第七十三話 商人ギルドは生きてます~フライパンでハニートースト~
噴水前の共同炊事場はいつもの様に賑やかだ。
――ワイワイ、ガヤガヤ。
「そうなんだよ。うんうん――」
「あいつらがねぇ――」
マルタさんたちがおしゃべりしながら、お鍋で炊いたご飯を配っているのが見えた。おかずはフライパン一杯の目玉焼きみたいだ。
テーブルの上には味ノリとふりかけも置かれていた。
僕はふりかけよりも、お茶漬けの素を熱々ご飯に混ぜて、おにぎりにしたのが好きだから、お茶漬けの素も当然提供済みだ。
おかずが何もなくてもご飯とこれだけあれば何とかなるだろうと、ご飯の時間に合わせて来られないのを見越して用意をしておいた。
「おはようございます、皆さん」
「おはよう、アンセルさん。ダッシャー様にベルちゃんとらんちゃん。ふふ、今日も可愛いねぇ」
「キュフゥィ」「チリィィィン」
「二人とも良かったね」
「それはそうと、ちょっと知ってるかい?」
「え、えっと?」
「こないだここに商人ギルドの連中が居ただろ?」
「えぇ、また何かやらかしたんですか?」
「昨日の夜遅くにさ――」
マルタさんの話しによると、昨日の夜遅くに街外れで、商人ギルドらしき人たちが目撃されたらしい。
元々が、自らを衰退したと偽り、この街や国さえも恨んで他国へと亡命したと噂を流し、その恨みから建物の亡霊まで現れる、なんてうわさ話もあったほどの人たちだ。
それが魔石コンロの一件で人前に姿を現し、それすら訝しんでいたところに、昨日から街外れに商人ギルドの建物が急に現れた。
(それは僕たちが隠蔽魔法を解除したからですね……)
今、起こっている『ゆりかごの山、フェリス』の噴火が、商人ギルドが現れたせいだとか、後付けでそんな話しが噂されている最中に、真夜中にふらふらヨロヨロと、まるで亡者の様に歩く一団が目撃された。
長い間、その存在を無きものとして伝えられていたために、集団で広場に現れた、なんて言っても信じない人も多く居るらしい。
「白衣が月夜に輝いて、下半身が見えなかった――。なんてことを、その一団を見たって人が言うんだよ」
「山の怒りで呼び起こされた亡霊だと思うかい?」
なるほど、白衣が例の『洗剤』で真っ白に輝くほどにキレイになって、その反面、下半身は森を歩き回ったからか、もしかすると最初はドロドロの水路に入ったから汚れたのかも知れない。
それが暗闇では下半身が見えなかったって思われたってことか。
「えぇっと――。昨日は僕たちの後を追って、水路横の森を登って行ったと思いますよ? もちろんその時には生きてましたよ?」
「水路ってどこのだい?」
「商人ギルドの近くに水路が隠されていたんですよ。それを遡って水門まで行ってきました」
「おやまぁ、あいつら仕事をしないばかりか、貴重な水路まで隠していたってことかい?」
「それがたまたまなのか? 意図的なのかは聞いてみないと分からないですね」
「それじゃあ、あの建物もフラフラと漂う様に歩く集団も、亡霊じゃないんだね?」
「はは、違いますよ。あの未開の森の中を、普段運動もしていない人たちが歩いて往復したとしたら、それは疲れてヘロヘロになったでしょうね」
「でも何で急にあいつら姿を現すようになったんだろうね?」
「あぁ、きっかけは魔石コロンですよ? あれの整備をして欲しくて、冒険者ギルドのルシアンさんに強力して貰いました」
「俺を呼んだかい?」
「……呼んでませんよ」
冒険者ギルドのルシアンさんは鼻が良い。いや、耳が良い? 僕が行く先々になぜか現れて、ちゃっかり何か食べていく。
今回も朝ご飯の足しにと、昨日多めに買ったクロワッサンと、今朝多めに用意したハニートーストを準備しようと思ったら現れた。
「マルタさん、朝ご飯は全員済みましたか?」
「あぁ、街の人たちを優先していたから、あたしらはまださね」
「朝からお疲れ様でした。甘い物を食べて元気をつけてください」
【アイテムボックス】から厚切り食パンとはちみつを取り出す。バターは【保冷庫】にある分で足りるだろう。
「フライパンで簡単に作れる甘いトーストですよ」
「またふわふわ食パンかい? 嬉しいね」
「真っ白いご飯も美味しいけど、このふわふわのパンも忘れられないんだよね」
パンも人気みたいだ。そう言えば、シアンさんも白パンが食べたいって言ってたな。後で持って行ってあげよう。忘れなかったら――。
~【フライパンでハニートースト】~
■材料(2人分)
・食パン:2枚(厚さ4〜5cm)
・無塩バター:30g(1枚につき15g)
・はちみつ:大さじ4(各トーストに大さじ2)
■作り方
1.厚切りパンの表面に、縦・横に3本ずつ、深い格子状の切り込みを、下から1cm手前まで入れる。
2.フライパンを弱火にかけ、バターを入れて広げながら溶かす。
3.食パンの切り込み面を下にして入れ、蓋をして弱火のまま3〜5分、きれいな焼き色がつくまでじっくり焼く。
4.ひっくり返し、裏面も同様に2〜3分、カリッとするまで焼く。
5.切り込みを上にしてお皿に盛り、切り込みをめがけてはちみつをたっぷり回しかけたら完成!
「こりゃ良い匂いだ。俺が一番っ!」
「ルシアンさん、何やってるんですか? 並んじゃダメですよ。これはマルタさん達へのご褒美なんですよ」
「何でご褒美なんだ?」
「ご自分たちは朝ご飯も食べないで、皆さんのために働いてくださってるんですってば!」
「でも俺、朝飯まだなんだよ」
「遅くないですか?」
「俺だって街の警備とか、困ってる人たちの御用聞きとか、やってんだよ」
「御用聞きはともかく、警備は兵士さん達のお仕事じゃないですか? 邪魔しちゃダメですよ」
「邪魔……なのか?」
ルシアンさんの視線の先に、シアンさんが立っていた。




