第八十五話 ドラゴンの落とし物を拾いました~クレイの効果いろいろ~
第二沈殿湖横の作業用踊り場に、セオドア王とシアンさんとルシアンさんが着いたので、ドラゴンプールでの水遊びを止めて軽く打ち合わせをすることにした。
「そこのプールでこんな落とし物を拾っちゃいました」
軽いノリで、ベルちゃんが拾ったファイヤドラゴン、グローの抜け落ちた鱗を取り出した。
それは、ほんのり夕焼け色の光を内側に閉じ込めた、ルビーのように美しい結晶だった。
手のひらに載せると、じんわりとした優しいぬくもりが伝わってくる。
「これは? まさか」
「まさか、国家予算にも匹敵する金額で取引されるという、『ドラゴンの鱗』ですか?」
セオドア王の問いかけに、被せる様にシアンさんが続けた。
「え? そうなの?」
「アンセル様は、それをどうしようとしてるんだ?」
ルシアンさんも驚いて問いかける。
「ダッシャーにお願いして、クレイの乾燥室の熱源にして貰おうと思ってます」
「『ファイヤドラゴンの鱗』を、ですか?」
シアンさんが驚きを隠せずに突っ込んできた。
「ダメですかね?」
「いやいやいや、ダメとかそういうレベルの話しではなくて――」
「ねぇ、ダッシャー。やっぱりグローに返さないといけないのかな?」
「お主の好きに使えば良いと言ったであろう」
「うん、でも何かダメそうな雰囲気なんだよね……」
「こやつらの言うことは、お主は知らなくてもよいことだ」
「ま、まぁ、国の宝であることに変わりは――無い、のか?」
セオドア王も戸惑いを隠せない様だ。
こんな時は必殺『無視作戦』だ!
「それでですね、このクレイをこのまま水分を含んだままにするのは使う時には楽ですが、保管や運搬には不向きだと思うんですよ」
「アンセル様よ、このクレイが何の商品になるのか俺っちにゃあ、ちょいと想像がつかないんだが」
ルシアンさんが振り切った風に聞いてくれる。
「それもそうですね。じゃあ軽く説明しますね。この『クレイ』にはいくつかの魅力的な効果があるんです――」
僕は主だった効果を分かりやすい様に説明した。
【汚れを吸い取る力】
火山岩や火山灰が主原料なので、この泥の粒は目に見えないくらい細かく、汚れを吸い付ける不思議な力を持っています。
その効果は、肌に塗ると、お肌の奥の落ちにくい汚れや古い角質を、ピタッと吸い取って綺麗にしてくれます。「お肌の黒ずみが一瞬で消える魔法の泥パック」になります。
【お肌と身体の若返り】
クレイの原料は「ドラゴンの山からの噴出物」。山そのものにドラゴンの莫大なエネルギーが宿っています。
この濃厚な魔素がお肌の奥まで染み込み、カサカサだったお肌を一瞬でぷるっぷるのモッチモチに若返らせてくれます。
【温熱作用】
ファイヤドラゴンの山の噴出物であるこのクレイは、「熱をため込んで、じわじわと放出し続ける(蓄熱性・温熱作用)」という素晴らしい特徴を持っています。
そのため、肩や腰に塗ると、まるで上質な温泉の湯治や岩盤浴のように身体の芯までポカポカと温まり、血行が良くなって、体の疲れや筋肉痛が一発で吹き飛んでしまいます!
「このクレイの原料は、ファイヤドラゴンの棲んでいた『ゆりかごの山 フェリス』から噴出した物ですよね」
「あの山がドラゴン様の怒りに共鳴し、爆発したんだよな」
「それはちょっと良く分らないですが――」
「チェッ、せっかく俺が話しを合わせてるってのに、相変わらず冷たいな」
「とにかく、ファイヤドラゴンの魔素をたっぷり含んだ原料に、僕の洗剤の美白効果、ダッシャーの熱水に含まれた魔力が相乗効果となって、ここにしかない極上の副産物が出来上がったんですよ」
『ドラゴンの山からの噴出物』というだけでも、世界中の研究者が狂喜乱舞する最高級の魔力資源だ。そこに神獣ダッシャーの魔力が加わっている。
この二つが出合ったことこそが、常人には考えもつかない奇跡だとは、お花畑のアンセルには気付くはずも無かった。
「そ、相乗効果って……アンセル殿、これ、水路掃除の副産物なんてレベルじゃないですよ! 国宝、いや世界を揺るがす奇跡の魔法薬です!!」
「あれ? そんな風になっちゃいます? だと売り物にはならないですかね?」
「原料と製造方法を秘匿して、効果だけで売り出すことは可能でしょうね」
「なら良かった。水車を回したくて水路掃除で出たゴミが、そんな大そうなモノになっちゃうの? って驚いちゃいましたよ」
「いや? かなり大そうな物だぞ。アンセル様よ」
「お主のお花畑では分からぬことだ」
「んんんんん、もぉ分かんないし、価値観の違いってことで良いかな! よし!!」
「「「………………」」」
「じゃあ、続けるよ」
「――はい、どうぞ……」
「さっきも言ったように、運搬や保管効率を考えると今のゲル状ではなくて、粉末にした方が良いと思うんだ」
「粉末ですか?」
シアンさんが首を傾げる。
「確かに、ゲル状のままでは重く、樽に詰めて運ぶのにも限界があります。粉にすれば軽くなり、他国へ輸出するのも容易になりますね」
セオドア王が理解してくれた。
「そのためにはこのクレイを乾燥させる装置が必要なんだ」
「これだけの商品を作ろうとしているのだから、それは大掛かりで時間と資金が掛かるのですか?」
「ある物を使うので、時間もお金も掛かりませんよ」
チラッとダッシャーを見る。
「『ある物』で『使われるもの』とは我か?」
「えへへ、半分正解! 『ある物』はこれね」
グローの鱗を見せる。
「ペシッ」ルシアンさんが片手で顔を覆った。
「もう一つの『ある物』は僕にちょっと思い当たる事があるから、地上に出てから探しますね」
チラッと上目遣いでダッシャーを見る。
「それらを使って我に何かしろ、と言うのだな?」
「ピンポンピンポンピンポン! 正解!!」
「しかし、聖獣ペガサスユニコーン様をこうも手足のように動かせるとは――。これはこれで恐ろしいな」
「だってダッシャーは優しいから、お願いすれば聞いてくれるし……ねぇ?」
「ふんっ」
「パパ、優しいの」「パパ、大好きなの」
ベルちゃんとらんちゃんが、援護射撃をくれる。
「う、うむ。仕方がない」
「ね?」
「それでは、私どもには手伝えることはないのでしょうか?」
セオドア王が気を遣ってくれる。
「お願いしたいことはありますよ。冒険者ギルドの皆さんにもね」
「えぇ、えぇ、国をあげてお手伝いしますとも!」
「大っぴらはダメなヤツですよ。本当のことを知っている人はなるべく少なく、上手く誤魔化しながら人手を貸してください」
「何だかワクワクしますね」
シアンさんが子供の様に目をキラキラさせた。




