第七話 『くう』先生の膝枕魔素循環授業~晩ご飯はしゃぶしゃぶです~
食事も終わってアイテムボックスからジャグを出して、食器たちを洗おうとしたら『くう』に話しかけられた。
「マナ・レクス様から、魔法を使える様にして貰っていたでしょう?」
そう言えば、最初にそんなこと言われた気がする。
「でも、どんな魔法が使えるか分かんないよ? くうには分かるの?」
「私に出来ないことはありませんよ。でも貴女も『鑑定』は使えるはずですよ」
「『鑑定』?」
つぶやくと目の前に画面が開いた。
◆名前:アンセル(アン)
◆種族:乙女
◆レベル:1
◆魔力:1
◆防御:1
◆運:999
◆魅力:999
◆スキル:アイテムボックス・鑑定
◇生活魔法
・ファイア:1
・ライト:1
・クリーン:1
◇攻撃魔法
・火属性:1
・水属性:1
・風属性:1
・土属性:1
・光属性:1
・聖属性:1
◆加護
・創造神の加護:9999
◆従魔
・ダッシャー(くう)
(ヘタレ感満載なんだけど……。何より、マナ・レクス様の加護がメチャ高いんですけど……)
「マナ・レクス様のお陰で、魔法はたくさん使えるみたいだ。でもこんな弱くちゃスライムにでも軽く殺されそうだよ」
「私が傍に居るのですから、魔物に襲われることはありませんよ」
「ぐぬぬ……」
『くう』も僕のステータスを覗き込む。
「マナ・レクス様の加護が高いのは、愛されているからでしょうね」
「複雑だけど、有難い話しだよね」
「魅力が高いのは、あなたがとても可愛らしいお嬢様だからですよ」
「それも複雑だけどね。自分では見えないから分かんないんだよね……」
ハッキリと種族【乙女】と書かれてるし、『アン』で居る方が、僕も『くう』も良いのかもな。
「レベルは低いですが、魔法はほぼ網羅していますね」
「魔法と食器洗いと、何か関係があるの?」
食器を洗いながら聞く。
「魔法が使えれば、片付けは一瞬で終わりますよ」
「そうなの? 何て便利な。どの魔法?」
片付けを終わらせて『くう』の傍に行く。
これか「クリーン発動」。
――ぷすん……。
不発だ……。
思わず赤面する。
「水魔法が扱えれば水が出せますし、風魔法が扱えれば乾かすことも可能ですよ。更に火魔法を組み合わせればお湯が出せますし、温風もね」
「僕の魔法はどれもレベル1だよ。これでは発動はしないのかな?」
「少しの威力は作り出せると思いますが、「魔力」も低いので、無理をすれば体に負担が来ますよ」
――とりあえずやってみるか。手をかざして唱える。
「ウォーター」
ポタポタポタ……。
壊れて水漏れしてる蛇口みたいだ……。
(でも出来た。ちょっと嬉しい)
「ここに座ってくださいな」
くうに言われて、チョコンと正座する。
くうはころんと横になって、ぽすんと僕の膝の上に寝転がった。
「もおっ! 教えてくれるんじゃないの?」
……ふぉ……ん。サワサワサワ……。
『くう』から僕の体に何かが巡って来る。
「もう一度魔法を唱えてみてください」
「ウォーター」
手をかざすとさっきと違い、勢いよく水が飛び出した!
――ジャーーー。
「うわっ」
ビックリして掌を握ると、水は止まった。
「どうなってんだ?」
「私の魔力を貴女の体に巡らせました。この状態で回数をこなせば上達は早いですよ」
「う……、うん」
仕方ない。魔法上達法として取り入れるとするか。
◇◇◇
途中、足がしびれて休憩を取りながら、半日ほど練習をしただろうか。すっかり日も傾いて、そろそろ夕飯の支度をする時間だ。
「今夜はどこで寝るつもり?」
「この近くに街は無いですから、今夜は野宿ですね」
――マジですか。
何はともあれ、先ずは晩ご飯か。
森の中だし魔物が匂いに釣られて寄って来るといけないし、匂いがしない料理が良いな。
しゃぶしゃぶにするか。
【スーパーサンタ】を開く
肉がメインだけど、白菜・長ネギ・シイタケ・えのき・しめじで良いかな。
ポン酢とゴマポン酢は残りがあるけど、ゴマダレは足りないからこれもゲット。
~【魔物肉でしゃぶしゃぶ】~
■ 材料(2人分)
・薄切り肉:200g
・白菜:1/6株
・長ネギ:1本
・シイタケ:4個
・えのきだけ:1袋
・しめじ:1袋
・白だし:75ml
・水:600ml
・ゴマダレやポン酢等:お好みで
・ラー油:お好みで
■下準備
1.白菜は柔らかい部分は一口大のざく切り、芯の部分は繊維に沿って細切りにする。
2.長ネギは斜め切り、シイタケは石づきを取り7ミリ位に切り、えのきとしめじも石づきを切ってバラしておく。
■作り方
1.カセットコンロに土鍋を乗せて、白だしと水を入れて火にかける。
2.スープの中に野菜を投入、しばらく煮たらきのこを加える。
3.火が通ったらグツグツしない程度に火を弱め、薄切り肉を1枚ずつ『しゃぶしゃぶ』する。
4.お好みのタレで召し上がれ。
肉は最初は豚で良いかな。様子を見て牛も追加しようか。
僕はゴマポン酢が好きだけど、ゴマダレ多めが良いから少しゴマダレを追加。くうはお酢ダメかも知れないし先ずはゴマダレかな。
(でもこの土鍋じゃ野菜でいっぱいで、お肉が入るスペースが無いな。先に煮えた野菜を盛るか)
くうの食器(大き目ボウル)に野菜を入れて、上からゴマダレを掛ける。
「文句を言う様で申し訳ありませんが、お肉が無いですがこれで完成でしょうか?」
「今からちゃんとお肉を『しゃぶしゃぶ』するから、ちょっと待ってね」
野菜が減った土鍋の火を少し弱め、薄切りの豚肉を1枚ずつ『しゃぶしゃぶ』する。
『しゃぶしゃぶぽい』『しゃぶしゃぶぽい』『しゃぶしゃぶぽい』『しゃぶしゃぶぽい』……。
『しゃぶしゃぶ』した肉を、くうの野菜の上に『ぽい』と乗せて行く。
(いや、これ大変だぞ)
『しゃぶしゃぶぽい』『しゃぶしゃぶぽい』『しゃぶしゃぶぽい』『しゃぶしゃぶぽい』……。
「とりあえず食べてみてよ。足りなかったらまだ材料はあるからさ」
疲れたからいったん休憩して、僕も自分のとんすいによそって食べる。
「「美味いっ」」
「ラー油も美味しいよ。入れる?」
「貴女が美味しいと言うのであれば間違いはないでしょう。お願いします」
唐辛子入りのラー油を『くう』のごまだれの上にふりふりする。
「おぉ。ピリッとして味に深みが出ましたね。これは美味しいです」
「美味しく食べてくれて僕も嬉しいよ」
「お代わりをいただけますか? 今と同じ位は欲しいのですが……」
「すぐ出来るからちょっと待ってね」
追加で作っておいたスープに、さっきの半分の量の野菜を入れ火にかける。火が通ったらくうの器に入れてお肉を用意する。
今度は牛肉だ。
『しゃぶしゃぶぽい』『しゃぶしゃぶぽい』『しゃぶしゃぶぽい』『しゃぶしゃぶぽい』……。
ポン酢を上から掛けてやる。
「このタレは少し酸っぱいけど大丈夫?」
「アッサリして牛肉には合いますね。とても美味しいですよ」
「それは良かった。味変で『柚子胡椒』があるけど入れるかい?」
「さっきのラー油と違うのですか? 少し入れてください」
スープに溶いてやる。
「おぉぉぉ、鼻に抜ける香りが良いですね」
「でしょ?」
「最後はゴマポン酢にしようと思うけど豚肉と牛肉とどっちが良い? 僕はやっぱりしゃぶしゃぶは豚肉の方が好きだな」
「貴女が好きな方でもちろん良いですよ。豚肉でお願いします」
語尾にハートが見えた気がしたが無視だ。
しゃぶしゃぶぽいぽいして、美味しくいただいた後の〆はチーズリゾットだ。
~【〆のリゾット】~
・ご飯:茶碗1杯
・ピザ用チーズ:1/3カップ
・粗びき黒コショウ:お好みで
残ったスープを火にかけて、ご飯とピザ用チーズも入れたらグツグツ煮込む。良い感じに水分が少なくなったら完成。
くうの器に盛って黒コショウを振る。
「ラー油はどうする?」
「モチロンです! 入れてください」
「はいどうぞ。召し上がれ」
「これも美味しいですね。――しかし貴女が作る物は、何でも美味しいのですね」
「それはありがとう。うん美味しい」
◇◇◇
さて、いよいよ今日1日行った『くう先生』の【膝枕魔素循環授業】の成果を試す時だ。
心を落ち着かせて先ずは深呼吸。
(上手く出来ますように……)
――右手を前にかざして……。
「ウォーター」
……ド、ドドッ、ドドドッ、ザザァーーー。
昼間のポタポタ水漏れと思うと全然違う。小さな滝みたいな勢いだっ!
「『くう先生』のパワーって凄いな」
掌を握って水を止める。次は……。
「ファイア」
掌を上に向けて唱える。
ポゥッ、ボボーーー。
掌から炎が立ち上った。
「アチチッ」
慌てて炎を消す。
(これを同時にやるとお湯になるのかな?)
右手を下向きに前にかざして唱える。
「ウォーター・ファイア」
……ぷすん……。
一瞬水が出かかって消えた。間違えちゃったみたいだ……。
「ホットウォーター」
もう一度、今度は小さな声で唱える。
……ッザーーー。
右手の掌から水道位の勢いで水が出る。
(少し湯気が出てるな。成功か?)
そっと左手で触ってみると温かい。
お風呂には少し温いけど、洗い物には良い感じの温度だ。
(あれ? 右手からお湯が出たのは良いけどどうやって洗うんだ?)
掌を広げたまま引いてみると、お湯がそのまま流れてる。
(これで良いのか? いや出しっ放しはもったいない。ダメだな)
掌を握ってお湯を止める。
「うぅぅぅぅぅん……」
顎に手を置いて考える。
「何を悩んでいるのですか?」
「いや、お湯が出たのは有難いけどこれで片付けは無理じゃないの? 結局は洗剤とスポンジで洗う訳だよね?」
「人がやる方法は忘れてください。貴女には光属性もあるでしょう?」
「光? ライト?」
「それもそうですが、それは灯りですね」
「光? 太陽? ……。ソーラ・レイ?」
パ、パァーーーー。
「うわっ!」
指先から『光』が出たっ!!
そのままさっき使ってた器に『光』を当てる。
チ、チチチチ、ササァーーー。
『光』が広がって器を滑って行く。
「凄いな、これ……」
自分のことだけど驚きだ。いや、『くう先生』の力か……。
「くう、凄いねこれ。マジで便利だよ。ありがとう」
「貴女の手が荒れるのは、忍びないですからね」
「でも僕、レベル1だけど防御のスキルも持ってるよ?」
「そういう問題ではないのですよ」
……なるほど、愛なのね。
(乙女の力って凄いな。まっ女装男子的なんだけどね)
『光』魔法のお陰でサクッと片付けは終わった。
◇◇◇
周りはすっかり真っ暗で、覚えたての『ライト』で手元に灯りをともす。
くうの体がぼんやり光ってるから周りは明るいけどね。
くうが僕に浮遊魔法を掛けて、ふわりと背中に乗せられる。
「この先に洞穴があります。今夜はそこで野宿ですが良いですか?」
「一人じゃないし問題ないよ」
弾む様に駆け出した。なぜかくうが喜んでいる様に見えた。
10分ほど走ると、林の奥にある洞穴に着いた。
「私の体に寄り添ってください。暖かいですよ」
くうがころんと地面に寝転んだ。
(でもこのままだと、くうが痛そうだな)
アイテムボックスから、来客用の折り畳みマットレスを取り出して、くうの下に敷いた。
くうに守られる様に添い寝したら、掛布団も掛けて「おやすみ」をする。
くうの体温が心地よくて、手触りの良い毛並みに秒で夢の中だった。
「スゥスゥ、スヤァ……」




