第八十八話 木樽はサンダル・ウッド・オークにします~母様たちのお昼はハントンライス~
僕はいつもの様にベルちゃんとらんちゃんをスリングに入れたら、首から斜め掛けにしてしっかりと抱きかかえてダッシャーに跨る。
他のみんなはそれぞれお馬さんに跨った。
ダッシャー、セオドア王、シアンさん、ルシアンさんの順に大通りを駆け抜ける。
その先には中央広場の巨大な噴水が現れた。
噴水を覆う様に展開された光の天蓋と、その下に魔石コンロが10台、ズラリと並ぶ光景は圧巻だった。
「ダッシャー、お昼の準備をお願いするから少しだけ寄ってくれるかな」
「我も食べるぞ」
「まだお昼の時間じゃないでしょ?」
またザワつくといけないから、セオドア王たちには広場の中に入らない様に待っていて貰う。
コンロの前でおしゃべりをしているマルタさんに話しかける。
「今日も僕たちちょっと用事があるので、お昼ご飯はお願いしても良いですか?」
「もちろんいいともさ。今日は何だい?」
「今日ご用意するのは【ハントンライス】です。カレー味にアレンジしました」
「カレーってのは何だい?」
(そうか、カレーも食べたこと無いんだ)
「あっと、香辛料の効いたご飯ですよ」
~【半分レンチン ハントンライス】~
■材料(1人分)
★カレー粉:小さじ山盛り1
★ケチャップ:大さじ1
★ウスターソース(または中濃ソース):小さじ1
★コンソメ:小さじ1/2
★バター:10g
・パックご飯:1パック(180g)
◆ふわとろオムレツ
・卵:3個
・牛乳:大さじ1.5
・塩・こしょう:少々
・バター:10g
◆トッピング
・白身魚のフライやエビフライ:お好みの量
・ケチャップ:お好みの量
・タルタルソース:お好みの量
■作り方
1.大きめの耐熱ボウルに、★をすべて入れ、ラップなしで600wのレンジで30秒チンする。
2.スプーンでよく混ぜたら、冷たいレトルトご飯を入れ、スプーンの背でほぐしながらムラが無い様によく混ぜる。
3.ふんわりラップをして600wのレンジで約2分、アツアツになるまで加熱して器に盛る。
4.ボウルにバター以外の◆ふわとろオムレツの材料を入れよく混ぜる。
5.中火~やや強火で熱したフライパンにバターを入れ、ふつふつと出てきた泡が小さくなったら卵液を一度に流し込む。
6.フチが少し固まるまで5秒は触らずに待ち、菜箸で外側から大きく真ん中へぐるぐると混ぜる。
※穴が開いたら火が通りすぎ。すぐに火からおろして!
7.固まり切る前に火からおろし、3のライスの上にフライパンから滑らせるように乗せる。
8.ケチャップを回しかけ、上にフライを乗せたらタルタルソースもかけて完成。
「フライパンで★を少しクツクツさせたら、温かいご飯を加えてまんべんなく炒めて器に盛ります。別で焼いたふわとろオムレツを乗せたら、ケチャップかけて、フライを乗せたらお好みの量だけタルタルソースをかけてくださいね」
「はいよ、任せな」
「調味料はこれです。卵とバターは保冷庫に入れておいてくださいね。お米は補充しておきましたので、すみませんが後はお願いします!」
お昼ご飯のレシピをサクッと伝えて、セオドア王たちの元へと戻る。
「お待たせしました。行きましょうか」
「俺っちの昼飯は?」
「無いですよ」
そのまま街道を駆け抜けて、街外れの商人ギルドの建物へとやって来た。
今日は建物も周りの森もはっきりと見える。
建物周辺にチョロチョロと流れていた小川は、川底にこびりついていたヘドロも、分厚い火山灰も、根こそぎ綺麗サッパリと洗い流し、太陽の光を浴びてキラキラときらめく姿を取り戻していた。
すり鉢状に低くなっていた裏手の沼地は、底のヘドロが完全に消え去り、白く滑らかな岩肌が露出した、美しい沈殿湖へと変貌を遂げていた。
ルシアンさんが商人ギルドのドアノッカーを叩く。
「ガンガンガン!」
相変わらず返事はない。
仕方ない、とりあえずまた一声だけ掛けて行こう。
「レイノスさん、居ますよね? 水路の周りの森に用事があるので、一緒に行くなら出て来てくださいね」
「ガタガタガタ、ザワザワザワ――」
「ねぇ、やっぱり何かあるのかな? 焦ってるよね?」
何か知っていそうなダッシャーに聞いてみるけど返事はくれない。
「行くぞ」
「待って待って、さっきも話したけど、森の木々から木材を切り出したいんだ」
「分かっておる。どの様な木が良いのだ?」
「木枠と台用の木は、水分や熱に強いのが良いんだ。それから、生クレイを入れる樽は、アロマの香りのする木だと最高なんだけど……」
「木枠と台は『月桂魔樹』が良いだろう」
「どんな木なの?」
「木の繊維が縦横に絡み合う特殊な構造をしておる。その繊維が熱と水で歪もうとする力を相殺する」
「へぇ、強そうだね。じゃあまずはそれね」
「樽には『白檀魔梛』はどうだ?」
「『白檀』って聞いたことあるよ。香木じゃない?」
「そうだ。問題はないか?」
「ある訳ないよ。ところでこの森にその木はあるんだよね?」
「……お主は我を何だと思っておるのだ」
「えへへ、ダッシャーさま」
「では行くぞ」
うっそうとした森の手前に立つと、翼を優しくひと振りし、魔法を発動させた。
「――『次元の断裁』ッ!!」
「シュン、シュシュン……ッ!」
その風の向かった先は水路沿いの森ではなく、商人ギルド裏手の森だった。
空間そのものが悲鳴を上げるような、低く鋭い風切り音が響き渡った。
「――ヒュブォォォンッ!!!」
次の瞬間、ギルドの建物の背後にそびえ立っていた、直径数メートルはあろうかという『白檀魔梛』の巨木数本が、同時にへし折られた。
「バキバキバキバキッ!!! メキメキメキィィッ!」
凄まじい破壊音が空気を激しく震わせ、切り倒された巨木たちは、建物のすぐ裏壁の目の前へと、真っ直ぐに倒れ込んでいった。
「――――ズゥゥゥゥゥンッ!!!!!!」
「うわぁ! ぎゃあ!!」
「ひゃぁぁ!! 何事だ?」
居留守を決め込んでいた、商人ギルド内から悲鳴が聞こえる。
「ふんっ!」
ダッシャーが冷めた目線を投げ、次の魔法を放つ。
「――――スパパパパパパパパパンッ!!!!」
地面に横たわった巨大な大丸太に向かって、前足をトントンと軽く叩くと、枝葉や皮が一瞬にして綺麗に弾き飛ばされ、残された極上の芯の木材だけが、見事なテンポで美しい樽板へと切り揃えられていった。




