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第十一話 卵の奪還とラルーギア王国~マナ・レクス様の転移魔法再び~

 デレポフ国の侵略者たちは、夜中も採掘の手を休めるつもりはない様だ。


 ダッシャーに乗って奴らの上空に着くと、僕の水魔法で卵の周りに居た見張りの上に雨を降らせた。


「ディバイン・レイン!」


 ダッシャーに「せめて雨魔法と風魔法の呪文を教えてよっ」と懇願して教えて貰った、初めての攻撃魔法だ。


 雲一つない空から、突如として叩きつけられた豪雨は、見張りたちの視界を容易く遮った。

 効果抜群だ。

 逃げ惑う奴らの上空から、更に攻撃を仕掛ける。


「ディバイン・ストーム!!」


 次に放った風魔法でそれは暴風雨となり、奴らを軽々と吹き飛ばした。

 『竜怖りゅうふの卵』を縛る魔力の檻は、術者を失い消え去った。


「ミスティ・ベール」


 卵を隠す様に豪雨のカーテンを張ると、卵の傍に降り立ち、手を伸ばす。


「ムッ! お主何ともないか?」


 ダッシャーが珍しく心配そうに声を掛ける。


「え? 何が?」


 言いながら卵に触れると……。

 「何でもないわ」と続けた。


 まぁ良いや。時間もないし無視だ。


 アイテムボックスから、以前使っていたわんこ用の『スリング』を取り出した。

 寝床ごと卵を入れたら、ファスナーをしっかりと閉め、首から斜め掛けにしてしっかりと抱き抱えたら、ダッシャーに跨り空高く飛び立った。


 ◇◇


「上手く僕たちだって分からずに出来たかな?」

「分かったとて問題はあるまい」

「問題あるでしょ!」


 洞窟に戻り、卵をグロー に渡そうと、スリングから出そうとしたら止められた。


 この山は近い内に噴火をすると言う。

 渡されてもこの山には先が無い事、運ぶ手段も温める手段もグローは持ち合わせて居ない事等、切々と話された。


 それに自分では卵を護れなかった無力さを感じて、僕に託したいと言う。


「アンセル殿は『竜怖りゅうふの卵』に認められた存在だと言うことが分かったしの」

「ん? どういうこと?」


「『竜怖りゅうふの卵』には、誰にも触れることが出来ないと言われていたのだ」

「あ! それでさっきダッシャーは、僕が弾き飛ばされるんじゃないかと心配したんだ」


 隣国の者どもは誰一人として『竜怖りゅうふの卵』に触れることは出来なかった。

 その為に『竜怖りゅうふの卵』に魔力で檻を常時張りながら、念を入れてグローの魔力を封じる策を講じてきたとのことだった。


「僕が手に出来たのは、マナ・レクス 様の許可みたいなモノなのかな?」


 なら仕方ないかと『スリング』ごと服の中に入れて温める事にした。

 僕の体温レベルで孵るのか心配だけど、他に思い付かない。



「この山が噴火するなら早く避難しないと」


 グローに急かす様に話すが、動かない。

 この山にドラコンが居ることで、この国は狂暴な魔物の侵入を抑制出来て来たのだと言う。


「この山の魔物達は弱く、皆ワシに比護を求めて集まったのじゃよ」


 みんなを置いて自分だけ逃げられないとしても、噴火なんてしたら全滅じゃないか?


「ダッシャー、何とか出来ないの?」

「お主の好きにするが良い」


 僕の思いを察して返事をくれる。


 ――アイテムボックスから【金の身分証】を取り出した。

 創造神『マナ・レクス』様と通信するためだ。


「夜分にすみません。マナ・レクス様いらっしゃいますか? アンセルです。お願いがあります」


 【金の身分証】が光り、マナ・レクス様のホログラムが現れた。


「ホーホーホー。『竜怖りゅうふの卵』の救出、見事で有ったぞ。『アンセル』の願い、聞き届け様ぞ」



 一瞬で山一面が優しい光に包まれると、上空にマナ・レクス 様が顕現し、目の前に降りて来た。


(え? サンタさんじゃないんですけど……)


 僕の知ってる、赤い服を着た、ふとっちょで、白くて長いひげの姿じゃない。

 ひげは整えられていて、スラリとした姿はどこから見てもイケオジだ。

 ついジロジロと見てしまう。


「ホーホー。どちらが本当の姿かは秘密じゃ」

(はい。僕を変化しちゃう位ですものね)


「さて話は理解しておるぞ。転移先に希望はあるかの?」

(この世界で安心して暮らせる場所なんて、知らないよ)


「「あっ!」」


 ダッシャーと顔を見合せ頷く。


「マナ・レクス 様、最初に自分たちを転移させてくれた森はどうですか?」

「ホホ―。じゃがあの森には魔物は立ち入れぬぞ」


 そうだった……。


「じゃが森の周りならば大丈夫じゃぞ。どうじゃ?」


「森の周りって、あの広大な土地のことですか? 文句有るわけが無いですよ」


 転移先は決まった。


 グローに比護下の魔物を集めて貰い、軽く説明をする。

 皆、グローの行く先に付いて行くと言う。


「では早速参るかの」


 マナ・レクス様が両手を広げると、あたり一面に光が広がり、一際眩しく光った。


「次に会う時には、儂にも馳走してくれの。ではまたの。ホーホーホー」


 ――ピシュッ、ヒュンッ――――。


 一瞬で、皆消えていた。


(はぁぁぁ……。すごい力だ)



「さて時間も無い事だ。ラルーギア国に急ぐぞ。乗れ」


 卵を大切に抱えて背中に乗ると、大急ぎで空を駆ける。


「ラルーギア国ってこの国のこと? あそこの街に向かってるの?」

「……そうだ。この国の王都だ」


 ◇◇


 ラルーギア国の王都上空に到着する。

 入国ゲートではなく、そのまま空から王宮前の広場に降り立つ。


 大慌てで警備隊が集まってくる。


「テオはどこか? 火急の用だ。出て参れ!」

(……僕たち不法入国者では無いでしょうか? ダッシャーさん)


 剣や槍を構えた警備隊に囲まれて、僕はいよいよ終わったと思った……。


「お、お久しぶりです。ダッシャー」


 王宮から慌てて誰か出た来た。


「陛下。危険です。お下がりください」


(え? 王様? スラッとした体躯にヒゲを携えたイケオジ、じゃなくてイケ王様が立っていた)


 ◇◇◇


 僕は今、王宮の来賓の間で、出された紅茶を飲んで居る。

 てっきり不法入国で捕まると思ったら、真逆の扱いだ。

 どうやらダッシャーとこの国のセオドア王は知り合いらしい。


 それは後でゆっくり聞くか。今は先にやることがある。

 山が噴火する事を伝えて、急いで避難をしないと、とんでもない被害が出そうだ。


「ダッシャー、この街ごとなんて避難先に当てはあるの?」

「避難はせぬぞ」

「え?」


「待たせて申し訳ない。火急の用とは何事ですか?」


 セオドア王が家臣と思われる数名を連れて現れた。


 ダッシャーがその前に立つ。


「時間が無い故、結論から話すぞ」

「ええ、頼みます」

「近くあの山が火を吹く。急ぎ皆に知らせ、街に留まる様に命ずるのだ。外に出ている者は呼び戻せ。猶予は今日1日と思え」


 セオドア王を始め、家臣たちは一様に驚き、一部の者からは否定する言葉も飛び出したが、それを制したのは王だった。


「わが友、『ダッシャー』は嘘は言わぬ。急ぎ通達を出すのだ。」


 家臣たちが大慌てで部屋を出ていく。


「先ほど山が光に包まれるのを見ました。あれと関係があるのですね?」


 セオドア王がダッシャーに尋ねる。


「コヤツが神にあの山が火を吹く前に、ドラゴンと比護下の魔物を救って欲しいと頼んだのだ」


 それで神が転移魔法を使ったと話した。


「この国はどうなりますか?」


 セオドア王が聞く。


「我が守る故、我の言う様にするのだ」


 先ずは王都への避難と、出来る限りの水と食糧の確保を急がせる。


 ◇◇◇


「陛下。近隣に住まう民の避難が完了しました。あるだけの水と食糧を集めましたが、数日持つかどうか……」


「お主の力なら、何とかなるのではないか?」


 ダッシャーが僕に聞く。


「『くう』は良いって言ってくれたけど、こないだ魔物を買い取りして貰ったお金を、使っても良い?」

「構わぬ。魔物など、どれだけでも狩れるからな」


 二人? の意見が同じならと準備をしようとしたらダッシャーに止められた。


「その前にやらねばならぬことがある。お主にも手を貸して貰うぞ」


 そう言うとまた背中に乗せられて、中庭から空へと飛び立った。


 王都の上空に待機すると、ダッシャーが短く嘶いた。


 キラキラした光が走ると、僕は『アン』になっていた。

 『ダッシャー』も空を飛びながら『くう』になっている。


 翼はあるが、額から螺旋状の角が生えている。


「あれ? ユニコーンも飛べるの? 翼もあるけど……」

「私はペガサスユニコーンだと言ったでしょう?」


 『くう』が笑った。


「私にしっかり抱き着き、貴女の魔力を流してください」


 言われた通りに『くう』の首にしっかりと抱き着き、目を閉じて魔力を『くう』に注ぐイメージをする。

 これまで『くう』がやってくれたのと逆だ。


 僕の体が輝き、『くう』は更に荘厳と輝いた。


「始めますよ」


 今度は先ほどよりも長く、鋭く嘶いた。


 螺旋状の角から放たれた純白の光が、王都を包み込む巨大な半透明のドームを形成する。


 光は青白く輝き、王都を空から包み込む。

 その光は四方へと延びると、薄く揺らめき、近隣の小さな村をも包み込んだ。


「ふわぁぁ……凄いな。とってもキレイだ……」


 これで降りかかる火の粉も熱風も、全て弾き飛ばせると言う。

 防音効果もあるらしく、避難した人々が音に恐がることもない様だ。


 再び『ダッシャー』と『アンセル』に変化すると王宮へと戻った。


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