第九十三話 商人ギルドのお宝置き場がありました~ゴミ集積場はお宝の山~
森の奥へと歩き始めると、周りを囲っていた森の木たちは、スッと左右へ避けて奥へと続く隠された一本の道を示してくれた。
その奥に現れたのは、荒々しいむき出しの「ガレキの山」だった。
あちこちから集められた天然の噴石。ゴツゴツとした黒い岩や、ガスが抜けて蜂の巣のようになった軽石風の岩が、不規則に積み重なっていた。
しかし空間の中心部だけは、まるで考古学の発掘現場のように、泥やゴミが綺麗に掻き分けられていた。
そこには明らかに人の手によって、魔力反応の強い上質な火山岩の『お宝』と鉄くずや、がれき等の本当の『ゴミ』が明確に仕分けされ、別々に積み上げられた跡があった。
「ホーホー、『お宝』じゃぞ」
一瞬だけマナ・レクス様の声が響き、それは木々のざわめきと、何よりダッシャーの嘶きによって、かき消された。
「ダッシャー、ここが僕がせっかく少し開けたところに降りようよって言ったのに、ダッシャーが広場にしちゃった場所なの?」
「てっきり気付いておったのかと思ったが、お主のお花畑では、それは無理だった様だな」
「これは気付かないでしょ?」
「魔力感知で見てみるがよい」
視界の先にあるのは鉄くずや瓦礫、古びた建材などがうずたかく積まれた、本物のゴミ捨て場だ。魔力を持たない雑多な廃棄物の気配しか返ってこない。
「――なんも……」
「もっと深く、もっと慎重に、だ!」
雑音だらけの気配の奥の奥――その底に、魔力を底なしに吸い込んでいるような、冷たく硬い漆黒の空白がいくつも沈んでいる。
「……凄く不自然に、魔力を遮断している『何か』が、隠されている?」
「それがお主が探している火山岩だ! 始めるぞ」
集積場の奥には、火山岩の冷却実験のために商人ギルドが掘り進めた、巨大な「井戸」が湛えられていたが、今のダッシャーには興味が無い様だ。
ダッシャーは、商人ギルドが選別して、積み上げていた火山岩の山を一瞥すると、「フンッ」と鼻で笑った。
まだ誰も触れていない、溶けた鉄くずや泥がグチャグチャに絡み合った「手付かずの瓦礫の山」へと向かう。
その神々しい鬣から、瓦礫の奥底を透過する神秘的な紫の光を放つ。
――ピキィィィン……!
光が差し込んだゴミ山の最奥、泥と炭化巨木の隙間で眠っていた、『永い年月、大地の魔力を純度100%で凝縮し続けた、見たこともないほど深く美しい黒銀色の極上の火山岩』を、ダッシャーの神獣の目が正確に捉えた。
「ダンッ!!」
前足の蹄を力強く打ち鳴らすと、その最高品質の火山岩の塊が、ゴミをすり抜けて宙へと「ぽろぽろ、ふわり」と、いくつも浮き上がってきた。
空中へと引き揚げた極上火山岩に向けて、電光石火の光の刃を繰り出す。
シュシュシュシュシュシュッ――!!
まずはジャグの内材となる『極薄の遮熱・魔力増幅プレート』が美しくスライスされた。
『白檀魔梛』から作り出された二重構造のジャグ型木樽。その内側へとそのプレートが、寸分の狂いもなくはめ込まれて行く。
木製のコックが吸い込まれるように装着され、ダッシャーが【遮熱結界】と【魔石スイッチ】の魔法陣を刻み込めば、下級魔石1個でもしっかりと冷える『魔導ジャグ』が瞬時に7個、完成した。
「凄いよ、ダッシャー。こんなに簡単にこんなに凄いものを作っちゃうなんて!」
「このくらい、造作もないことだ」
「見た目も美しくて高性能で高品質、なのに小さな魔石1個で動くなんてコスパも最強だよ! 流石は僕のダッシャーだね!」
「ふふん! 分かればよいのだ」
マナ・レクス様のちょっかいで拗ねてたけど、少しは機嫌も良くなったかな。
「そんな万能なダッシャーに続けてお願い。ダッシャーお勧めの『白檀魔梛』で木樽の残り90個分の製材と、『月桂魔樹』とダッシャーの神眼で選りすぐられた『極上火山岩』で、乾燥室の棚板と床材と壁材を作って欲しいんだ。たくさんだけど出来るかな?」
「我を誰だと思っておる」
「僕のとっても頼りになる、お友達の聖獣ダッシャーさま」
「ふぬ、分かればよいのだ」
「ッ! キィィ――ン!!」
ダッシャーの鬣が逆立ち、聖なる魔力が全身から溢れ出す。周囲の大気を心地よく震わせると、そのまま前足の蹄を力強く大地に打ち鳴らす。
トレントたちが自切して差し出してくれたすべての素材、ダッシャーが自ら厳選した極上火山岩、それらが一斉に宙へ浮かび上がった――。
溢れ出す、すべてを優しく包み込むまばゆい白銀の聖なる光は、激しくもどこか神々しい、清涼な魔力の嵐となりその場を包む。
その清涼な嵐の中で、凄まじい質量を持つ素材たちが、まるで最初からそうなる運命だったかのように、寸分の狂いもなく完璧なパーツへと切り分けられていく。
『白檀魔梛』の巨木からは通常の3倍の厚みを持つ美しい樽板が切り出され、空中に高貴な聖なる香りが弾け飛ぶ。
『月桂魔樹』は滑らかな内壁材へと姿を変え、爽やかな抗菌のアロマが清涼な風に乗って周囲を満たしていく。
棚板の木枠は軽さと丈夫さを両立した、最適な太さへと一瞬で切り揃えられた。
一番の神業は、あの硬い火山岩の加工だ。
『極上火山岩』は、精密な網目の細かな空気の通り穴が空いた、頑丈で美しい多孔質プレートへと一瞬でスライスされていった。
上下の空気が上手く通り抜けるため、湿気が一切こもらず、水分が驚くほどのスピードで吹き飛んでいく。
熱を蓄える床材は、寸分のズレもない重厚なレンガ状に。壁材は、滑らかな大判のタイル状に均一にカットされ、まるで大理石のように美しく磨き上げられた断面が、黒銀色の鈍い光を放っている。
光の粒子と極上のアロマが混ざり合う、激しくも美しい嵐。その中心で、ダッシャーは自慢の長い鬣をサラリとなびかせながら、涼しい顔で全てのカッティングを完璧にコントロールしていた。
やがて風がピタッと止むと、完成した大量の木材と火山岩は、重力を忘れたように「ふわり……ふわり……」と、地面に着地した。
それは用途別に仕分けられ、整然と並べられていた。
「ありがとう、ダッシャー。物凄い光景にすっかり見惚れちゃったよ。それにとってもキレイな仕上がりだ」
「我に掛かれば、造作もないと言ったであろう?」
「お願いしたのは僕だけど、まさか本当に出来ちゃうとはね」
「キュキュイ」「チリリン」「ミルク飲むの」
「君たち良い子で待てましたねぇ、ミルクにしまちゅか?」
せっせと乾燥室用の材料を、アイテムボックスに仕舞いながら答えた。
「我はコーヒーだ!」
「あま~い、カフェオレね」




