第八十一話 隠し扉の中は地下分水宮でした~6つの絵はマニュアル~
冒険者ギルドのレリーフの中に隠される様に保管された1枚の紙には、6つの絵で作業手順が描かれていた。
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1コマ目:【ひらく鍵】
上弦の月のレリーフの小さな木の扉に、古い真鍮の鍵を差し込んでカチリと回すおじさんの絵。
2コマ目:【おろすレバー】
室内の壁に据え付けられた頑丈な鉄のレバーを、両手で「ガチャン!」と真下に引き下げている絵。
3コマ目:【ひらく扉】
小屋の裏壁が外側に向かってパカッと斜めに倒れ込み、まばゆいお日様の光が一気に差し込んでいる絵。
4コマ目:【みつけるフタ】
室内の床に、床下収納のような四角いフタを見つけ、おじさんが「おや?」と嬉しそうにフタを持ち上げている絵。
5コマ目:【まわす車輪】
床下から現れた巨大な舵取りのような手回し車輪を、おじさんが汗をかきながら「グルグル!」と力強く回している絵。
6コマ目:【あつまるお宝】
四角いショベルがガタゴトと泥を運び、開いた壁の滑り台から建物の外の回収炉へ泥が落ちている絵。
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「これは……ドアの絵か。壁のレリーフと同じ月のマークがついたドアだな。そこにこの鍵を挿せ――か。次は壁のレバーを下げて、床を開ける。車輪を回すと泥が溜まる……か?」
シアンさんがもう1枚の紙を覗き込む。そこにはこう書かれていた。
『青は平時、黄は準備、赤は開始、点滅は危険』
青の時は何もするな。
黄色になったら人を集めて準備開始。
赤になったら作業を開始。
もしも、赤が点滅したら国が傾く事態と心せよ。
今、このレリーフは赤く点滅している。
「早く地下の扉を開けて作業を始めろって意味ですね!」
シアンさんが慌ててメモが書かれた紙を、セオドア王に見せた。
「なるほど! じゃあまずはこの地下への扉を探さないとですね」
僕がそう言うと、スリングの中から顔を出して、鼻をヒクヒクさせていたアルミラージのらんちゃんが、「きゅぃ!」と鳴いて飛び出しそうに、なるのを慌てて抱きとめて、そっと床に降ろす。
ぴょんぴょんと積み上げられた木箱を上り、後足で奥の木箱を叩いた。
「とととととん!」
「きゅぅぅぅ。ママぁ、ここぉ」
「くんくん、確かに微かにあの『洗剤』の香りがするね。お手伝い出来て良い子だねぇ、らんちゃん」
「あぁ、でかしたぞ。らん」
「あ、それ俺たちの荷物だ。悪い悪い」
冒険者ギルドが持ち込んだ荷物らしい……。
木箱をどかすとそこには『上弦の月』のレリーフが掲げられた扉があった。
鍵を差し込み、扉を開けるとあの『洗剤』の柑橘系の良い香りが、一際強く漂ってくる。
暗闇に地上の光が差し込み、薄明かりの中に怪獣の骨のような巨大な鉄のチェーンがそびえ立っているのが見えた。
その先には、天井の闇を突き抜けるかのように地上へと伸びる、巨大なチェーンバケット装置の先端が浮かび上がる。
「まさか俺たちの足元に、あの沈殿湖の対岸へ直結する隠し扉があったとはな!」
ルシアンさんが驚きの声をあげた。
「まるで、工場にある『バケットコンベア』みたいだ」
「それは何ですか?」
シアンさんが興味深々に聞いて来る。
「あっと、僕の、故郷に……」
「動かしてみれば良かろう」
「そ、そうだね。これかな?」
壁にある大きなレバーを引く。
「ふんっ! ググイ――。びくともしないな……」
「俺に任せろ」
ルシアンさんが「ふんぬっ!」と力を入れる。
「ガコン……ギギギギ!」
歯車が噛み合う音が響き、ギルドの裏壁の一部が、外側に向かって斜めに倒れ込んだ。
「バサァァァッ……! ――カァァァン!」
倒れきった壁が、外の石造りの堀の縁にがっちりと固定される。
その瞬間、薄暗い室内に、真昼のまばゆい太陽の光が、まるで一本の巨大な光の帯となって、猛烈な勢いで差し込んできた。
「えっ!? 壁が壊れちゃった?」
「いや、違うな。これはレバーを引くことで『壁が開いた』が正解だろうな」
「そうだな、3コマ目の【ひらく扉】だな」
すると、壁が外側へと開くのと同時に、地下から「ギギギギギ……!」と鎖の巻かれる音がして、壁の隙間から巨大な鉄のレールが、地上の石造り集積場に向かって斜め上に突き出してきたのだ!
「これはすごいな……! 地下のコンベアが、壁が開くのと連動して地上まで伸びてきたのか!」
セオドア王がその造りに驚きの声をあげる。
太陽の光が一杯に差し込むことで明るくなったそこには、地下へと続く暗い縦穴の最上部、『大駆動竪穴』の上部構造が、ハッキリとその姿を現した。
巨大な開口部から差し込む光があらわにしたのはそれだけはなかった。本当の驚きは、明るくなった建物内の「足元」にあった。
床に明らかに怪しい『切れ込み』が入っている。
鉄の取っ手付きの頑丈そうなフタは、まるで大きな『床下収納』の入り口のようだ。
「これが4コマ目の【みつけるフタ】ですね」
床の『切れ込み』の外側に立って取っ手を思い切り持ち上げる。
「ふぬぅぅっ! やっぱりびくともしないや……」
「だから、俺様に任せろって」
ルシアンさんが「ふんぬぬっ!」と力を入れて、がバッと上に跳ね上げた。
すると、床下にぽっかりと口を開ける、もう一つの「暗くて深い竪穴」が姿を現した。
「うおっと、こいつは危ねえ!」
ルシアンさんが慌てて一歩後ろへと下がると、フタの横にある固定レバーをグッと引き絞る。
ーーガッッ! ギチギチギチギチッ……!!
床下の暗闇の奥から、巨大な『水平の車輪』が「ウィーーーン」と垂直にせり上がってくる。
車輪の真ん中からは、何本もの太い木の押し棒が放射状に突き出ている。
大人の胸の高さまで上がったところで、車輪は「ガチリ!」と音を立てて、床の上にロックされた。
「へぇぇ、普段は床下に格納されていて、使う時だけせり上がるのか。凄いからくりだね」
ギルドの室内に出現した、巨大な『手回し車輪』。
これを人力で回せば、竪穴の中を通る長〜い鉄のシャフトが回転し、地下の底にあるコンベアを安全に動かせる仕組みなのだ。
「よし! 回してみるか」




