第八十四話 ファイヤドラゴンの鱗を拾いました~グローは二人のじぃじ~
天井に美しく揺らめく青い光の波紋、開いた裏壁から差し込む太陽の光が交差する神秘的な水面で、三人がこれ以上ないほど優雅に、ポカポカと気持ちよさそうに水浴びを楽しんでいた。
「チリリィン! つめたくてきもちいいー!」
ベルちゃんは、お花のように体を膨らませてスイスイと波を立てて泳いでいる。
「きゅいっ! らんちゃんも浮くのぉ!」
ベルちゃんのすぐ横では、可愛いライフジャケットを着たらんちゃんが、手足を一生懸命バタバタさせて楽しそうに犬かきをしていた。
「まるで宇宙空間にでも居る気分だよ。こんなにも安心出来てこんなにも安らぐなんて、やっぱりダッシャーは凄いね」
「ママぁ、チリリーーン」
ベルちゃんが薄衣のバリアの内側へと飛び込んでくる。
「きゅっ」と抱きしめる。
「ママ、あったかなの」
「ふふふ、パパの魔法だよ。ベルちゃんはとっても冷え冷えだね」
「ママぁ、きゅぶい」
らんちゃんも飛び込んでくる。
二人をお腹の上に乗せたまま、ぷかぷかとプールに浮く。ベルちゃんがポンポンとお腹の上で跳ねるたびに、僕のお腹が水中へと潜る。
「ぽよんぽよん、ぷかんぷかん、ぽよんぽよん、ちゃぽんちゃぽん」
「楽しぃぃ」「チリリン、カチィィィン!!!」
「ん? カチン? ベルちゃん何か持ってるの?」
「じぃじ」
「ベルが飛び降りた際にそんなことを言っておったな」
ダッシャーがプールのすぐ傍を飛んで顔を出す。
「じぃじって?」
「ファイヤドラゴンだな」
「へぇ、グローのことを『じぃじ』って覚えてるんだね。卵の中に居てもグローの愛情は伝わってたんだ」
「我は『パパ』だぞ!」
そこで自慢することでも競うことでも無いと思うんだけど……。
「グローの鱗がこの地底湖にあることで、流れ落ちた水が変質しているのだ」
「さっきダッシャーが『更に』って言ってたのはこのこと?」
「そうだ。ベルはこれを見つけて飛び込んだのだろうよ」
「それでドラゴンの鱗がこのプールにあることで、水がどう変質してるの?」
「水だけではないぞ。この空間全てに【絶対防腐・調湿】の加護が、時を止めるように張り巡らされておる」
「だからこの空間にあるバケットコンベアも配水システムも、全部キレイなままなんだね」
「ベルちゃん、それちょっと見せて」
「はぁい」
ベルちゃんが水中から拾い上げた、2つの大きな鱗を手に取る。この冷たい水の中にあったのに、温かい。
ぷかぷか浮かびながら、顎に手を当てて考える。
「何を考えておるのだ?」
「うん――。ねぇ、これって熱を発したままに出来るのかな?」
「少し変質させれば可能と思うぞ」
「じゃあ、これちょっと持って帰っても構わないかな?」
「お主に何か考えがあるのであれば、構わぬぞ」
「ただ、気掛かりなのはこの分水宮なんだけど、持ち出しちゃって大丈夫かな?」
「グローはここで水浴びはもうせぬからな。その内に力も弱まるやも知れん」
「だよね? じゃあ1枚は水中に残した方が良いよね?」
「キュキュィ」
らんちゃんが僕のお腹の上から、水中を覗き込んでいる。
「らんちゃんどうしたの?」
「じぃじなのぉ」
「そうだな、らん。そこにグローの鱗が落ちておるぞ」
どこまでも澄んだ水中を覗くと、深いところにキラキラと光る物がある。
「あれがそうなの?」
「んきゅ、じぃじなの」
「案外、あちこちに落ちてたりして……」
「うむ、気配はあるからな。だが、お主が欲しいと思うのならば、持ち出せば良い。もし必要とあらば、その時にグローからむしれば良いだけのことだ」
「恐いことサラッと言ってるよ?」
とりあえず2枚をアイテムボックスにしまった。
「それで何に使うのだ?」
「ふふふ、あのクレイの精製に使えないかなぁって思ってね」
「ほぉ、また何やら思いついたのか?」
「うん、またダッシャーに手伝って貰えば、難なく完成すると思うんだ」
「はぁ、やれやれだ」
これから大がかりな事業が始まる。しっかりと計画を立ててミスのない様にしなくっちゃ。その為にまずは――。
「バケットコンベアを動かす前に、吐き出されたクレイを集める入れ物が欲しいよね」
「そうだな」
「乾燥小屋も欲しいよね」
「そうかもな」
「乾燥した後の商品を梱包する入れ物も欲しいよね」
「ああ、そうだな」
「もぉっ! 僕の話、聞いてないでしょ?」
「おぉーーーい。ソッチはどんな具合だ?」
クレイの溜まった沈殿湖横の、踊り場まで下りてきたルシアンさんが大きな声で叫んでいる。
「良い感じですよぉ」
適当に答えておく。
「ダッシャーよ、そちらはどうだ? 楽しんでいるか?」
セオドア王が聞く。
「見ての通りだ。我は楽しんではおらぬ」
「きゅきゅぅぅい、楽しいよぉ」「ちりりぃぃん、冷たいの」
「そろそろ戻りますか?」
「空中視察はどうだったんです? その先はどうなってましたか?」
「あぁ、えぇ、すべてじゅんちょうですよ――」
すっかり僕たちが遊び惚けているのを黙認してくれているセオドア王と、羨ましそうなルシアンさんとは対照的に、シアンさんの目が冷たい。
「――設備は全て問題なしです。今すぐにも動かせますよぉ」
「おぅ! じゃあ今すぐに動かそうや」
冒険者ギルドのギルマス、ルシアンさんは相変わらず前向きでやる気満々だ。でもまだ準備しないといけないことがいくつかある。
「その前にやることがいくつかあるので、すぐには動かしませんよぉ?」
「私も早くこれが動くところが見たいですね」
「その為にも少しご相談がありますので、上でお話ししましよう」
ダッシャーに浮遊魔法で浮かせてもらって、踊り場へと運んでもらう。
「ドラゴン様のプールで泳ぐなんざ、神の所業だぜ。あっ、神だったわ。ガッハッハッ」
「僕は神じゃないです。神様の使徒ですよ。そこは間違えたらダメですよ」
「ははは、ついに認めたか」
「あっ! ぶぅぅぅぅぅ、ぶぅぶぅ」
「ぶ?」「ぶぶ?」
またベルちゃんとらんちゃんが真似して興奮中だ。アイテムボックスからタオルを取り出して、そんな二人を優しく拭いた。




