↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
59/90

第五十九話 聖風の回廊は慈愛の道でした~水路横の疾走~

 ダッシャーからの提案で、急いで沼まで戻ることにした。

 商人ギルドの連中はすぐ近くまでたどり着いている状況だ。


 ダッシャーの背に跨る。

 セオドア王とシアンさんも『フィデロ』と『パドラス』に跨ると、一人だけ自らの足で走って来た男が茫然と立っていた。


「また俺だけ置いてけぼりか? まぁ走るのは慣れっこだ。俺を気にせず全力で行ってくれ」

「誰もお前を気になどせぬわ。そもそもお前は居残りだ」

「ダッシャー様まで俺をそんな扱いですか?」


「違うと思いますよ。僕たちは沼まで全力で走りますが、沼と水路の様子はダッシャーの遠視で掴めています。水路の堆積物を流すには一気に川の水を流す必要がありますが、沼が溢れる前に水門を閉じなければならないですよね?」


「それはそうだな。――まさかそれを俺にやれって言ってるのか?」

「理解が早くて助かります」

「やれやれだ。だが、後から来る商人ギルドの連中の絶望した顔が拝めるんだ。まぁ良いってことよ」


 ◇◇


 水路上の開けた場所から沼地の方を見やる。

 ダッシャーの『聖樹の加護(ディバイン・フラップ)』が放たれると、その道は奇跡の道へと変貌した。


 神獣の羽ばたきは一振りで木々をなぎ倒し、瞬時に細かなチップとなり地面を覆う。同時に掛かる圧力により踏み固められる。

 それはかつての噴火によってもたらされた巨岩を隠し、泥を埋め、激しく地を蹴ろうとも、馬たちの足を痛めぬ究極の衝撃吸収路へと姿を変えた。


 水路を濁流が物凄い勢いで進んでいる。


「行くぞ! 遅れるな!」


 水路の横に出来た奇跡の道をセオドア王とシアンさんが駆ける。

 馬たちの視線の先には、敬愛するダッシャーの姿があった。


 水の大蛇の頭を猛追する。


「ドドッドドッドドッドドッドドッドドッ」「ダダッダダッダダッダダッ」


猛追する馬の足音は「ゴオオオオ」と言う水の大蛇の唸り声にかき消される。


「先に行くぞ」


 ダッシャーは『フィデロ』と『パドラス』の目線に合わせて低空を駆ける。

 神獣のその声は、彼らの魂を震わせ、その背を力強く後押しした。

 今度こそ置いていかれたくない──その一心で、馬たちの熱き血潮が沸騰する。憧れの存在が告げた言葉に導かれるように、二頭はさらなる猛加速で地を蹴り上げた。


 『聖風の回廊(ディバイン・ロード))』その拓かれた空間は空気の抵抗が完全に消失し、沼へ向かって吹き抜ける猛烈な聖風が、その背を力強く押し出す。

 ダッシャーの生み出した慈愛に満ちた空間は、高濃度の生命エネルギーに満ち溢れ、その疲労を消し去り、限界を引き上げる。



 空気抵抗と衝撃をなくした、疲れを感じさせないその奇跡の道、『聖風の回廊(ディバイン・ロード)』。


 大蛇の首元に並びかけ、その鼻先を前方へと追い抜いた。

 そして『フィデロ』と『パドラス』は水の大蛇を背後に置き去りにし、沼の開けた景色へと豪快に滑り込んでいった──。

 そこに立つ、神々しいまでにキラキラと輝く、敬愛する神獣ペガサスユニコーンの望むままに。


「良き走りであった。お主たちの主も、さぞ誇らしいであろうな」


 聖獣からの最高の褒め言葉に、2頭は嬉しそうに首を振り、甘えるように鼻を鳴らした。


 馬の背から同時に降り立ったセオドア王とシアンさんは、お互いの顔を見合わせて呆然としていた。

 水の大蛇を抜き去るほどの、文字通りの『激走』だったのに、ダッシャーの張った『聖風の回廊(ディバイン・ロード)』は、空気抵抗を完全に消し去り、さらには乗馬中に感じるあらゆる衝撃や揺れを、すべて地面へと優しく吸い込ませていたのだ。


「……ダッシャーよ。私は今、生涯で最も恐ろしく、最も心地よい馬術を経験したぞ……!」


 セオドア王が、愛馬フィデロの首筋を撫でながら、歓喜に満ちた声を上げた。


「……神獣様の加護とは、これほどまでに優しい奇跡なのですね」


 シアンは、深い畏敬の念を込めて、きらきらと輝くペガサスユニコーンを見上げた。



「そろそろ水門を閉めないとマズくないかな?」


 一足先に沼地の様子を見ていた僕は、ダッシャーのそれよりも水量が気になっていた。

 水は勢いを増したまま、沼に流れ込んでいる。

 すり鉢状になった沼地の、地面ギリギリの高さ近くまで水位を上げていた。


 だが、その水面は溢れるギリギリのラインで上昇を止めている。


「流れ込み続けているのに何で溢れないんだろ?」

「水面が渦を巻き始めたな。それが答えだろうな」

「……溢れていない。それどころか、吸い込まれているのか!」


 セオドア王が驚き、声をあげる。


 その視線の先には巨大な渦がグルグルと巻き起こっている。凄まじい水圧に圧された水が、沼の底にある『見えない何か』に向かって、ゴゴゴゴゴ……と大地を震わせながら地深くに吸い込まれていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。