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第七十一話 聖なる光の天蓋ガゼボが出来ました~15の卵の組み分け~

 リリーの子供たちのあり得ない成長に、現実逃避をしたくて横を向くと、霊樹の室に作られた蜂の巣が目に入った。


「ねぇリリー。昨夜生まれたこの子達も、今夜には孵るのかな?」

「えぇ、多分そうだと思うわ」

「なら今夜もここに泊まろうかな」

「かしこまりました」


 くうから返事が返ってきた。

 何やら恭しく微笑むと、その言葉を待っていたとばかりに、常春の風を優しく揺らした。


「我が姫の望みのままに、眠りを脅かす全てを退け、至高の安らぎをここに――『聖光天蓋(ルミナス・キャノピー)』」


 静かに、しかし凛とした声で短い詠唱を紡ぐと、螺旋の角から溢れ出た白銀の光の束が、天へと真っ直ぐに突き抜けた。

 それは、バチバチと心地よい閃光を放ちながら膨れ上がり、大輪の花火のようにはじけ飛ぶ。


 光の粒子は、編み込まれて8本の美しい光柱となると、地面に吸い込まれる様に垂直に立ち並んだ。

 柱が天を支えるように固定されると、頂点を繋ぐように七色のオーロラが揺らめき、ドーム状の屋根がゆっくりと広がる。そこには、激しい風雨や日差しをはじき返し、あらゆる災厄を完璧に抑え込む、美しくも神聖な天蓋ガゼボが完成していた。


 同時に、その足元にも奇跡が起こる。

 咲き誇っていた花たちが、まるで意志を持っているかの様に、ガゼボの外側へと優しく退いていく。その跡には、ふかふかとした柔らかい極上の芝生が、まるで緑のじゅうたんの様に青々と生えそろった。


「ポワン、ポワポワン――」


 命を灯された天蓋の中心から、『神輝石しんきせき』の波動が目に見えないラインとなって地上へと降り注ぐ。

 ドーム状の天井からは、温かみのある聖なる光がガゼボ全体を優しく包み込み、中心には可愛らしいシャンデリアが鎮座する。

 8本の光の柱はほんのりと発光し、柱と柱を繋ぐように光の糸で編まれた淡いレースの膜で覆われ、うっすらと揺らめいていた。


「シュウゥン……サァッ」


 空気を包み込むような贅沢な音が響くと、そこに現れたのはガゼボの内側をぐるりと円を描いて囲む、圧倒的な奥行きを持った最高級のソファだった。

 その広さはダッシャーが横になっても十分に余裕のある、規格外の大きさだった。

 円座ソファの中央には、ひときわ肉厚なクッションを湛えた、純白のカウチソファが、鎮座している。


「こちらもマナ・レクス様の『神輝石しんきせき』へと繋がっております。この天蓋も、ソファの心地よさも、永遠に失われることはございません」

「いや――。確かにリリーの豪邸と比べて僕のキャンプ道具じゃ寂しいって言いましたよ? 昨夜は霊樹とくうのクッションで眠ったけど、寝心地は良かったって言ったでしょ? あ、もしかしてやっぱりくうは僕が枕にしちゃったから嫌だった?」

「いいえ、私はお嬢様の枕として、一晩ナイトとしての役目を果たせたことに満足しております。今宵はソファでお休みいただきましても、枕は私めをお使いください」


「ふぅ……。それはやっぱり堂々と口にされるとちょっと引くけど……。でも、とっても嬉しいよ。ありがとう」

「ティパーティの会場としてもご利用出来ましょう?」

「マナ・レクス様もゲストで呼ぶんだし、僕のキャンプチェアって訳にはいかないか」

「そこは私は別段どうでも――」


 王様がバカンスに来る様な、特級のスイートルームが出来上がった。これが僕の【アイテムボックス】のお花畑の中で良かったと思った。


「まぁ……! なんて美しく気高い光の天蓋かしら。とっても素敵だわ」


 リリーがうっとりと見上げる。


「これは……。外敵や災害を100%遮断する結界でありながら、内部の魔素を完璧に循環させる神聖な構造。くう殿のアン様への愛情の深さ、しかと見届けました」

「いや、ブランくん。そこは見届けなくていいから!」


「わあ、すごい広い! ソファがぐるーっと一周してる! ここでみんなでティパーティをしたら、絶対に最高だよ!」

「チェリーは素直で可愛いね」


「きゅきゅい、らんちゃんも可愛いの」

「チリリンリン、ベルちゃんもぉ」

「はいはい、らんちゃんもベルちゃんもとっても可愛いでちゅよ」


 ◇◇


 霊樹の蜂の巣に大切に産み落とされた15個の卵。この子たちが今夜にも孵るとしたら、またベッドと住まいが必要だ。

 リリー達にもガゼボを用意しようと思って【トイ・サンタ(おもちゃ屋)】を開いてそう思った。


「いや、待てよ。蜂の一群はこんな数じゃない。最初にブレーンとして5人を生んだ。その各々の側近として15個の卵を生んだのなら、この後ももう少しは数が増えるんじゃないか?」

「えぇ、良い考えですね。私も同感です」


 独り言のつもりが声に出ていたみたいだ。くうが同意してくれた。


「ブランたち5人はリリーと一緒に住むとして、他の子たちは別で住まいを構えた方が良いよね。でも生まれてみないとどんな感じか分かんないよな」


 顎に手を当てて考える。


「この子たちはすでに、それぞれのカラーで組み分けがされている様ですよ」

「え? そうなの?」


 霊樹の室の中へと身を乗り出し、巣を覗き込む。するとそこには、息を呑むほどに幻想的な光景が広がっていた。

 15個の卵の表面は、まるで最高級のシルクや、チュールレースを幾重にも重ねたかのように、内側から透き通るような5色の光を薄っすらと放っていた。


 ガトー・ブラン(ホワイト)の右腕となる子たちの卵は、まるで朝露に濡れた白い薔薇の花びらのように、気品あるパールホワイトの光を放っている。


 ガレット・ブール(ゴールド)の背中を追う子たちの卵は、まるで搾りたての蜂蜜を月の光に透かしたような、温かくまろやかなハニーゴールドに揺らめいている。


 グラッセ・ミュール(パープル)の影に従う子たちの卵は、完熟した野苺ミュールの果汁を煮詰めたシロップのように、妖艶でミステリアスな深紫色の明滅を繰り返している。


 グラニテ・シトロン(ブルー)の軍勢に加わる子たちの卵は、凍てつく冬の夜空に瞬く星や、澄み切った氷の結晶を思わせる、クリスタルブルーに鋭く瞬いている。


 ガナッシュ・チェリー(レッド)の補助を務める子たちの卵は、真っ赤なチェリーの果実が弾けたような、瑞々しく鮮やかなルビーレッドに小さく脈打っている


「本当だ……。みんな、もう自分の色に生まれてこようとしてるんだね」



 ◇◇


 そろそろ街の皆さんの様子も気になるし、水車も見に行きたい。

 とりあえず最低限の買い物だけして、後は戻ってからにしよう。


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