第九十一話 お馬さんのおやつの準備です~冷え冷えジャグには魔石が必要~
残ったバケツに山盛りのいちごと3cmにカットしたバナナを大量に入れておく。りんごは芯を取り除いて乱切りに、人参は5cmの長さで6等分にしてビニール袋に入れておく。次の休憩時のおやつだ。
「らんちゃんも飲むの」「チリリン、べぇもぉ」
「はいはい、ミルクとりんごジュースとどっちが良い?」
「「ミルクぅ」」「我はりんごジュースだぞ」
子供たちにはミルクを、ダッシャーにはお馬さんたちにあげたりんごジュースを、ちゃんとストレートのままで渡した。僕もたまにはりんごジュースだ。
「「「美味しいっ」」」「美味いぞ」
「ズルいではないですか」「ズルいぞ」
「皆にも何か出してはもらえないだろうか?」
「ちょっと考えるので、まずはこれを飲んでいてください。高級品なので1杯ずつしか無いですからね。残りはお馬さん用です」
「アンセル様は高級品がお馬さん用って言ってんのか? それともお馬さん用の飲み物を俺らにって言ってんのか?」
「前者ですよ。そう言うお方です」
◇◇
休憩を終えたシアンさんは荷馬車と共に街へと戻る。王の伝令を伝える役だ。
「では、私はこの材木を街まで運び、樽を作れる職人を急ぎ集めておきます」
「それなんだがな……樽ってのは組むのが難しいんじゃないのか? こう言っちゃあ何だが、今のこの国に、酒樽をまともに作れる職人が残っているのかと思ってな」
「っ……、確かにルシアン殿の言う通りです。80年前の噴火以来、この国で大樽が必要なほどの酒造りは途絶えています。今の大工や木工職人に、液体が漏れない樽を組む技術があるかどうか……」
痛いところを突かれ、シアンさんが苦い顔で言葉を詰まらせる。
「なら、うちのギルドの『オズワルド』って職員を訪ねてみてくれ。あいつはこの国が豊かだった80年以上前の現役時代を知っている。手先も異常に器用だし、当時の職人たちの技を見てきた生き字引だ」
「それは有難いです。ぜひ、指導をお願いしたいです」
ルシアンさんは懐から、黒金のメダルを取り出した。表面には、創造神マナ・レクス様の紋章と、ギルマスであるルシアンさんの印章が深く刻まれている。
「これをオズワルドに見せな。ギルマス直々の『特命指示書』代わりだ。今なら多分、街中にいるだろうな。仕事がなくて困っている大工たちの世話を焼いているか、年寄り連中と楽しそうに世間話の相手でもしているはずだ。そいつにこのメダルを突きつければ、すぐに合点がいって腰を上げてくれるさ」
「分かりました。オズワルド殿へ必ず。……ルシアン殿、感謝いたします!」
シアンさんは深々と頭を下げると、セオドア王へと向き直った。
「民へのお触れは、アンセル殿の言われていた『特注エール用の酒樽』という名目でよろしいですね?」
「ああ、そうだな。私が全額出資する故、対価の心配をせず、安心して作業に励むよう職人たちに伝えてくれ」
「それとシアンさん、ダッシャーが切り揃えた最上級の『白檀魔梛』で作るのだと、付け加えてください。これなら、とびきり美味しいお酒が出来そうじゃないですか?」
「なるほど、それはいい! 職人どもは目の色を変えて飛びつくでしょう!」
シアンさんは不敵に笑うと愛馬のパドラスに跨り、満載の荷馬車と共に街へと向かっていった。
◇◇
僕はダッシャーの陰でコソコソとアイテムボックスを開く。
「ねぇ、ダッシャー。皆さんに用意する飲み物だけど、この作業が終わった後にも使える様な、こんな感じの冷え冷えが持続する、冷蔵ジャグなんて作れないかな?」
アイテムボックスからプラスチックのジャグを取り出して説明する。
「でも、素材はこんなのじゃ違和感しかないから、木樽に合わせて木製の方が良いかな?」
「みなが使いやすいとすれば、木だろうな」
「この『蛇口』の部分だけはホームサンタで買えば、後は作れるかな?」
「我に出来ぬことは無いわ」
「上手く行ったら、これもこの国の特産品になる様に、この街の人たちでも作れる様な、簡単な仕組みで作ることは出来る?」
「我に出来ぬことは無いが、冷やすには動力となる魔石が必要だぞ。あるのか?」
「無い、です。ダッシャーの狩った魔物の中にも、『冷やす』魔石なんて無かった気がするし――」
「『氷属性の魔石』が欲しいのか?」
冒険者ギルドのルシアンさんが声を掛けてくれる。
「冒険者ギルドにはあるんですか?」
「あぁ、前に討伐隊から買い取ったヤツがいくつか残ってたと思うぞ。ただ、小さいがな」
「ダッシャー、それで何とかなる?」
「我が効率の良い魔法陣を組み込んでやるわ」
「小さくても良いみたいです」
「よし来た! ひとっ走り行って来るわ。その代りと言っちゃあ何だが、その『冷え冷えジャグ』なる物、使わなくなったら冒険者ギルドにも優先的に回して貰えると助かる」
「それはモチロン良いですよ。お酒を入れるのには小さいですけど良いですか?」
「俺の部屋に置くんだ。問題はねぇ!」
ルシアンさんがセオドア王から貰い受けた愛馬のガルバに跨って、颯爽と駆けて行った。
ならさっきもシアンさんに伝言頼まなくても、自分で行けば良かったのに……と思ったことは言わないでおこう。




