第五十七話 クレイパックの効果は絶大です~ツルピカふわもこ完成~
ダッシャーへの歓声が鳴りやんだのを見計らって、セオドア王のお馬さんたちに声を掛ける。
「さぁ、お待たせ。次はフィデロとパドラスの番だよ」
先ずはセオドア王の愛馬、フィデロに【電動シャワー】のガンノズルを向ける。柔らかな温水が優しく包み込んでいく。
「シュワッ! シャァァーーー」
「ぶるるるぅ……」
うっとりと目を細めて気持ちよさそうに鼻を鳴らす。首筋にこびりついていた泥パックが、サクッと面白いくらい滑らかに剥がれ落ちていく。シャワーが通り過ぎた後には、まるで夜空のように深く、美しく光を反射する極上の毛並みが眩しく蘇っていた。
「さぁ、次はパドラスだよ」
ノズルをシアンさんの愛馬に向ける。
「ヒヒィィン!?」
パドラスの大きな耳がピーンと立ち、気持ちよさそうに声をあげる。
付着した汚れを分解した泥パックは、ザーッと水路へ洗い流されていく。
ピカピカに磨き上げられたパドラスの毛並みは、まるで洗練された鋼鉄のように美しく輝きを取り戻した。
パドラスはチラッとシアンさんを見ると、嬉しそうにパカパカと脚を動かした。
「ほぉ、これは見事な毛並みだな」
「つやっつやですね。だとすると、もしかして私も?」
シアンさんが少しだけ顔に飛び散ったクレイを気にする。
この流れだと次は自分と言いだしそうなので、急いでベルちゃんたちに向き直る。
「じゃあお次はベルちゃんとらんちゃんに、お湯を掛けますよぉ」
「きゅきゅいきゅーーい。ママぁこっちこっち」「チリリンあったか欲しいの」
子供たちにお湯を振りかける。扇状のお湯は優しく二人を包む。ついでに自分にもお湯をかけてクレイを流す。
「もうそろそろ泥んこ遊びもお開きだから、僕も流しておかないと子供たちにまた泥が付いちゃうからね」
泥まみれだったベルちゃんは「ぷるるるぅ〜ん!」と、とろけそうな声を上げて、ポンポンと弾む。
泥が完全にはぎ落されたその体は、くすみが一切消え去り、まるで高級な宝石のように透き通った輝きを取り戻していた。いつも以上に弾力が増して、プルプルと元気いっぱいだ。
続けてらんちゃんにお湯を向けると、その下でくるくると回りながら大はしゃぎだ。特性のクレイは温水を浴びた瞬間、サクッと面白いくらい滑らかに剥がれ落ちていった。
「ベルちゃんはともかく、らんちゃんは乾かした方が良いね。ちょっと待って」
【アイテムボックス】から『ドライヤー』を取り出しそうになって気が付いた。今はダメだ。
「危なかった。またお花畑が満開になるとこだった」
「何だ?」
「あぁ、らんちゃんを乾かしてあげたいんだ」
「風と火で温風は出せるぞ? 魔法訓練をした時に言われなかったか?」
自らの魔法ですっかり乾いているダッシャーに有体に言われた。
(教えてくれたのは『くう』だけどね)
少し考えて、まずはタオルドライする。
「ベルちゃん、らんちゃんおいで~。乾かすよ」
広げたタオルの上にベルちゃんが「ポーーン」と飛び乗り「ポンポン」する。
「こらこら、危ないでしょ?」
「チリリンキャッキャ」してすっかり乾いたベルちゃんをダッシャーの背に乗せる。
続けてらんちゃんをタオルでポンポンと拭く。ある程度乾いたらいよいよ魔法だ。
「らんちゃん、『ガーーー』行くよ? 大丈夫だからね。『ガーーーーー』」
言葉でドライヤーの音を出して魔法を唱える。
「『微熱抱擁』」
柔らかな春風の渦が、らんちゃんの体をふわりと包み込んだ。
「ふわわわわぁぁぁぁぁ……」
「先ほどの『ガーーー』は何だ?」
「あ、いや。気にしないでいてくれると嬉しいよ」
「お主、自分がびしょ濡れではないか」
「でもダッシャーの『雷導水球』って時間が経っても温度が下がらないから、ほら、濡れてても温かいんだよ」
「だが、子らがまた濡れるぞ?」
それもそうか、らんちゃんを乾かしながら自分にも風を当てる。
すっかりキレイに乾いた後に現れたのは、誰も触れたことがないほどの、ふわふわもこもこの極上の毛並みだった。
「トリートメント効果もあるのかな? すっごいふわふわで気持ちいいよ」
らんちゃんを抱きしめてすりすりする。
ベルちゃんが飛びついてくる。せっかくキレイになったんだ。落としちゃいけないから慌てて抱きとめる。
「きみたちツルツルピカピカふわふわもこもこですねぇ。とびっきり可愛いですねぇ」
二人をギュッと抱きしめてすりすりなでなでする。
「おい、俺のことすっかり無視してるだろ?」
誰かうるさいけど無視して先にセオドア王達だ。
「全身にクレイは塗りたくりましたか? 顔も頭も全部ですよ」
「顔もですか?」
「頭も?」
「えぇ、本当は全部脱いで直接地肌に塗りたいところですが、流石は今は無理ですので、せめて顔は塗ってください」
「え、いや。私は先ほどの『パドラス』が、わざと! 跳ねさせた泥がついてますのでこれ以上は……」
「全然付いてないではないか」
ぺちっとセオドア王がシアンさんの顔にクレイを飛ばす。
「あぁっ!! お前、テオ! いい加減にしろよ。俺がこう言うの嫌いだって知ってるだろ!?」
「そうだったか? だが悪い物では無いぞ?」
楽しそうに泥を投げ合っている。仲いいなぁ。
でも、せっかく子供たちをキレイにしたばかりだ。流れ弾には当たりたくない。
「あ! この間にサクッと片付けてしまおうか」
ダッシャーにまたがると、そのまま空へと駆け上る。
「用事を済ませてすぐ戻ってくるので少しだけ泥湯で遊んでいてください」
「俺はぁぁぁぁぁ?」
「まだ話しがあるのでそこで大人しく待っててください」
ルシアンさんに言い捨てて洗剤を撒いていない水路へと向かう。
「急にどうしたのだ?」
「今日の内に洗剤だけは撒いておこうと思ったんだよ」
「きゅう……すぴぃ」「チリ……リリン」
子供たちはすっかりオネムの時間の様だ。スリングの中ですやすやと寝入っている。
「空から撒くだけで良いのか?」
「まずは洗剤を撒きながら沼地まで行って、帰りは熱水を撒きながら戻りたいんだ」
『洗剤』を両手で掴んで少しずつ水路に撒く。すぐさまダッシャーが静かに風の渦を巻きあげ薄く広げていく。
商人ギルドの建物までくると、残った洗剤は、全部水車に撒いた。
「よし、じゃあ帰りはウォーターバルーンを出しながら戻るから60℃にしてね」
「『水風船』『水風船』『水風船』『ポォォップ』!!!」
大きな水風船を小さな水風船に変えて、ダッシャーに熱水に変えて貰う。
「お主、大きな水風船だけで良いぞ」
僕が一生懸命やってるのを見兼ねたのか面倒になったのか、小さくはしなくていいと言われた。
そもそも僕が水を出さなくてもダッシャーならそのまま熱水が出せるんじゃないか? そう思いつつも全部ダッシャー任せじゃ申し訳ないと思って頑張ってバルーンを出し続ける。
また『エリクサー』みたいなものが出来ても恐いしね。
「『水風船』! 『水風船』!! 『水風船』!!!」
ダッシャーから発せられた魔力の光が水風船へと伝い、「ボンッ! バシャッ」と爆ぜると同時に薄い湯気が上がる。
「ゼ、ゼーゼー――。そ、そろそろ限界かも」
「よく頑張ったな。もう大丈夫だ」
気が付くと上流からクレイとなった堆積物が、ゆっくりと流れて来ていた。
そのままダッシャーの上にぐったりと倒れ込むと、ダッシャーの体からふわふわとした柔らかい光が溢れ、僕を包む。とても優しく心地よいその光は、僕の疲れも魔力切れも、一瞬で回復させてくれた。
「ありがとう」
そのままダッシャーに抱き着いたまま、セオドア王達のところへと戻った。




