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序章
その日、森が戦慄いた──。
夜明け前。国境線に沿って連なる断崖の下、鬱蒼とした樹海の奥から、乾いた銃声が一発、空気を裂いた。鳥が一斉に飛び立ち、梢がざわめく。
たった一発が静かな森を激しく揺り動かした。人間のものとは思えない絶叫。骨を砕き、肉を噛みちぎる湿った音。半狂乱の連射。黒い土に散らばる空っぽの薬莢──静寂はもう戻らない。
遠く離れた首都では、アカデミーの卒業認定式が滞りなく進んでいた。白い花が、真新しい軍服の胸元を彩っている。
磨き上げられた革靴が講堂の壁に反響して鳴り響く。凛とした姿勢で整列する若者達へ惜しみない拍手が送られ、瑞々しい風が張り詰めた頬を撫でてゆく。誰もが曇りのない瞳を煌めかせている。
国境の森で何が起きているかなど、誰一人として知らぬまま。
夜と朝が三度巡る。輝きの失せた崖下の森に残されたものは、朝霧に包まれた静寂と、散った火薬の匂い。踏み荒らされた下草。血を吸った泥に落ちた若枝。そして、命であったものたちだった。
深い夜が霞んでゆく。金色の太陽が、滲む地平を引き裂いて、境界線を描いていた──。




