝国は文化的価値といって森の民──学術名はヒィメル族というその民族を保護してはいるが、アカデミーで叩き込んだ知識によれば、それに恩を感じるような人種ではない。
「さあ、そいつは知らんよ」
「森の民はプライドが高いと聞く。文明を受け入れず、最近やっと帝国の保護をわずかに受け入れ始めた程度の未開人だ。武器なんて何世紀も前から変わらず弓矢だろう。ライフルなんて見たこともないんじゃないのか」
「そうだろうが、仕方がないだろう。余っているのはそいつだけなんだ」
ボリスはそう言って頭を掻く。それはそうだ。この男にぶつけた所で、無意味に消耗するだけ。
「了解した。明朝、オフィス前だな」
「ああ。頼んだぞ」
そのまま踵を返し、ソルはオフィスを後にした。
乾いた風が髪を掻き乱す。第七防衛ラインへの異動、文明に遅れを取った未開人の相棒──死地へ赴く憂鬱を舌打ちと共に吐き出して、ソルは言われた通り顔合わせの場所へと急いだ。
オフィスから歩いて十分ほどで広場に設置された難民キャンプに辿り着いた。瓦礫の中、日除の破れたテントが点在している。その様はいつ見てもこの世の終わりを感じてしまう。
キャンプで私設兵団の受け入れが定期的に行われるとあって、それに当たる今日は大勢の入団希望者が集っていた。だが一目見ただけで半数以上は使い物にならない。老いぼれた退役軍人など上等な方で、大半は怪我なり病気なりで仕事を失った者ばかり。
「黙って並びなさい。ここは炊き出しの列じゃないの」
手元のタブレットを苛立たし気に叩きながら、喧騒に耳を塞いで叫んでいる女がシェイルだ。
「シェイル」
「ああ、ソル」
疲れた顔が少しだけ綻ぶ。
「見てちょうだい。死都認定された街から来たゾンビたちが押し寄せているのよ。目が回りそう」
確かにその様は古い娯楽映画のようだ。殆どが陥落した第八防衛ライン付近の民間人だろう。あちこちで疲れた身体を砂っぽい大地に横たえている。
一頻り周囲を見回し、ソルはシェイルに向き直る。
「ペゴのメンテナンスは済んだか」
「あの鉄屑の修理はとっくにできてるわよ」
あっち、と指差す方を振り返るソルの横顔にため息が刺さる。
「そんなことよりあんたはもっと大事な用で来たはずだけど」
そう言うや、シェイルはソルの背後に向かい手を上げた。
「ハンターさん、待たせてごめんなさいね。こっちよ」
忙しなくシェイルが手を振る方へ視線を向けると、瓦礫に腰を下ろしていた一人の男がゆっくりと立ち上がる姿が見えた。てっきり森からお気に入りの弓矢を携えてくるかと思えば、その肩には狙撃用ライフルがかけられている。
よく陽に焼けた健康的な肌。複雑に編まれ、後頭部でひとつに纏められた黒髪。額は張り出し、凛々しい眉と力強い双眸をより明瞭に晒している。
背は長身のソルより少し高い程度か。グレーの戦闘服を着てはいるが、ジャケットは腰に巻き、半袖のシャツから覗く腕にはトライバルタトゥーが隙間なく刻まれていて、滑らかな筋肉に見惚れるほどだ。無駄なものがない。上官のあの脂肪に包まれた腹を思い出しながら、ソルは感心していた。
無駄を削ぎ落としたしなやかな体躯。獲物を見据える猛禽類のような金色の瞳。
何より不気味なのは、こちらに向かい歩み寄る男からは不自然なまでに音がない。衣擦れの音も、地を蹴る音も、ソルの耳には触れぬまま。まるで、野生の獣だ。
圧倒されるソルの前に辿り着くと、その顔には人懐こい笑みが浮いた。
「君か、俺の相棒は」
手を差し出され、ソルは意識的に顎を上げてその手を握った。
「ソル・アルベールだ。貴様は」
「テンと呼んでくれればいい」
分かった、と短く返すソルの顔をテンは興味深気に覗き込む。
「驚いたな。都会には君みたいな美人がいるんだな」
美人──その言葉に全身が粟立った。素肌を這った執拗な指先の感触が否応なしに蘇り、ソルは握られていた手を振り解きあからさまに眉を吊り上げた。
「これから向かう先は戦地だ。弓矢で夕飯の動物を狩るのではない。そのだらしのない口を閉じろ。虫唾が走る」
「顔に似合わず凶暴だ」
戯けるように湿度のない笑みを浮かべ、テンが振り解かれた手を再びソルに向けて差し出す。
「仲良くしよう。俺たちは敵じゃない」
その人好きのする柔らかな空気は、先ほどの侮辱がなければ騙されていただろう。だがソルの心はヒリヒリと灼けている。
「仲良くだと。森の民は帝国民ではない。保護の対象だ。この時世に未開人の保護など、反吐が出るがな」
思わず侮辱を侮蔑で返すと、にこやかに微笑むテンがほんの僅かに眼光を尖らせた。その一瞬の圧に、ソルは思わず息を詰める。
「保護とはよく言う。俺たちの言語はその帝国に奪われたよ」
帝国が保護の名の下に塗り潰してきた歴史の重みが、その短い言葉で剥き出しになった気がした。
テンは出会ったことのないタイプだ。アカデミーでも、軍の上官の中にも、これほど対峙するだけである種の恐れを抱く人間には会ったことがない。これが野生か。油断した瞬間、喉を食いちぎられる想像すら容易い。
言葉に詰まるソルからふと視線を逸らし、テンが後ろを指差す。
「ところで、それはなんだ」
振り返った先では、丁度シェイルが台車に乗せ丸い物体を運んできた所だった。
「気にするな」
両手で抱き上げられる大きさのぼってりとした丸いボディに、卵を被せたような頭部。そこから芽型のアンテナがふたつ飛び出ている。背負うリュックは身体に対して大きめだ。荒廃した土地にあるには気の抜けた風貌に、ソルは微かな安堵を覚える。
頭部に対して少し大きい瞳を模した二つの部位が、ソルが傍に膝をつくとぱちっと開いた。軋んだ音を立て、頭部がパカパカと開閉し、それに合わせ古臭い電子音声が流れる。
「オハヨウゴザイマス、ソル」
「おかえり。調子はどうだ」
「ジョウジョウデス」
「そう、良かった」
微笑みのような微かな柔らかさを浮かべる横顔を眺めながら、テンは顎に手を当て感心したように頷く。
「お人形みたいな綺麗な顔でお人形遊びとは、やはり都会は違うな」
先の侮蔑が相当気に入らなかったのか、ソルが一番嫌悪を抱く挑発をこの短時間で見抜いたらしい。涼しい顔をしていながら、その腹の底にどす黒い悪意を感じる。せっかく心を落ち着けたのに、もう我慢の限界だ──怒りのまま、ソルは素早くサイドアームを引き抜き、銃口を額に向けた。だがテンは眉一つ動かさない。それどころか、まるで銃口の先にある死を楽しんでいるかのように、金色の瞳を細めただけだった。
「いい加減黙らないと、軽い頭が余計に軽くなるばかりだぞ」
「ソル、やめてちょうだい。森の民はプライドが高いの。うまく扱わないと」
側のシェイルが悲鳴のような声を上げる。
「もういい。このまま検査に向かう。ペゴはオフィスに運んでくれ」
ソルは銃を収めると、一度も振り返らずに歩き出した。背中に刺さるテンの視線が、皮膚を直接舐めとるように熱く纏わりついている気がした。
怒りを鎮めるため無心で足を進めているうちに軍の駐屯地に辿り着いてしまった。重い鉄扉の前に立った瞬間、素肌を舐める執拗な指先の感触を不意に思い出しソルは身を固くした。
いつでも軍の敷地に足を踏み入れる前にぞっとする嫌悪感を抱く。だが拒む術はない。拒む理由も。
「KTα所属、ソル・アルベールです」
鉄扉の両脇に立ち竦む軍人に向かい、自分の所属する私設兵団の正式登録名と共に、ID情報が組み込まれた正方形のロケットを手渡す。一度爪先から頭のてっぺんまで舐めるように眺めると、軍人は手慣れた仕草で手元のタブレットにそれを読み取り、態とらしく難しい顔で確認している。
「イルガーデン出身のあのソルか。検査の申請はきている。入れ」
下卑た笑みは、飽きる程見てきた。経歴の一番上に記載されたイルガーデンという言葉ひとつで全ては否定される。
ソルは手本のような敬礼と共に開かれた鉄扉の中に足を踏み出す。背後で嗤い声が聞こえる。それに耳を塞いで。
建物内を俯いて歩くソルの横顔には、常に視線がつきまとう。監視カメラの無機質ではない。軽蔑と、疑念と、そして欲望を織り交ぜた吐き気を催すものだ。
なるべく足早にラボに向かう。扉の前でロケットを翳し、わずか数秒間入室許可が得られるまで立ち尽くしていないといけないことすら苦痛だ。
扉がスライドして開かれた瞬間、消毒液の匂いが鼻につく。この扉が早く開くことを願っていたのに、開いてしまえばまた新たな憂鬱が押し寄せる。どこへ行っても気持ちは沈むばかり。
「IDをちょうだい。それから服を脱いでシャワールームへ」
白衣の女はこちらを見もせず画面を食い入るように見詰め、手だけをソルに差し出した。いつから縛っているのか、後ろで一つにまとめた髪は乱れ、鼻先まで落ちた眼鏡には汚れが目立つ。
疲れ果てた作業員の手をわずらわせないよう、ロケットを手渡しシャワールームへ。素早く全身の消毒を済ませると、ソルは全裸のまま検査ベッドに横たわり瞼を閉じた。
「検査を始めるわ。痛みを感じたら教えて」
「はい」
その声を合図に機械が唸りを上げる。X線、エコー──身体中を機械で撫でまわし、ソルの体内にあるはずのない異物の存在を執拗に探し回る。
何度やっても同じだ。何も出るはずがない。孤児院にいた頃、周囲の子供が定期的に連れて行かれる別室には一度も足を踏み入れたことがない。ソルだけが他の子供とは明らかに違う扱いを受け、何も知らず帝国民として育てられた。
だがいくら説明しても信用などされない。定期的に検査と称して呼び出され、同じことの繰り返し。これは逃れられない宿命だ。
冷たい機械が肌を往復する感覚に身を委ねながら、閉じた瞼の裏側で、ソルを抱き締め頬を寄せた男の温かな笑みを思い出す。
父と慕った男の膝の上、うさぎが冒険する絵本を読んでもらったこと。その毛並みがあまりにも見事で、擦り切れるまで絵の中のうさぎを撫でていたことを。
唸りを上げていた機械音が唐突に止み、耳鳴りに似た静寂が響く。
「検査終了よ。今回もクリア」
作業員がロケットに情報を打ち込んでいる間に服に腕を通しながら、ソルは胸の内で吐き捨てた。
何も出ないし、帝国が血眼になって探し回っているイルガーデン創設者の情報も持っていない。父と慕ったその男が何者だったのかさえ、アカデミーに入るまで知らなかったくらいだ。
「大佐がお呼びよ。このまま向かって」
分かりきっていたその言葉は、また胸を重くする。
指定された場所は司令室などではなく、大佐の個人的な部屋である。それもいつものことだ。無機質な検査ベッドから汗の匂いが染み付いた中年のベッドへ移るだけ。
湿った腕に腰を抱かれて部屋に入り、かけられた言葉に適切な返事を返す。あとは求められるまま寝そべっていればいい。これで信用を得られるのなら簡単なことだ。
耳元で荒い息遣いを感じながら、ソルは天井の汚れの数を無心で数えていた。ふと染みのひとつが動物の形をしていることに気付くと、冷え切った心に温もりが拡がってゆく。
あのうさぎのように、自由に世界を冒険してみたかった。まだ見ぬ荒野、野原を駆け回る動物達、戦争を知らぬ異国の人々の平和な生活や、無邪気な子供達の笑顔。
遥彼方で揺らぐ波を追いかけて、風の吹くまま当てのない旅をする。隣にはいつもペゴがいて、初めて目にするものを見付けては二人で顔を見合わせて笑い、無限に拡がる世界にそっと触れてゆく──。
叶うはずのない願いばかりが浮き上がっては、素肌を這う不快な感触に蹴り飛ばされてゆく。汗か涙か分からぬまま、ソルは苦い体液を必死で飲み下した。
この国にとって最も信用されていない人間だと知ってから、立っていろと言われれば足の感覚がなくなるまで立ち続けた。貞操や尊厳さえ、求められるままに散らしてきた。どんな苦痛も、不純物などひとつも混じらない忠誠を示す為なら。
それでもアカデミーでの成績は、嫉妬に狂った同輩が声高に非難した教官による贔屓などでは決してない。剥き出しの悪意さえも全て跳ね除ける為に、血反吐を吐いて努力を重ね実力を示してきた。
脂ぎった男の汗を素肌で感じながら、ソルは耳の奥で鳴る血液の音だけを聞いていた。これは手段だ。不快な重みも、湿った吐息も、抉るような痛みさえ、心を引き裂く暴力などではないと言い聞かせて。




