第八十三話 ドラゴンプールで水浴びします~ライフジャケットは必須~
光と水音が響く壮大な地下神殿の空を、ダッシャーと子供たちとダイナミックに駆け巡る。
沈殿湖から流れ落ちる滝を間近で見ながら、ダッシャーに聞く。
「どこまでも透き通ってとってもキレイな水だね。でも水門は今また閉じてるよね? この水はどこから来てるんだろう?」
「グローの山から地下を通って届く水だな」
「水宮の壁から湧き出ている水と同じってこと?」
「通ってきた道でその純度と性質は変わる。それらが全て交じり合い、この地底湖に集まり、更に――」
「チリリリーーーン。じぃじ!」
ベルちゃんがスリングから飛び出した!
「あぁぁぁぁっ!! ベルちゃんがプールに落ちちゃったっ!」
「トッポン!」
慌てて僕も飛び降りようとすると止められた。
「慌てずともよい。ベルは水属性のスライムだ」
「でも、でもっ。泳ぎが苦手な子だっているかも知れないじゃないかっ!」
「そもそもお主、泳げるのか?」
「あ……」
――僕は泳ぎが得意ではありません。
そうこうしている内に、今度はらんちゃんまでスリングから飛び出そうとしている。
「ダメダメダメダメっ! らんちゃんは、絶対にダメっ!!」
「ママぁ、らんちゃんも遊ぶの」
「――じゃあ、ちょっと待ってなさい!」
「はぁい……」
珍しく僕が物凄い勢いで強く言ったからか、らんちゃんが静かに待ってくれている。
「ダッシャー、僕は急いで買い物をするから、ベルちゃんから目を離さないでね!」
「大丈夫だと言うておるに……やれやれだ」
急いでホームサンタを開いてペット用品売り場に行く。
「いつものホームサンタの売り場ではないのか?」
「あそこはフードはあるけど洋服は売ってないんだ。こっちにあると良いんだけど……」
ホームサンタの猫ちゃん用品売り場で、ライフジャケットを探す。
「わんこ用も頑丈で捨てがたいけど……少し丈が長くて、らんちゃんキックの邪魔になりそうなんだよね。それにこの子は体が柔らかいから、抜けちゃわないようにホールド力が高い『猫ちゃん用』のほうが安全だと思うんだ」
「きゅきゅぅぅ」
「はいはい、もうちょっと待ってね」
お腹側はマジックテープとバックルの二重ロック。首元は、らんちゃんの可愛い角にも安心な、左右へ展開できるオープンタイプのを探す。
「あ、有った有った。これなら、らんちゃんの角を通さずにパサッと着せられるし、マジックテープとバックルとダブルなら途中で脱げたりしないだろう。それに背中のハンドルも安心ポイントだしね」
急いでポチって届いた商品を袋から取り出す。
「お待たせ、らんちゃん。まずはお手てを頂戴ね」
マジックテープを全開にして、背中側かららんちゃんの体の上にライフジャケットを被せ、片手で胸元を支えてお手てを通す。反対のお手ても通したら最難関のマジックテープだ。
お腹側の『もふもふふわふわ』を挟み込まない様に、指先で毛をよけながら、グッとジャケットを手繰り寄せて太いマジックテープを巻きつける。
続けてバックルをカチッとロックし、最後は首元のマジックテープをキュッと固定した。
「うん、丁度いい感じで良かった。お手てもしっかり通っているから後ろにすっぽ抜ける心配もないし、丈が短いからあんよも自由に動かせるよ」
「きゅぃ、行くのぉ」
「はいはい、今すぐね。ダッシャー、低い位置までお願い」
「――本当に心配性だな」
そう言いながらも、ベルちゃんがぷかぷか泳いでいるプールに、手が届く位まで下がってくれた。
「ありがとう。さぁ、らんちゃんも行っておいで」
「お主は行かぬのか?」
「僕は大丈夫です」
「なぜだ? 子らと遊ばぬのか?」
「僕、泳げないし……」
「お主のことだ。自分用のライフジャケット? を持っているのではないか?」
「う……。持ってますが?」
「ならば問題なかろう?」
「――僕は冷たい水が苦手です。心臓止まっちゃいます……」
「ほぉ、そう言えばそんなことを言っておったな」
「仕方ない、『断冷の薄衣』」
ダッシャーの体から細かな金色の光が溢れ、僕の体を優しく包み込む。
「シュウゥゥン……」
微かな風の音と共に、僕の肌や服の表面から、陽炎のような透明の光の膜がゆらゆらと浮かび上がった。それはまるで、真昼の太陽の光を編み込んで作ったかのような、目に見えないほど薄く、しかし絶対に破れない頑丈な空気の薄衣だった。
「わぁ……! 何これ? 身体のまわりが、日だまりに包まれてるみたいにポカポカだよ」
「40℃だ! これで冷たくなかろう。行って来るが良い」
「ありがとう、ダッシャー。やっぱり君は優しいね。ところで一緒にどう?」
「いや、我はよい。グローのブールに入る気にはなれぬわ」
「ははは、それもそうか。じゃあちょっと行って来るね」
アイテムボックスから自分のライフジャケットを取り出して、ファスナーとバックルをしっかりと閉じる。ドラゴンプールに向き合うと、静かに足からプールへと入った。
「チャポン――」
「ベルちゃん、らんちゃん、お待たせ~」
「チリリン、ママぁ」「きゅぅぅい、気持ち良いの」
「ダッシャー、全然冷たくないよ。それに空気に包まれて浮力があるみたい。これなら僕も安心だよ」
両手両足を大きく広げて、ぷかぷかとプールに浮く。泳げない僕は、こんな風に手足を伸ばして水に浮かんだことなんて無かった。
◇◇
冒険者ギルドの隠し部屋から伸びた、急勾配の職人階段を手すりを掴みながら慎重に下りてきた、セオドア王とシアンさんとルシアンさんにも楽し気に遊ぶ声は届いていた。
「おいおい、……。あいつらが大騒ぎしてると思ったら、ありゃあ一体何の騒ぎだ?」
ルシアンさんは第二沈殿湖のバケットコンベアがある中間の点検足場から、遥か下の『ドラゴンのプール』を見下ろした瞬間、ぽかんと口を開けた。




