第九話 川のほとりでディキャンプ~僕たちは揃って心配性~
「どこまで飛ぶの? そろそろ休憩しようよ」
ダッシャーの首に摑まるのに限界を感じて、口にした。
「そうだな。そろそろ我も腹が減った」
川沿いの小さな森に降りることにした。
いつもの様に降りてすぐに『くう』と『アン』に変化する。
川の水は透き通り、ゴツゴツした岩肌から勢いよく水が跳ねている。
川面は陽の光を反射してキラキラと輝き、涼しい風が森に向けて抜けていく。
胸いっぱいに空気を吸い込む。
「キレイなところだね。妖精でも棲んでいそうだ」
「ここにはいませんよ。この森は比較的、人間の住処に近いですからね」
「え? 妖精ってここじゃないとこにはいるの?」
「神授の森にはいますよ」
(冗談だったけど……。いるんだ)
森の入り口にテーブルとイスを用意し、気分は楽しいディキャンプだ。
『くう』のために厚手のレジャーシートを隣に敷く。
「さて、ご飯は何にしようかな」
(キャンプ気分だけどバーベキューじゃ芸がないな。こっち来てから肉料理ばっかだし……)
「この川って魚はいるの?」
つい聞いてしまった……。
くうはキラッと瞳を輝かせて、意気揚々と川まで歩いて行った。
くうの角から青白い稲光が走り、水面を叩くと『黒曜マス』が浮かんでくる。
蹄で水面を叩くと川が割れ、『陽炎アユ』が姿を現す。
器用に鼻先で「ポイポイ」と捕まえる。
一緒に浮かんだ『星降りイワナ』と一緒に、風魔法で僕の手元へと運ばれた。
「ランクは低いですが、美味しい魚を選びました」
得意げに僕の隣まで来て言った。
「あ、ありがとう」
「美味しい料理を楽しみにしていますね」
(マスと鮎とイワナか。馴染みのない食材だとちょっと悩むな)
マスは香草バター焼き、鮎は普通に塩焼きで食べたいな。イワナはアクアパッツァにするか。
~【マスの香草パン粉焼き】~
■材料(2人分)
・マスの身(三枚におろしたもの):2匹分
・塩・胡椒:少々
・小麦粉:適量
・溶き卵:1個分
・油:多めに
・バター:ひとかけ
◆特製香草パン粉
・パン粉:大さじ5
・粉チーズ:大さじ1
・刻んだハーブ(パセリ、タイム、ローズマリーなど):大さじ1
・にんにく(すりおろし):少々
■下準備
1.マスはウロコを落として内臓を取り除き3枚におろす。
2.塩・胡椒を振り、5分ほど置いて出た水分をふき取る。
■作り方
1.小麦粉 → 溶き卵 → ★特製香草パン粉 の順でしっかりつける。
(マヨネーズを接着剤代わりにしてパン粉を付けても良いよ)
2.フライパンに多めの油を熱し、皮目から入れたら中火で2〜3分焼き、きつね色になったら裏返してさらに2分ほど焼く。
3. 最後にバターをひとかけ落として風味を纏わせれば完成!
~【イワナのアクアパッツァ】~
■材料(2人分)
・イワナ:2匹
・あさり:150~200g
・塩・胡椒: 少々
・にんにく:1片(潰すかスライス)
・オリーブオイル: 大さじ2
・白ワイン:50ml
・水:100ml
・キノコ類(マイタケ、エリンギ、シメジなど):適量
・ミニトマト:5〜6個
・香草(タイム・ローズマリー等):適量
■下準備
1.イワナはウロコを落として内臓を取り除き、2〜4か所、斜めに切り込みを入れる。
2.全体に強めに塩・胡椒を振り、10分ほど置いて浮き出た水分を拭き取る。
3.トマトは洗ってヘタを取る。
■作り方
1.深めのフライパンにオイルとにんにくを入れ弱火にかけ、にんにくが色づき香りがしてきたら取り出す。
2.中火にし、イワナと香草を入れたら動かさずに片面2分ずつ、両面にこんがりと焼き色をつける。
3.あさりとキノコとミニトマトと白ワインを入れ、アルコールを飛ばしたら水を加えて蓋をして、5〜8分ほど煮込む。
4.味を見て塩で整えたら、最初に取り出したにんにくと一緒に盛り付けて完成!
※味が物足りなかったら、邪道ですが顆粒のコンソメを小さじ半分位投入しちゃえば美味しくなりますよ。
最後は【陽炎アユの塩焼き】だ。
アユは包丁の背で表面を優しくこすり、お腹を肛門に向かって優しく押し、フンを押し出す。
流水で洗い、キッチンペーパーで水分をしっかり拭き取ったら串を刺す。
串は口から刺して、エラを通して、身を波打たせるように「S字」に縫い刺しして、最後は尾の手前で止める。
表面全体に薄く塩を振ったら、ヒレ(尾びれ、背びれ、胸びれ)には、指でたっぷりと厚く塩を塗り込んで。
後はくうが火魔法で熾してくれたくれた焚火の周りに、頭を下に斜めに刺して遠火で焼けばOKだ。
黒曜マスの香草パン粉焼きは、レタスとタルタルソースでフォカッチャサンドにして半分にカット。
アクアパッツァにはバゲットのガーリックトーストを添える。
くうの塩焼きは串を外しておかなくちゃ。
「くう。お待たせ、出来たよ」
「どれも美味そうな香りですね」
「くうが味を重視して選んだって言っただけあって、どれも魚臭さなんて全く気にならないんだよ」
くうのレジャーシートに一緒に座り「「いただきます」」。
まずは『陽炎アユの塩焼き』をパクッ。
「「美味っっ」」
ふわっふわの身は今まで食べたどんな魚よりも儚く、香りは甘く清々しい。
(直火効果もあるのかな? 残った鮎はアイテムボックスに入れちゃったけど、焼いてからの方が良いかもね)
次は『黒曜マスの香草パン粉焼き』のフォカッチャサンドをパクッ。
鮮やかな深紅の身は咬むたびに押し返してくるような弾力で、とてもジューシーだ。
「これも美味しいなっ。脂がのってるのにしつこくなくて、パンとよく合ってる」
「調理した魚は初めて食しますが、生よりも格段に美味しくなりますね。流石は私のお嬢様です」
(くうは無視して……。星降りイワナの味も気になるじゃないか)
サンドイッチをいったんお皿に置いて、『星降りイワナのアクアパッツァ』をつつく。
雑味が一切なくてシルクの様な舌ざわりだ。
「くう、これも美味しいよ」
振り向くと、アクアパッツァの器に顔を突っ込んでいた。
(あっ、あさりの殻を外してあげないとっ)
「あさりの殻は食べられないから、ちょっと待ってっ」
慌てて器を取り上げて、あさりの殻を外す。
「私はこう言う扱いも大好きですが、少し過保護とも言えませんか?」
くうに突っ込まれて赤面する。
心配性が前面に出てしまう僕の悪い癖だ。
「だけど、アサリの殻なんて、そのまま食べちゃったら危ないじゃないか」
「心配していただきありがとう存じます。今後ともお願いいたします」
(良いのか悪いのか、どっちだよ……)
「ねぇくう、この世界の魚はみんなこんなに美味しいの?」
「この川は特別なのですよ」
『くう』が特別って言うなら、他とは別格な何かがあるんだろうな。
「最初に食べたこの世界の魚が、この川の恵みで良かったよ」
「隣国との境界のこの川の先に山があるでしょう? あの山からの恵みが豊富ですからね」
「霊峰みたいな感じなのかな」
「私にとってはただの山ですが、人々からは敬われている様ですね」
一通り食べ終わって、焚火のところへ行く。
やっぱり残りのアユを焼いておくことにしたのもあるけど……。
「そろそろ焼けたかなぁ♪」
いそいそと火の中を探って、アルミホイルの包みを取り出す。
「あちっあちっ」
軍手で包みを開けて中身を取り出す。
「焚火をするなら、やっぱこれは外せないでしょ!」
ほっかほかの焼き芋さんの登場です。
アユを焼く時に一緒に火の中に入れておいたんだ。
中身は大好きなさつまいもの『紅天使』。
いつものスーパーで『紅天使』の焼き芋を食べてから、これが一番のお気に入り。
【スーパーサンタ】には売ってると思ったんだ。
「えへへ。マナ・レクス様、ありがとうございます」
包みを開けて、くうの為に皮を剥いて器に入れる。
「くう、アイスやバターのトッピングも良いけど、まずはこのまま食べてみてよ」
僕も皮を剥いてパクッ。
「「甘っ」」
「やっぱ美味しいよねぇ。ミルク飲む?」
くうにアイスミルクを渡してイスに座る。川風が気持ちいいしお腹もいっぱい。
このままじゃお昼寝タイム突入だ。
食後のコーヒーを飲みながら川まで歩くと、澄んだ水底を魚が泳いでいるのが見えた。
岩肌には苔の上を滑る様に飛び跳ねる魚が見える。
そのまま少しだけ川に入ってみた。
「冷たっ」
後ろについて来ていた『くう』が、慌てて僕の襟元を掴んだ。
「この川は浅く見えますがかなり深いですよ。流れも速いし危険です」
「くうだって十分過保護じゃないか」
「……え?」
「え?」
◇◇◇
光魔法でランチの片付けをしながら『くう』の内に目的地を聞いておく。
「この川への恵みをもたらす山。あそこに異変を感じて向かっているのですよ」
「……そうなんだ」
異変を感じられない僕は、素直に納得することにした。




