第七十五話 その爆走飛行もやらかしです~セオドア王からの呼び出し~
僕の「食べ終わったら水車を見に行くからね」に反応したのはシアンさんだった。
「どうかしましたか?」
「急いで食べてしまいます!」
パクパクパクパク、うぐっ――。
慌ててアイスティを勧める。ストレートティのポーションをお水で割っただけのインスタントなのは、今はまだ内緒だ。
ゴクゴクゴクゴク、ぷっはぁ。
「これはスッキリとして美味しいですね」
「手間は掛かっていないので褒められても微妙です」
「手間をかけずに紅茶が、しかも冷たい飲み物が作れるのですか?」
(あ、また余計なことを言っちゃった)
「それで何で急いで食べるんですか? 慌てて食べてのどに詰まらせたら危ないですよ」
「そうでした。――パクパク、ゴクン。お待たせ致しました」
(急いでいても食べきるのね。まぁ美味しかったってことね)
【温冷の調律器】をアイテムボックスにしまい、鉄板と食器をレイ・クリーンで片付けながら話しを聞く。
「実は、陛下より皆さんをお連れするようにと仰せつかりまして。……お部屋におられなかったものですから、もしやこちらかと思い、お迎えに上がりました」
「何かありましたか?」
「昨日、開通させた水路の件について、至急お話を伺いたいとのことです」
そりゃ食べてる場合じゃないよね。
「それで、セオドア王はどこに居るんですか?」
「私が出てくるときには、王宮の自室にいましたが」
「では、一度王宮に戻りましょうか。ん? そう言えば、今日はパドラスは一緒じゃないんですか?」
シアンさんの愛馬のパドラスとは、昨日一日、一緒に水路の掃除をして仲良くなった。
「あいつは昨日の酷使と、晩ご飯を忘れて私どもだけ先に食べたのを怒っている様でして……」
「ははは、ストライキですか。じゃあ後でおやつをあげて、ご機嫌取りましょうね」
「ありがとうございます。と言う訳で私は歩きなので、先に王宮へ行ってください」
「あぁっと――」
チラッとダッシャーを見る。
「お主、何を考えておるのだ。そやつは乗せぬぞ」
「違うよ。ソッチじゃない」
「では何だ?」
「あの扉って、ダッシャーの思うところに繋がるんだよね?」
「ふむ、ふむむむむ。どう言うことだ?」
「ダメかな?」
『それは私が賛成しかねますね』
「え? くう?」
『私どもはそれでなくとも、人目にさらされた場所で、幾度となく常春の箱庭を発動しております』
「それは俺も思うぞ。好き放題見せびらかしてるのかと思ったわ」
「いや、でも夜だし、暗いし、見えてないかなぁって……」
「見えてたぞ」
「はい、ごめんなさい。気を付けます」
『そ、そんなつもりで言ったのではございません。貴女様は御心のままに、ご自由になさって良いのですよ』
「ならば我がそやつらを城まで運んでやろう」
「え? ダッシャー?」
「『フロート』!」
ダッシャーが無重力化の魔法を唱えると、シアンさんとルシアンさんの身体が『フワッ』と地面から浮き上がった。
「うわっっ」「はっ、なんだこれは……っ!」
「お主は我に乗れ」
急いでベルちゃんとらんちゃんをスリングに入れて、ダッシャーに跨る。
大きな翼を広げてふわりと空中に浮くと、二人を高く持ち上げる。
「お前たち、体に力を入れろ! 行くぞ!!」
宙に浮いてうろたえるシアンさんとルシアンさんに、ダッシャーが力強く言い放ち、間髪入れずに次の魔法を発動させた。
「『バースト』!」
ドドォンッ!!
二人が後ろから爆風で突き飛ばされるように、物凄い勢いで前方へと飛んで行った。
「うおおおおおおっ!? はや、速すぎるっ!!」
「キャァァァァァァァァァァ! っ」
二人の絶叫が空に響き渡る中、僕たちも超高速で、王宮を目指して一直線に飛んで行く。
「あの二人、大丈夫かな?」
「ふん」
◇◇
王宮の正門が見えてきた。でも前を行く二人の勢いは止まらない。
「あの二人、大丈夫かなっ!? ねぇねぇ、ヤバくない!?」
ダッシャーが大きく翼を広げて急ブレーキをかけるが、二人の勢いは止まらない。
「う、おおおおおおっ! 『風の壁』ッ!!」
シアンさんが必死に風の魔法を唱えて、目の前にブレーキ代わりの空気のクッションを展開した。
――ズサササササッ!
芝生を削りながら凄まじい勢いで滑り、王宮の柱の手前、わずか数センチのところでどうにか停止することが出来た。
――ドッパァァァァァン!!!
前庭の中央にある噴水が、激しく水しぶきを跳ね上げる。
ルシアンさんは、無重力から解き放たれた慣性のまま、綺麗な放物線を描いて空中を舞い、噴水に落ちてしまった。
王宮を守衛していた兵士たちが一斉に剣を抜いて駆け寄ってくる中、ダッシャーは優雅にふわりと芝生へ着地した。
「ぶはっ! げほっ、いやあ……凄かったな!」
噴水の水底から勢いよく顔を出したルシアンさんは、髪からボタボタと水を滴らせながら、満面の笑みを浮かべていた。
「ルシアンさん、大丈夫ですか!?」
「ああ、最高の気分だ! 昨日走った道も気持ちよかったが、今のも早くて有意義だったぞ!」
「あはは、なら良かったです」
びしょ濡れのまま笑顔のルシアンさんとは対照的に、柱の目の前で停止したシアンさんは、その場に崩れ落ちるように膝を突いていた。
「……シアンさん?」
恐る恐る声をかけると、シアンさんは真っ白な顔で、膝を震わせながらゆっくりと首を振った。
「し、死ぬかと思った……本気で心臓が止まるかと……」
「シアンさん、ごめんなさい……!」
ヒヒーーーンッ! ヒヒヒーーン!
嘶きに振り向くと、そこにはセオドア王の愛馬のフィデロと、シアンさんのパドラスが立っていた。
「パ、パドラス――」
「ヒフンッ」
心無しかパドラスがドヤ顔をしている。
「ママぁ、『ざまぁ』ってなぁに?」
「え? らんちゃん、そんな言葉覚えちゃいけません!」
「パドラスぅぅぅ、私が悪かったよ」
急いでアイテムボックスからバナナを取り出した。




