第八十六話 段取りの確認会を開催しました~極上クレイ精製所~
まだ頭の中が整頓出来ずにいる僕は、口に出すことで整理しながらみんなの意見を聞くことにした。
「僕の頭の中で思っているだけなので、他にも良いアイデアや指摘があったら言ってくださいね」
「俺は頭を使うのは無理だ。体を使う時に呼んでくれ」
ギルマスが一抜けした。
「このクレイを地上に運びます。でもそれにはいくつか順を追った準備が必要だと思うんですよ」
【ゲル状のクレイを一時的に保管する入れ物】
これには木樽を考えています。
【木樽用の材木と加工】
材木は水路脇の放置された森から木を伐採しようと思ってます。
これにはダッシャーの力を借りたい――です!
後は、これを樽に加工してくれる人の紹介をお願いしたいです。
「これだけの量のクレイを回収するとなると、相当数の樽が必要ですよ?」
「とりあえず100個を用意したいと思っています」
「中身が『高級クレイ』だと、無暗には知られたくはないな。だがそれを知られずに、大量の樽を用意するのは、中々に難しいな」
「そこなんですよね。中身がエールかワインか、そんな物用と言って誤魔化せないですかね?」
「この国は果物があまり採れないので、ワインは難しいですね。エールの方が良いのではないですか?」
セオドア王とのやり取りに、シアンさんがお国事情を教えてくれる。
「でも、それも実際に仕込んでるところを見せないと、怪しまれますよね?」
「それはそうだろうな。俺だったら大量の樽を見たら酒かと思って期待するぜ?」
「それは良いですね。私もお酒に賛成です」
「もしかして、僕が何か美味しいお酒を用意するんじゃないかと期待してませんか?」
「「それはするだろう!」」「そりゃしますよ」
三人揃って同意された。
「ですよねぇ。じゃエールにします」
「「「えぇぇぇぇぇぇぇ」」」
「美味しいエールですよ」
「では、樽の中身は『エール』に決まったので、続きのお話しをしますね」
【ゲル状のクレイを乾燥する部屋】
これは今、冒険者ギルドが仮住まいをしている、かつての労働者用宿舎。この地下分水宮からクレイをすくい上げる装置の有る、建物の内部に作ろうと思っています。
これもダッシャーの、大きな力を借ります!!
これが出来たらさきほどの生木を乾燥することが出来るので、まずはこれを手掛けようかと思ってます。
【乾燥室に置く棚と棚板】
専門家のお話しを伺いたいところですが、それだと何をするのかバレてしまうので、素人考えです。
木で作られた、枠組みだけのシンプルな長テーブルがいくつも並んでいて、そこにクレイを入れた引き出しをセットするのはどうでしょう?
引き出しの板にはかつての噴火で噴出した『溶岩石(火山岩)』を集めます。
これは水路の周りの森か、もしかすると商人ギルド裏の第一沈殿湖の近くにあるんじゃないかと思っています。
これをダッシャーに加工して貰って、クレイを乾燥する棚板にしたら、出し入れがしやすい様に木枠で囲みます。
【乾燥室の乾燥装置】
ドーム状の二重天井で、グローの鱗の「ミニチュア太陽」が天井をグルグルと旋回し、クレイから水分を蒸発させて、四隅に溜まる様にします。
「たまった蒸留水は濃縮された超高級美容液『火の山の魔水エッセンス』として別売りにする、なんてのはどうだろう?」
「水分が蒸発しただけでは、消えて無くなるのではないか?」
「ふっふっふ、良い質問だね。ダッシャーくん」
「…………」
「ここでさっき話しをしてた『エール』の登場です!」
「乾燥室の隣にもう1部屋作って、そこを冷蔵室にする。そこで作られた冷気が天井を伝って二重ドームを冷やせば、一気に結露するんじゃないかと思ったんだけど、間違ってるかな?」
「美味しいエールはどこで登場するんだ?」
お酒の話しになったらルシアンさんが割り込んできた。
「隣の冷蔵室に大量の樽があって、この中身が冷え冷えのエールと言うことにします。ここでお酒を貯蔵しているんだと」
「でも中身はクレイだろ?」
「クレイ用に樽を作りますが、エールは僕が別で手配しますよ。それを乾燥室とは反対側から飲めるようにしたらどうかと思って」
「つまり?」
「部屋は閉じ切って、樽とその中身は一般には見せません。見えるのは蛇口と出て来るエールだけです」
「つまり? あのエールの『冷え冷え』が飲めると言うことですか?」
「皆さんが思っている、あのエールじゃないですよ。もっと美味しいお酒をいくつかご用意します」
「やったぜ、宴会だ!」
「でも、これは頑張ってお手伝いをしてくれた人へのご褒美ですからね」
「お手伝いするのぉ」「飲むのぉ」
「はいはい、お手伝いありがとね。君たちは後でミルクね」
「天井の太陽は、部屋一面を柔らかい日差しで照らす様なイメージが良いかな。床下にも棚板と同じ火山岩を敷き詰めて、遠赤外線効果を高めたらどうだろう?」
「そこに我が風を流す――か」
「きゅぃ! お手伝いするの」
「そうだね、風なららんちゃんにもお手伝いお願いしようかな」
「チリィン、ベルちゃんもお手伝いするの」
「ベルちゃんのお手伝いかぁ、あっ! 冷蔵室を作るからその時にお願いしようかな」
「「いいよぉ」」
「とりあえず、今のところこんな考えです。皆さんどうでしょう?」
「あ、良いんじゃないですか?」
「うんうん、俺も良いと思うぞ」
「とりあえずやってみましょうか」
「何かスッキリしないけど、皆さんの気持ちがエールに向いているのか、僕が言ったことに反対しにくいのか……」
「では上へと向かうぞ。お主は我に乗れ」
ヤバそうな雰囲気を察して、急いで子供たちをスリングに入れるとダッシャーに跨った。
「『フロート』!」
ダッシャーが無重力化の魔法を唱えると、三人の身体が『フワッ』と浮き上がった。
「うわぁっ! 私は歩いて行きますから、下ろしてください!!」
シアンさんが嫌がってバタバタしている。
当然ダッシャーがそんなこと聞く訳がない。
「『バースト』!」
ドドドォンッ!!
三人が後ろから爆風で突き飛ばされるように、物凄い勢いで上へと向かって飛んで行った。
「うわっホーーーイ」
「おぉぉぉぉぉぉぉ――」
「キャァァァァァァァァァァァァァ」
僕たちも後を追って優雅に飛んでいく。
「前回と思うとちょっと遅い?」
「距離が無いからな」
「そうだよ、そろそろスピードを落とさないと激突しちゃうよ」
「外壁は開いておる。外へと飛び出すだけだ」
「飛び出しちゃったらどこに落ちるか分かんないでしょ!?」
「『風の壁』ッ!!」
シアンさんの悲鳴にも近い魔法を唱える声が聞こえた。




