第六十七話 5人の性格が見え隠れしています~リリーはくうが好き~
――チチチ、チュチュチュン
柔らかい日差しと、楽し気な鳥たちのおしゃべりに目を覚ます。
「んんんんんん、ぅぅぅん、はぁ、良く寝た。おはよう、くう」
「おはようございます、お嬢様」
夕べはふわふわのクッションの余りの心地よさに、倒れ込むなり夢の中だった。
それにしても、一晩中くうを枕にしていたのかな?
「くう、もしかして一晩中、枕にしちゃってたのかな?」
「えぇ、貴女だけでなく、ベル殿とらん殿も、ですよ」
「僕は熟睡出来たけど、くうは重くて寝られなかったんじゃない? ごめんね」
「いえ、私は寝なくても大丈夫なのですよ。むしろ、一晩中、貴女のナイトで居られてこの上なく幸せな時間でした」
「そ、そうなんだ。そう言って貰えると気が楽だよ。ありがと」
(ちょっと複雑だけど……)
「きゅぷ、きゅん」「ち、りりん」
「おはよう、ベルちゃんらんちゃん」
「ふみゃあ」「にゃ……にょ」
「まだオネムみたいだね」
「おはよう、あるじ様」
「おはよう、リリー」
リリーがお家の3階から顔を覗かせる。
「おはようございます。クイーン・リリー」
「おはようございます。くうさま」
(あれ? 確かダッシャーは呼び捨てじゃなかった? これは、ふふん?)
「昨夜は遅くまでお疲れ様でしたね。変調はございませんか?」
「えぇ、ちょっとドキドキして寝付けなかったけれど、元気よ」
「遅くまで何してたの?」
「ふふふ、これよ。あるじ様」
リリーが部屋から出て来て、ホバリングしたのは霊樹の室に作った、45個の小部屋が連なる蜂の巣の前だった。
お腹を上にへそ天して二度寝しているベルちゃんとらんちゃんを起こさない様に、そっと霊樹のソファベッドから降りる。
巣の中を覗くと、細かな粒子をキラキラと纏う『卵』が産み落とされていた。
「全然気づかなかったよ。お世話してあげられなくてごめんね」
「いいのよ。むしろ邪魔だわ」
「え?――」
「クイーン・リリー。それでは真意は伝わりませんよ」
「くうさま、ごめんなさい。そうね、アン様は見た目は女の子でも、中身は男の子でしょう?」
「分かってくれて嬉しいよ」
「男の子は『出産』の時には、お手伝いは出来ないのよ」
「確かに頼りにはならないかもだけど、傍で見守ること位は僕でも出来るよ」
「それが邪魔なのよ。心配そうにウロウロされたら集中出来ないわ」
「確かに、僕はきっとウロウロするだろうな――」
「その点、くうさまは頼りになるわ。静かに見守ってくださって、本当に心強かったわ」
「私の使命はアンお嬢様をこの身を掛けてお守りすることでしたから、リリー殿のことは見守ることしか出来ず、力不足が悔やまれます」
(上手いな、ダッシャーとの違いがありありだ。そりゃリリーも好きになっちゃうよね)
それはさておき、赤ちゃんたちはそろそろお腹を空かせている頃だろう。
リリーのドールハウスの3階を覗き込んで声を掛ける。
「みんな、起きてまちゅか~」
「おはようございます、アンおねえちゃま。ママンも、麗しき朝をお迎えですね」
驚いて更にグイッと部屋の中を覗き込むと、そこにはすっかり幼児の姿に成長したホワイト(ガトー・ブラン)がいた。
自身の魔力で編んだのだろうか? 純白のパジャマの襟を正し、凛と背筋を伸ばして立っている。
「おはよう! 朝の光に負けないくらい、眩しいアンおねえちゃま」
ルビーレッドのパジャマを着たレッド(ガナッシュ・チェリー)が、まだ短い翅をパタパタと羽ばたかせてアンの胸へと飛んできてウインクをした。
「こら、チェリー。アンおねえちゃまに突撃してはいけないよ」
もちもちとした手でレッドの肩をそっと抱き、ゴールド(ガレット・ブール)が優しくたしなめた。
「他の子達はどこかな?」
――フフッ、アンおねえちゃま、ここですよ。
パープル(グラッセ・ミュール)は、カーテンの陰から幼さを忘れさせる妖艶な笑みを浮かべ、じっとこちらを見つめている。
「ミュール! 隠れて驚かそうなんてダメだぞ、勝負は正々堂々とだ!」
部屋の奥から響く凛とした声はブルー(グラニテ・シトロン)だ。水色のパジャマの裾をマントの様にひるがえし、部屋の中を飛び回って、ヒラリと逃げるパープルを追いかけている。
「うわぁ……! みんな、もうそんなに大きくなっちゃったの!?」
またしても赤ちゃん言葉だった自分が恥ずかしくなる。
目の前でパタパタと元気に飛び回り、格好よくて愛らしい仕草を見せる5人の子供たちに、愛おしい気持ちでいっぱいになった。
さて、朝ご飯にしよう。
「みんな、何が食べたい?」
5人は一斉に顔を見合わせて、可愛らしく小首をかしげた。
「アンおねえちゃまが僕たちのために選んでくださるものなら、何であれ僕には至高のメニューです」
ホワイト(ガトー・ブラン)が胸にそっと手を当て、完璧なウインクをくれる。
「うん! アンおねえちゃまとママン、くうさまやベルちゃん、らんちゃんとも一緒に食べたいな! みんなで食べたら、とってもとっても美味しいよ!」」
レッド(ガナッシュ・チェリー)がルビーの瞳をきらめかせて無邪気におねだりする。
「うん、みんなで一緒に食べようね」
「お花畑の管理を任される身としては、このお花たちの蜜や花粉の味も気にはなりますが……まだこの小さな躰では十分に集めることが出来ないのが、少し悔しいですね」
ゴールド(ガレット・ブール)が誠実な目で見つめる。
「ここのお花畑のではないけど、はちみつと花粉は持っているよ? 後はこの巣蜜」
「うわぁ、キラキラと輝いて何て美しいの」
取り出したのは黄金色に輝く大きな『巣蜜』だ。蜜蝋で作られた六角形の巣のなかに、完熟したはちみつが閉じ込められた贅沢な塊。
言わずと知れた、おばあちゃんのお手製だ。
「これ、食べてみる?」
――うんうんうんうん。
みんな黙って首を振っている。
「じゃあ用意するから少し待っててね」
リリーの子供たちには巣蜜を小さくカットして、お水と一緒にだそう。
くうとベルちゃんらんちゃんにも巣蜜を乗せて、ハニートーストにしようかな。




