第八十七話 二度目は逆噴射で止まりました~水路の森に向かいます~
かつての労働者宿舎から見つかった、地下分水宮へと下る作業用通路。その最下層の第二沈殿湖横の踊り場から、ダッシャーの浮遊と風魔法で一気に地上の隠し扉部屋まで飛ばされた三人、セオドア王とシアンさんとルシアンさん。
冒険者ギルドのギルマスらしく、ルシアンさんは二度目となる今回も楽しそうだ。
「ハァッハッハーー! ヒャッホーーイ!!」
「キャーーーーー! 恐い恐い! 止めてぇぇぇぇ!!」
反対にシアンさんは今回もとても嫌そうで、嫌がってたのを無視して飛ばしたダッシャーも意地が悪い。あれやこれやの魔法で抵抗を試みるけど、そりゃダッシャーの魔法に抵抗なんて出来ないよね。
まぁ、一人だけのんびり歩いて上って来られても迷惑だし、ここは英断としよう。
一方で、これが初飛行のセオドア王は、実に優雅で堂々とした姿に「王たるものの姿」を見た気がした。腕組みをしたまま、姿勢よく飛んでいる。
「……………………ほぉ」
一瞬で大踊り場が見えて来た。
「ダッシャー、スピードを落として! 静かに下ろして!!」
「『逆噴射の風魔法』」
大きく一度羽ばたくと、その羽から柔らかな光が舞い、三人を包み込むと上昇の勢いがキレイに消滅した。
残された浮遊魔法で一瞬だけ空中で静止すると、踊り場へと降り立った。
「トトン!」
セオドア王が軽やかにスマートに降り立つ。
「ダンッ!!」
ルシアンさんは力を込めた着地だ。
「……ハァ、ハァ、寿命が縮むかと思った……」
シアンさんは「ふわり」と下りるのと同時に、床にへたり込んだ。
「クスクス、大丈夫ですか?」
ダッシャーの背に跨ったまま、一応聞いてみた。
「……だ、大丈夫な訳ないじゃないですか……。あれほど嫌だと言ったのに」
「文句が言えるのなら大丈夫だ!」
ダッシャーが冷たく切り捨てた。
「さて、先ほどお話しした様に、やりたいことは山積みです。先ずは乾燥部屋を作ろうと思います」
「あの説明だけでは細かい造りは分からぬぞ。我の好きにして良いのか?」
「あっと、僕が思っているのは天上にミニチュア太陽があって室内をグルグルする」
「それは分かっておる。天上は二重なのだろう?」
「正解です――」
「乾燥室の隣に冷蔵室を作りたい。ここから流れ出る冷気を乾燥室の二重の天井を巡らせて、蒸留した魔水を捨てずに集めたい」
「冷蔵室は我らで作るのが良かろう」
「お手伝いするのぉ」「するのぉ」
「ありがと。もう少しだけ待っててね」
「それも分かっておる。乾燥室の床や壁は、どんな素材が良いのだ?」
「それね!? 大昔の噴火の時に第一沈殿湖に集まった噴石とかあるだろ? それって火山岩だと思うんだよ」
「火山から噴出したのだからそうだろうな」
「もぉっ! 僕が言いたいこと分かってるよね?」
「言ってみよ」
「例えばだよ? 富士山と言う山があります。この山が大昔に噴火した時に流れ出た溶岩が、冷えて固まって、とっても熱伝導率の良い『火山岩』になりました。これを切り出した『溶岩プレート』で焼いたお肉はとっても美味しいです!」
「お肉!」「食べるの」
「美味い肉は我も好きだ。だが、肉が美味くなる部屋を作るのか?」
「何だか、話しがおかしな方向に行っちゃった……」
「クククク、アンセル殿、ダッシャーにからかわれているのではないか?」
「えぇっ!? こんなに一生懸命説明してるのに?」
「つまりだ! 『熱伝導率の良い石を素材にして、乾燥室を作りたい』のだな?」
「せぇかいでぇぇぇす」
「……お主、もしやと思うが――気付いておらぬのか?」
「何を?」
「相変わらずのお花畑よの。まぁよいわ。向かうぞ」
「ダッシャーよ、我らにも分かる様に説明してはくれぬか?」
僕だけじゃなくて、セオドア王にも理解不能らしい。良かった。
「水路へと向かう。馬の用意をせぬのならば、また先ほどの風が吹くがどうするのだ?」
「っ! 今すぐ連れて参りますので、少しだけお待ちください! パドラスッ! パドラスッ!!」
シアンさんが慌てて、愛馬を連れに駆けて行った。
「俺は馬は持っていないぜ。魔法で飛ばして貰えるならそれでも良いが?」
ルシアンさんは爆風に飛ばされても良い様だ。
「いや、ダッシャーの手を煩わせるのも忍びない。これからも入り用になることもあるだろう。私の馬を1頭、ルシアンが使える様に手配をしよう」
「そいつはありがてぇや。じゃあ俺っちは王様と厩舎に寄って、お馬さんで後を追えば良いか?」
「でも今回は水路ではなく森を駆けますよ?」
「この間の気持ちいい森か? あれなら走っても良いな」
「対岸だ」
「目的地は商人ギルドが歩いた側の森なの?」
「あぁ、そうだ」
「じゃあ今回は木樽用の材木になる木を伐採しながら行こうよ」
「木を切り倒すだけで良いのか?」
「生のクレイを一時保管する木樽が欲しいんだ。だから木樽を100個作れる位の木材が欲しい」
「切り倒すだけでなく、加工をしろと言っておるのか?」
「うぅぅぅん、結局、商人ギルド横の水車を動かして粉を挽きたいんだよね。だと水路に水を流したい。でも今のままじゃクレイが今にも溢れそうで流せないよね」
「レリーフが赤く怒っておるからな」
「でしょ? ならやっぱりまずは生クレイを引き上げたい。それを入れる木樽はなるべく早く完成させたい」
「なら、我が魔法で入れ物を作り出せば良いのではないか? それかお主の取り寄せはどうだ?」
「取り寄せにしても、あっちのお店に木樽なんて早々置いてないだろうし、そもそも高いよ」
「ならば我が作るか?」
「キュキュイ、お手伝いするのぉ」「のぉ」
「それは有難いんだけど、街の人たちが仕事が無くて困ってるでしょ?」
「街は封鎖しておるからな。外には出られぬし、仕事がないのは仕方のないことだ」
「だから少しでも仕事を回してあげられれば、気晴らしってことでもないけど、これで賃金が払えれば一番良いんだけど……」
「金なら有るではないか」
「冒険者ギルドがお金を払ってくれれば……ね。でも、だとしてもダッシャーの魔物買い取り金で支払うのは、違うと思うんだ」
「俺らがどうした?」
ルシアンさんがお馬さんに乗って戻って来た。
「後でセオドア王と話しをしてみるよ」
「私がどうかしましたか?」
「あ、えっとですね、簡単に言うと、今から作る木樽は街の職人に組み立てて貰おうと思ってます。仕事の確保ですね」
「なるほど、労働にはそれに見合った対価を支払うべきですね」
セオドア王はパドラスに、シアンさんはフィデロに跨って戻って来た。
「話しは後だ。行くぞ」
「待って待って、その前にこの隠し扉を閉めなきゃ」
ルシアンさんが外側にあるレバーを操作して壁を元の位置へと戻した。




