第十話 ファイアドラゴンとの出会い~最初のご飯は爆速豚キムチ~
今はまた、再び『ダッシャー』と『アンセル』に戻り空を飛んでいる。
くうが言った通り、大きな川に添って、遠くに見える山に向かっているみたいだ。
「最初にダッシャーの背に乗って、空を飛んだ時は死んだと思ったけど、慣れるもんだね」
「我が駆けているのだ。危険は無いとは思わんのか? だからお主は根性なしと言われるのだぞ」
(いやいや、空を自力で飛ぶって、普通あり得ないから)
こんな会話も出来る位に、今では平気になった。
「今ならポニーの乗馬体験も余裕で出来そうだよ」
「ポニーとは何だ? バカにされてる気がするぞ」
「可愛いお馬さんだよ。気のせい気のせい」
たわいもない会話をしながら、山に近づいていく。
「む、やはり何か異変を感じるな。ヤツに聞くとするか」
「ヤツって?」
「行けば分かる」
(ハイハイ)
山の木々が視認出来るほどの距離で、空中に留まる。
「火口近くに居るが、気配が薄くなっておるな」
「あそこの人間?」
「イヤ。あやつらは隣国の者共だな。懲りずに何か仕掛けておるか」
(んんん――)
覚えたての魔力感知で人間の方を見てみると、一際大きなオーラが見える。
「何か強い力が山頂に見えるな。何だ? た、まご?」
「まずはヤツに話しを聞いた方が良かろう」
人間達とは反対の火口に向かう。
赤茶けた火口の斜面に、ぽっかりと不自然な大穴が開いている。
その穴に向けて、ダッシャーが急降下した。
「ちょちょ、うわぁぁぁぁぁ――」
「飛ぶのは余裕なのではなかったか?」
「ポニー扱いした仕返しかぁぁぁぁぁ」
翼を閉じて穴に降り立つダッシャーに、文句を言おうと顔をあげると……。
――っ! そこに居たのはドラコンだった!!
「ド、ド、」
「ダッシャーか、ワシに何か用か?」
「久方ぶりだな。『グロー』よ」
どうやらダッシャーの知り合いみたいだ。
(ふぅ……。どうなることかと思った)
「気になる気配が有ったからな。そろそろか?」
「うむ。分かるか?」
「そうだな。ならば、なぜ逃げぬ?」
ファイアドラゴン、グローによると、人間共は隣国の採掘隊で、この国が何も言わない事を良いことに好き勝手に山に立ち入り、鉱石の採掘を始めた。
この山は大地が育んだ無数の鉱脈を抱く霊峰であったが、送り込まれた採掘隊は容赦なく山肌を暴き、大地の骨肉を削り取るようにして富を貪り続けた。
――大地の巡り、自然の理において、次の目覚めは遥か先のはずだった。
グローは静かな眠りについていたが、山肌を削り取るその禍々しいまでの強欲な気配は、その眠りを覚ますのに安易に事足りた。
グローに気付かれるや否や、あろう事か神から授かった『竜怖の卵』を人質に取る。
大切な卵を盾にされては手も足も出せず、さりとて自分だけ逃げる事は殊更に出来ず、いっそ卵もろともと戦おうにも魔力を吸い取られ、動けずに困っていた。
ダッシャーが魔力をグローに流し込むと、やっと起き上がることが出来た。
「じゃがな。ワシのこの手では、卵を掴む事は出来ぬ。口で運ぼうにも、小さくて飲み込んでしまう心配が有って、出来なんだ」
「我も同じだな。噛み潰してしまいそうだ」
「え?」
二人に見つめられて固まる。
二人の会話から察するに、卵を救出するのに僕の【手】が必要らしい。
しかも余り時間が無いときた。
覚悟を決めるか。
「何か方法は思い付いてるの?」
ダメ元で聞いてみる。
「お主、少しは魔法が使える様になったであろう? 出来ぬか?」
(ううううん? でも僕たちがやったって気付かれてはダメだろ?)
「水魔法で目眩ましをして、風魔法で吹き飛ばす……か?」
とりあえず、この方法で行くことにした。
(他にアイデアも意見も出なかったから、これで成功するんだと暗示をかける)
とは言え、『竜怖の卵』を奪い返すにしても、その前に一応隣国の盗人共に警告はしておいた方が良いだろう。
◇◇
ダッシャーに乗って盗人共の遥か上空に立つ。
ダッシャーが体の奥底まで響く、低く唸る様な声で言い放つ。
「人間共よ。愚かなる者たちよ。勝手放題な振舞いも今を限りにするが良い。眠れる龍の静寂を乱す者は、その命をもって対価を払え。三度の過ちを許す神は、この世界にはおらぬ。汝らが求めているのは富か、それとも一族の終焉か。選ぶがよい、今すぐにだ!」
人間達は何事かと慌てふためき、周りを警戒したが、何事も起こらないと知ると、まるで自分達には関係ないと言わんばかりに、また採掘を始める。
100年前のデルポフ国への神罰も、80年前のドラゴンの怒りも、すでに古い記憶となり、人々の心からは風化していた。
戦による流血は、ドラゴンの怒りとして語り継がれたが、逆に『竜怖の卵』の存在が、ドラゴンの弱点だとして伝えられた。
今、奴らの手の中には『竜怖の卵』が握られており、正しくそれがファイアドラゴン『グロー』の弱点であると、手出しの出来ない状況が知らしめていた。
だが、奴らは知らなかった。
最高神から託された『竜怖の卵』を人質にし、グローを封じ込めた慢心が招いた結果が、最悪を呼ぶことになることを――。
◇◇◇
「そろそろ腹が減ったな。今日はたくさん飛んだから疲れたぞ」
「そうは言っても、ここ火山だよね? 火は危ないよ」
「だが、腹は減ったぞ」
「……よし! 疲労回復にはビタミンb1だな。レンジで豚キムチにしよう」
早速【スーパーサンタ】を開く。
キムチと『これうまつゆ』と卵とニラと、副菜用のきゅうりをポチる。
ご飯は炊飯器で炊いて、時間経過なしのボックスにほかほか保存済みだ。
~【爆速スタミナ豚キムチ】~
■材料(2人分)
・薄切りバラ肉:200g
・キムチ:100g
・ごま油:小さじ2
・めんつゆ(3倍濃縮):小さじ2
・ニラ:1/2束
・卵黄:2個分
・味ゴマ:お好みで
■下準備
1.薄切りバラ肉とニラはハサミで5cm位に切る
■作り方
1. 耐熱ボウルにすべての材料を入れ、薄切り肉をほぐすようにしっかり混ぜ合わせる。
2.ふんわりラップをして、600wのレンジで約5分加熱する。
3.一度取り出して全体を混ぜ、肉に赤い部分がなければ、そのまま2分ほど蒸らして完成!
レンチン待ちの間にもう1品作る。
~【無限たたききゅうり】~
■材料(2人分)
・きゅうり:2本
★鶏ガラスープの素:小さじ1
★ごま油:大さじ1
★お酢:小さじ1
★おろしにんにく:少々(チューブでOK)
★煎りごま:たっぷり
■作り方
1.きゅうりをポリ袋に入れ、包丁の柄や麺棒で叩いて割る。
2.袋の上から一口サイズに手でポキポキ折る。
3.★の調味料を②の袋にすべて入れ、シャカシャカ振って揉み込めば完成!
出来上がったスタミナ豚キムチを器に盛り付けて、真ん中に卵黄をポトリと落とす。
お好みで、味ゴマを振ったら完成だ。
ダッシャーとグローには、食べやすい様にご飯にオンした。
僕はご飯と別盛りだ。
「グローさん、人間の食べ物は食べられますか?」
「長く生きているが、食べたことは無いな。人はワシに近づかぬからな」
食べたことは無いと言うが、僕の鑑定によると『豚キムチも、たたききゅうりも食べられる』となっている。
「お口に合わなかったら食べなくても良いので、食べてみてください」
「こやつの料理はどれも美味いぞ」
「「いただきます」」
「「美味い」」
ダッシャーと声が重なる。
グローもそれを見て、恐る恐る口にした。
「ほほっ」
(ガツガツ食べてくれてるな。良かった)
「辛すぎないですか?」
「うんうん」
「「お代わり」」
『くう』と揃ってお代わりの催促だ。
「きゅうりには、このラー油も合いますよ。辛いですけどね」
「「掛けてくれ」」
二人の声がまた重なった。息ピッタリ、仲良しだね。
ファイアドラゴンだけあって、気分で肉を炎で焼くことは有っても、調理した食事は初めてとのことだった。
「『食事』と言うものがこんなに美味いとは知らなんだ。アンセルよ、お主は良き仕事をするな」
こんな簡単な食事で満足してくれるなんて有難いな。
じとっとダッシャーを見る。
「ん? 何だ?」
「何でもないよ」
まっ、料理を作るのは僕が好きでやってることだしね。
今日は簡単な料理だったから、食後の飲み物も作ってみた。
更に疲労回復だ。
~【ホットはちみつレモン】~
■材料(1人分)
・はちみつ:大さじ1~1.5
・レモン汁:大さじ1~2
・水:150ml
■作り方
1.耐熱のマグカップに、はちみつとレモン汁を入れる。
2.水を注ぎ、スプーンで軽く混ぜる。
3.ラップはせず、600wのレンジで1分30秒加熱。
4.底に溜まったはちみつを混ぜて溶かせば完成!
1人分ずつレンジで作ってたら時間が掛かるな。まとめて作るか。
~【一気に作るスタミナ回復ホットレモネード】~
■材料(10人分)
・はちみつ:150g〜200g
・レモン汁:200ml〜300ml
・熱湯:1.5リットル
■作り方
1.耐熱ボウルにはちみつとレモン汁を入れ、熱湯を注いでレードルでしっかり混ぜたら完成!
「熱いから気を付けてね」
「「アチッアチチッ」」
こうして見ると、ドラゴンも恐くないから不思議だ。
僕もマグカップでふぅふぅして飲みながら、反対側の火口を眺める。
夜になっても盗人共は帰る気配もなく、明かりを焚いて採掘を続けていた。
「仕方がない、行くか」




